第96話 魔物の生態系異常7
夕日が綺麗に見える時間帯となった。
青いドラゴンであるミズキと行動を共にすることになったスグルとエリーナは、山脈都市マトンへ戻ってきた。
ミズキは今まで街の外で生活をしていたので、人間の世界で使用する身分証はもちろん持っていない。
私が辺境の街フロンダに初めて来たときと同じような状況というわけだ。
(あれからまだ数ヶ月しか経ってないんだったな)
私が異世界にきてから、辺境の森の中で1年ほど修行をしていた。この修行していた期間よりも、人里で生活していた期間のほうがまだ短いのだ。
ただ、その短い数ヶ月の間にも様々な出来事があった。ミズキもこれから色んな体験をすることだろう。
「身分証は?」
私たちは山脈都市マトンの門兵にギルドカードを見せた。ミズキはもちろん持っていない。
「この子は森の中で迷子になっていて、身分証を持っていないんです。これから作りに行きます」
私が以前ドナートさんにしてもらったように、今度は私がミズキに同様の対応をした。こういうふうに次へ次へと親切が繋がっていくと、直接的ではないが間接的にドナートさんへ恩返しが出来たように思える。
でもまぁ魔物のミズキから次に繋がることはないだろうけどね。その辺は気にしないようにしよう。それはそれ、これはこれだ。
山脈都市マトンの門をくぐり、街の中に入った。魔物の生態系異常で街中はまだピリピリした雰囲気だ。そんな中に
「人がいっぱい・・・」
「ここは人の街だからね。ここではドラゴンにならないように気をつけてね」
ミズキは見るものすべてが初めてのようで、目をキラキラさせながら周りを見ていた。時折、エリーナに置いていかれそうになるが、私がミズキの手を引っ張って遅れないように付いていく。
私たちは冒険者ギルドへ行き、ミズキのギルドカードを作成した。もちろん代金は私持ちだ。
その時、冒険者ギルドの職員に『こんな小さな子供が冒険者登録するの!?』といった心配と疑いと不安の入り混じった視線を向けられたが、エリーナという貴族かつ年上の保護者のような存在がいたおかげで、渋々ながらも了承してもらえた。
私はというと・・・無力でした。
13歳の子供が8歳の子供について説明をしても、どちらも子供なので見ている側からすると、ただ庇護欲を刺激されるだけだった。
職員からは『冒険者にはなったけど、8歳だということを忘れずに、安全第一で依頼を選ぶように』と念入りに釘を刺された。
『この子は水竜ですから大丈夫ですよ』とはもちろん言えないので、『わかりました』と子供らしく返事をして、冒険者ギルドを後にした。
ちなみに冒険者支援制度は利用していない。ミズキとは無理して師弟関係にならなくてもいいだろう。
これからミズキには人の世界で覚えなければいけないルールがたくさんある。人間の生活に馴染むことを目標に徐々にやっていこう。
冒険者ギルドを後にして、ロイさんの屋敷に向かう。ロイさんは今回の指名依頼の依頼者なので、事の顛末を報告しに行くのだ。
そう、行くのだが・・・この子のことをどう説明しようかな。魔物の生態系異常の元凶と言えば、確実に討伐対象にされてしまうだろう。となると誤魔化すしかないかな。
私もミズキと出会ってまだ数時間なので、彼が完全に無害だとは言い切れない。もちろん街なかで暴れたりしても私は制圧出来るし、青いドラゴンではなく見た目通り8歳の男の子だとして見れば、すぐに討伐されることはないだろう。
そんなふうに悩んでいるうちにロイさんの屋敷に到着した。護衛騎士に面会を依頼すると、今から夕食だそうで、報告ついでに同席することになった。
執事に案内された部屋に入ると、長いテーブルを挟んだ向こう側にロイさんが座っていた。
「夕食時にお邪魔してすみません」
「さっきぶりだね。今日のお昼に出掛けていって、まだそんなに時間が経ってないけど、まさかもういい報告が聞けるのかな」
予想以上に早い訪問に、ロイさんは期待の眼差しで私たちを見つめてきた。そして、私の後ろにいる小さい男の子に気が付くと、一瞬考えるような顔になったが、すぐに表情を元に戻した。
「君たちも夕食はまだだよね。一緒に食べながら報告を聞こうか。そっちの少年も座りなよ」
そう言うと、私たちはそれぞれの席に案内され、皆の分の夕食が準備された。
「それじゃあ、いただこうか」
ロイさんの号令と共にお食事会は始まった。
◇ ◇ あとがき ◇ ◇
人物紹介
【スグル】
主人公。
【エリーナ=ロンダルタント】
王都調査員の護衛騎士だったが、スグルに弟子入りを希望。冒険者ランクA相当の実力があるが、冒険者支援制度(師弟関係)を利用するために冒険者ランクFとして登録した。
【ミズキ】
魔物ランクAの水竜。青いドラゴンの姿だと人と話せないが、見た目が8歳の男の子に変身すると会話が出来る。
【ロイ=ハルバートン】
辺境の街フロンダに来た王都からの調査員。貴族。今は山脈都市マトンで足止めをくらっている。
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