第91話 魔物の生態系異常2

山脈都市マトンの近くにある鉱山エリアにいた兵に、強い魔物の気配について尋ねてみた。



「私は直接その場にいたわけではないが、聞いた話では強い魔物の気配がしたのは山の向こう側だそうだ。ぐわぁーって鳴き声が聞こえて、地面が揺れたって言ってたな」


「そうなんですね。でもその後の調査でもまだ魔物は見つかっていないんですよね?」


「そうなんだよ。仕事でここに配置されてはいるけど、早く解決してほしいよな」



兵の愚痴が混じりながらも、事情聴取することが出来た。エリーナは最初の挨拶を済ませた後は、手持ち無沙汰になったのかその辺をぶらぶら歩いていた。変わり身の速いこと。




私たちはその場を離れ、今後の方針を考えた。


鉱山エリアは冒険者が調査していると言っていたな。そこにいる兵も無事そうだし、強い魔物は気配を消してどこかに移動したのだろう。


ただ鉱山エリアの向こう側、さらに奥地に行った可能性は低いと思う。


強い魔物の気配を感じ取ったパパボアがこちら側に逃げてきたんだろうけど、私がパパボアと遭遇してからすでに30日ぐらい経過している。それぐらい時間が経てば生態系の異常はすでに落ち着いていそうだけど、まだ続いているということは、強い魔物はこちらのマトン側に移動したとみていいだろう。


では森エリア、岩石エリア、水エリアのどこに魔物は移動したのかというと、手掛かりがないのでお手上げだ。スキル《探索》や《索敵》を使用して地道に歩きまわるしかないかな。


《探索》はMP10消費して半径100mの範囲の状況を把握するのに対し、《索敵》はMP50消費して半径1kmの範囲の状況を把握できるスキルだ。クールタイムはどちらも1分。


今回は《索敵》で広範囲をしらみつぶしに調べた方が、結果的に速いかもしれない。



「エリーナ、手掛かりがあまりないから、山脈都市マトンの外を地道に調べていこうと思うけどいい?何かいい案あれば教えてほしいんだけど・・・」


「私は師匠に付いていくだけだ」



・・・特に考えはないみたいだ。





私たちは森エリアに戻った。


この辺の普段の魔物分布はよく知らないが、以前読んだ資料によれば魔物ランクCぐらいまでだったはず。強い魔物ということなので、スキル《索敵》で魔物ランクB以上の魔物を調べてみた。



「ここにはいないみたいだね。次に行こっか」


「師匠は今、《探索》を使ったのか?」


「いや、《探索》よりも上のスキルだね。近接型のエリーナには不要のスキルだし、そのスキルは私が使うよ。エリーナは出てきた魔物の露払いをよろしく」


「了解した」



エリーナが出てくる魔物を次々に倒していく。そのため私はスキル《索敵》を使いはするが、ハイキングをしているかのように森林浴をしながら森エリアを歩いていた。師匠の特権というやつだ。


ちなみに魔物の解体は後回しにしている。捜索範囲が広いということもあり、すぐに見つからなかった場合、解体で時間をくうのはもったいないので移動を優先させた。


もちろん、ゴミ拾いというか倒した魔物はちゃんと回収しているよ。森を汚さない、ごみは持ち帰る。ハイキングのマナーですからね。


そんな感じで森エリア、岩石エリア、水エリアを調べていった。



『魔物ランクA ???』



お、ようやく《索敵》に引っかかったようだ。初めて会う種類の魔物やユニーク種の場合は???で表示されることがある。どんな魔物なのかは会ってからのお楽しみかな。


その魔物は今どうやら水エリアにいるらしい。川で水を飲んだり、水浴び中なのだろうか。



「エリーナ、魔物ランクAを見つけた。警戒しながら近づいてみるよ」


「魔物ランクA!・・・よし、行こう」



エリーナが気合を入れたようだ。強い魔物といよいよ戦えるとわかり、浮足立っている。


魔物ランクAを倒すには冒険者ランクS相当の力が必要となる。エリーナは確か冒険者ランクA相当の実力だったはず。修行でさらに強くなったとはいえ、ソロだと苦戦することだろう。



「エリーナがメインで戦おうとは思うけど、魔物ランクAだと危険もあるだろうから私も参戦するね」


「くっ、仕方ない。了解した」



エリーナは苦々しい顔で本当に渋々といった感じで了承した。


さて、何が出るやら・・・。


◇ ◇ あとがき ◇ ◇

人物紹介


【スグル】

主人公。早川傑ハヤカワスグル35歳が異世界転生した。今は13歳に若返っている。冒険者ランクD。


【エリーナ=ロンダルタント】

王都調査員の護衛騎士だったが、スグルに弟子入りを希望。冒険者ランクA相当の実力があるが、冒険者支援制度(師弟関係)を利用するために冒険者ランクFとして登録した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る