第95話 魔物の生態系異常6

某ゲームソフトで似たような展開があった。そのゲームでは倒した魔物が起き上がり、こちらを見つめてくるのだ。この展開は・・・まさかね。



「私たちはこれからすることがあるから移動しなきゃいけないんだ。君も移動するって言ってたよね?」


「そうだけど・・・」



男の子はまた寂しそうな顔をしてこちらを見てきた。今まで1人だったのだろう。なかなか話せる機会がなかったが、ようやく話が出来る人と出会ったのだ。


最初は殺されるかもしれないというトラブルはあったが、今はそういう状況ではない。ここでこの人たちと別れたら、また1人になってしまう。そう考えたら心細くなったのかもしれない。


私も普通なら子供1人を置いて立ち去るのは気が引ける。ただ忘れてはいけないのが、この子は『魔物ランクA 水竜』なのだ。魔物世界は弱肉強食と言えど、ランクで言えば上位に位置する危険な魔物なのだ。



「師匠、行こう」


「ちょっと待って」



男の子を刺激しないようにエリーナには私たちから少し離れたところにいてもらっているが、ここにはもう用なしとでも言うように、エリーナは次の場所へ行こうと催促してきた。


男の子は私がエリーナについていってしまわないように引きとめようとして、私ももう少し話をするかと思い、その場に留まった。



「えっと、君はどうしたいの?」


「・・・一緒に連れてって」



男の子は仲間になりたそうにこちらを見つめてきた。この状況を傍から見たら、小さい子供がお願い事をしているように見えるだろう。


そして私たちは、その子のお願いを聞かずに魔物の出るこの場所に男の子を置き去りにしようとしている残酷な人たちに見えることだろう。


ただ幸いにも周りに他の人はいないので、そういうことにはならないだろうが・・・



「師匠、連れていこう」


「ねぇ、お願い!」



エリーナは男の子の意見に賛同した。一緒にいれば戦える機会があるかもしれないと期待しての行動だろう。なんとも変わり身の速いことだ。


男の子は顔の前で手を合わせて、目を閉じてお願いのポーズをしている。時折、手の横から私の顔をチラチラ見て、返事が気になっているようだ。



(はぁ、厄介事が増えてしまうけど・・・仕方ないか)



この子をここに置いていくつもりだったけど、そんな仕草でお願いされたら、良心が痛むというかなんというか。この子に悪意はないということはなんとなくだがわかる。


もしも青いドラゴンが心の奥底で『コイツらチョロいぜ。ぐへへへへ』とか思っていたら、私の見る目がなかったと思うしかない。



「わかった。じゃあ一緒に行くかい?」



魔物ランクAの水竜がどのような過程を経て大人になるのか私は知らないが、これも何かの縁だと思い、一緒に連れていくことにした。



「ほんと!?うん、ありがと!」



青いドラゴンは満面の笑みで私に抱きついてきた。なんか急にだけど弟が出来みたいで嬉しくなるな。ついつい頭をなでなですると、男の子も嬉しそうな顔をした。



「そうと決まれば、お互いのことはなんて呼ぼうか」


「人間のことよくわかんないから決めていいよ!」



青いドラゴンだといつかはバレるかもしれないが、人の姿でいれば年相応な反応だし、案外バレないかもしれないな。



「とりあえず私のことはスグルって呼んでね。で、あそこにいる彼女はエリーナ。そして君は水竜だから・・・ミズ・・・キ、うん、君の名は、ミズキだ」


「ぼくの名前はミズキ・・・。うん、分かった、スグル!」



青いドラゴンの呼び方が決まり、自分の名前を忘れないようにするためか、男の子は小さい声で「ぼくはミズキ、ぼくはミズキ、ぼくはミズキ・・・」とつぶやきながらニヤニヤしていた。


今後のことは山脈都市マトンに帰りながらミズキと話せばいいだろう。彼が魔物だとバレないために気をつけなければいけないことなど、ミズキがちゃんと覚えられるか心配ではあるけどね。



私たちとは少し離れた場所にいたエリーナは、話が終わってもう移動するだろうと思い、こちらに近づいてきたが、ミズキはそれに気が付くと私を挟んでエリーナとの対角線に移動した。



・・・2人とも、仲良くしてくれるといいな。


そんな叶わない願いを胸のうちに秘めて、私たちは帰路についた。


◇ ◇ あとがき ◇ ◇

人物紹介


【スグル】

主人公。早川傑ハヤカワスグル35歳が異世界転生した。今は13歳に若返っている。冒険者ランクD。


【エリーナ=ロンダルタント】

王都調査員の護衛騎士だったが、スグルに弟子入りを希望。冒険者ランクA相当の実力があるが、冒険者支援制度(師弟関係)を利用するために冒険者ランクFとして登録した。


【ミズキ】

魔物ランクAの水竜。青いドラゴンの姿だと人と話せないが、見た目が8歳の男の子に変身すると会話が出来る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る