第94話 魔物の生態系異常5
エリーナと青いドラゴンは、スグルのスキル《威圧》によって川で気絶してしまったため、スグルは急いで2人を担ぎ、平らなところへ移動して寝かせた。
目を覚ますまで少し時間があるだろうから、スグルは青いドラゴンを改めて鑑定してみた。
『魔物ランクA 水竜』
今までの戦いでも水系統のスキルを使っていたので、予想通りの名前だった。子供姿で魔物ランクAということは、大人になったら魔物ランクSやSSになるのだろうな。
「・・・こ、ここは?」
先にエリーナが目を覚ました。エリーナの持っていた剣はすでにこちらで回収済みなので、いきなり青いドラゴンに斬りかかることはないだろう。
「起きたね。ここはさっきの場所とそんなに離れてないよ。それより話が終わるまではもう青いドラゴンと戦わないでよ」
「・・・了解した」
気絶して戦闘が中断されたからか、興が削がれたようで、エリーナは落ち着きを取り戻していた。もう大丈夫だろうとエリーナに剣を返して、青いドラゴンを起こすためにエリーナには少しこの場から距離をとってもらった。
「じゃあ起こすね。聖魔法 《エクスキュア》」
「・・・グルゥア?」
聖魔法 《エクスキュア》は気絶などの状態異常を回復するスキルだ。青いドラゴンの体から淡い光が出ると、青いドラゴンは目を覚まし、辺りをキョロキョロ見渡した。状況を確認しているようだ。
「さっきはいきなりごめんね。少しお話したいから、人の姿に戻ってくれないかな?」
スグルがそう言うと、青いドラゴンは光に包まれて男の子の姿に戻った。服込みで変身できるようで、ポロリの心配はなさそうだ。
「・・・もうイジメない?」
「もう大丈夫だよ。エリーナにも注意したし。急にいろいろごめんね。私の名前はスグル。君の名前は?」
「名前なんてないよ」
もともと魔物だったし、名前をつける習慣がないのだろう。なんて呼べばいいか悩むところだけど、今回限りの関係だし、このままでいいか。
「君はどうしてここにいたの?」
「体が汚れてたから水浴びしてた」
「この辺の魔物の生態系がおかしくなったんだけど、何か知らない?」
「知らない。お腹すいたー」
見た目8歳の男の子だからか返答も短く、ただの子供と話しているように感じる。でも本当は青いドラゴンで魔物ランクAだし、油断は禁物だ。
「おい、本当のことを言え!」
「ホントに知らないよ。ぼくが何したっていうの?うぅ、、、うぅわぁああ」
離れたところからエリーナが口を挟むと、男の子は泣き出してしまった。いきなり斬りかかってきた相手なので、怖い人と思っているのかもしれない。
このままだと話が進まなくなるので、エリーナには口を挟まないように言い、男の子をなだめ、アイテムボックスから串焼きを取り出した。
「ほら落ちついて。お腹空いてるならこれ食べる?」
「ぐすっ・・・うん」
そう言うと男の子は私から串焼きを受け取って食べ始めた。子供だからか、先程まで泣いていたのにそれを忘れたかのように、美味しそうに食べていた。
「ところでさ、この辺でパパボアが増えているらしいけど、何か心当たりある?」
「パパボアは知らない。ママボアはおいしいから食べてる」
なるほど。もしかしてこの子がママボアを食べるからママボアの数が減って、この状況を打破しようとママボアを守るためにパパボアの数が増えたのかな。
そう考えると『パパボアの割合が増えてる』ということへの辻褄が合いそうな気がする。魔物の増え方については、卵なのか、自然発生なのか、進化なのか・・・よくわからないけど、予想は大きく外してないだろう。
「君は以前この辺にいなかったよね?移動して来たの?」
「この辺にいたよ?今まで寝てたけど、なんか危ない感じがして飛び起きたの」
青いドラゴンはこの辺に前からいたらしいけど、今まで寝ていたから大きな影響はなかったのだろう。で、この子が起きたことにより、周りの魔物が警戒して生態系に影響が出たと。
もしくはこの子が起きて少し移動を始めたから、それに合わせて魔物の生態系も少し移動してしまったとか。
「じゃあ起きたのっていつ頃?」
「この前!」
男の子に日付を尋ねても、今と昔と未来の三区切りでだいたい済ませる感じで、正確にはわからなかった。子供だと思えば仕方がないか。
「危ない感じって具体的には?」
「なんか近くで強い火の魔法を感じたの。ビックリして飛び起きちゃったの。でもそれっきりでなんか大丈夫だった。けどやっぱり心配だから移動しようとしてたの」
火の魔法を誰かが近くで使ったらしい。そろそろ移動する予定だったのか。今回の魔物の生態系異常の原因がこの子だったのなら、自然と問題は解決されたのかもしれないな。
「なるほど。ところで親は近くにいるの?」
「いないよ」
ドラゴンの子育てがどういう感じかはわからないが、この子以上の脅威はないとわかってひと安心だ。移動するって言っていたし、無理に討伐しなくてもいいだろう。
というか、魔物ランクAを討伐できる程、私たちの冒険者ランクは高くない。私が冒険者ランクDでエリーナが冒険者ランクF。討伐したことを報告したら、確実に面倒事に巻き込まれそうだ。
男の子は悪い子じゃなさそうだし、このままさよならしてもドーラさんには影響はないだろう。少し話した相手だし、今さらこの子を討伐するのは・・・なんか無理だな。せめて盗賊みたいな悪党だったら後腐れなく討伐できただろう。
「いろいろわかった。ありがとう。大丈夫だとは思うけど、気を付けて移動するんだよ」
男の子にお土産と称して串焼きを追加で渡し、エリーナと共にその場を離れようとした。エリーナは魔物ランクAと戦えず残念そうな顔をしたが、師匠の言うことということで渋々ながらも従ってくれた。
「・・・え、行っちゃうの?」
男の子は寂しそうな顔をしてこちらを見てきた。
◇ ◇ あとがき ◇ ◇
人物紹介
【スグル】
主人公。
【エリーナ=ロンダルタント】
王都調査員の護衛騎士だったが、スグルに弟子入りを希望。冒険者ランクA相当の実力があるが、冒険者支援制度(師弟関係)を利用するために冒険者ランクFとして登録した。
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