第90話 魔物の生態系異常1

ロイさんの屋敷を出て、私たちは冒険者ギルドに向かった。今までの調査で分かっていることを聞くためだ。冒険者ギルドに入り、受付の方と話をする。



「指名依頼の内容が決まりましたので、手紙を預かってきました」


「確認しますねー。ふむふむ、なるほど。ではこの内容で登録しますね。冒険者ギルドでも似たような依頼が出されていますが、そちらの方が報酬いいみたいですね」



受付の方は愛想よく対応してくれている。予想した通り、冒険者ギルドでも魔物の生態系の異常を調べているようだ。進捗状況を聞いておこう。



「さっそくですが、魔物の生態系の異常について分かっていることを教えてもらえますか」


「いいですよ。えーと、まずはこの辺りにいるボア系の魔物のうち、パパボアの割合が増えていますね」



以前アルトさんと一緒に魔物退治をしたことがあった。そのとき魔物ランクFのベビィボアに遭遇した。


このベビィボアは危険になると助けを呼ぶ特徴があり、その呼びかけに応じて魔物ランクEのママボアがやってくる。このママボアも危険になると助けを呼び、その呼びかけに応じて魔物ランクDのパパボアがやってくる。


冒険者ギルドの資料によると助けは一匹ずつやってくるそうなのだが、アルトさんと魔物退治に行ったあのときは、パパボアがなんと11匹もやってきたのだ。


もしかすると魔物の生態系の異常ってこのときからすでに始まっていたのだろうか。



「現地の人の証言で、鉱山のほうから強い魔物の気配がしたそうですが、その気配は突然消えてしまったそうです。冒険者に調査に向かわせたんですが、その魔物はまだ見つかっていないんですよね」



山脈都市マトンの周辺は、木々が生える森エリア、岩肌が見える岩石エリア、川やため池がある水エリアに大きく分かれる。


さらにマトンから離れてそれらのエリアの先に進むと鉱山があり、そこで強い魔物の気配がしたらしい。ということは今回の魔物の生態系の異常はこの魔物が原因なのだろうか。


その後、調査済みのエリアを聞いて私たちは冒険者ギルドを後にした。私たちは山脈都市マトンの門に向かいながら話をした。



「エリーナは今回の魔物の生態系の異常についてどう思う?」


「どう思うもなにも、その気配の消えた魔物が原因じゃないのか」



やっぱりそうだよな。冒険者ギルドで話を聞く限り、強い気配の魔物の影響で他の魔物が生息域を移動した感じなのかな。ただ問題なのはその魔物がどのくらい強いのかということだ。


気配を消せるということは、スキルでいうと《気配遮断》もしくは《隠密》が使えるということだ。これは魔物ランクで言えばB以上かもしれないな。


気を引き締めながら、私たちは山脈都市マトンの門をくぐった。




まずは鉱山に向かうために森エリアを進んでいく。道中の魔物は修行という名目でエリーナに対処させた。出てくる魔物は今のところ強くても魔物ランクDぐらいまでなので、さくさく進むことが出来た。



私たちはそのまま鉱山エリアに突入した。この山の斜面には無数の穴が開いていて、この穴から中に入って鉱物を発掘している。


それぞれの穴の入り口近くには兵がいて、勝手に採掘されないように警備をしている。中に入るためには領主の許可証が必要だそうだ。


さてこの鉱山エリアでまずは聞き込みをしよう。とはいえ、ぶっきらぼうなエリーナが話しかけるよりは私の方がいいんだろうな。エリーナがいきなり斬りかかる可能性もゼロではないだろうし。


あのときロイさんは貴族という権力があるからどうにか出来たのだろうけど、私はただのランクDの冒険者だ。連帯責任で私まで処罰されたらたまったものじゃない。


知らない人に話しかけることにはなるが勇気を出して近くの兵に話しかけてみた。



「すみません、ちょっとお聞きしたいことがあるのですが・・・」


「坊主こんなところで何してる!?今この辺は危険だって聞いてないのか!?そこの姉ちゃんと2人で来たのか!?」


「あーいえ、えっと〜・・・」



見た目が幼い私は、兵に心配されているようだ。親切心からのようだけど、出鼻をくじかれたというか、私についての説明からしなくてはいけないのか。となると冒険者のギルドカードを出して・・・などと考え事をしていると、エリーナが私の前に出てきた。



「失礼する。私はエリーナ=ロンダルタントだ。貴族のロイ=ハルバートンのめいにより、今回の魔物騒動の調査をしている。協力願えるか?」


「お貴族様のご依頼でしたか。鉱山の中に入ることは出来ませんが、何かお聞きしたいことでもございましょうか?」



・・・エ、エリーナが常識人になっている。なんということだ。『言葉は不要、で語り合う』という危険極まりない性格はどこにいったというのか。実は言葉を交わすことが出来るという裏の顔を持っていてビックリだ。


エリーナがたくましくみえる。


私よりも年上で交渉が出来る女性。今までとのギャップに少しドキッとしてしまうのは、少年の体に転生してしまった私には抗うことの出来ない反応だった。


過去のことは水に流して尊敬の眼差しでエリーナを見ようと視線を向けると、偶然なのかエリーナと目があった。









「師匠、後は任せた」



・・・と思ったらこっちに話を振ってきた。エリーナはもしかして、声掛けは出来るが何を尋ねればいいのかという頭を使う事情聴取は出来ないということなのか。


避けたなこれ。


いつものイメージ通りのエリーナに戻り、私は正気を取り戻すこととなった。そして改めて兵と話をするのであった。



◇ ◇ あとがき ◇ ◇

人物紹介


【スグル】

主人公。早川傑ハヤカワスグル35歳が異世界転生した。今は13歳に若返っている。冒険者ランクD。


【エリーナ=ロンダルタント】

王都調査員の護衛騎士だったが、スグルに弟子入りを希望。冒険者ランクA相当の実力があるが、冒険者支援制度(師弟関係)を利用するために冒険者ランクFとして登録した。

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