第89話 ドーラとの関係
中心部から離れたところに向かって私たちは歩いていった。そのお店は以前と変わらず、隣り合う区画の隙間辺りにあった。
エリーナはそれらを手に取ると「へぇぇ」と言って、ニヤリとした。何か感じ取れるものでもあったのだろうか。
私はお店の中に入った。
小ぢんまりした店内で、商品棚は相変わらずスカスカだった。カウンターではドワーフのおじさんが、うとうとしながら居眠りしているようだ。
このお店は経営や防犯は大丈夫だろうかと心配になる。売れ行きは分からないが、防犯はもともと商品がそんなに置いていないので問題ないのだろう。
「こんにちは、お元気でしたか?」
「・・・ふぁぁ、誰じゃ?おぉ、あの時の坊主じゃないか!」
目が覚めたドーラさんは驚いた顔をしていた。久しぶりの再会だったけど、見た感じ元気そうでよかった。
「ほれ、前に渡した手甲を見せてみろ」
「手甲ですか。今、外して渡しますね」
両手につけていた手甲を外し、ドーラさんに渡す。それを受け取ったドーラさんは自然と手甲の整備を始めた。ドーラさんに出会った最初の頃はぶっきらぼうな対応だったのに、今では私のことを気にかけるようになってくれた。なんとも嬉しいことだ。
そんなことを考えてニヤニヤしている私を見て、ドーラさんは照れくさそうにしているのを誤魔化すためか話題を変えた。
「坊主、後ろの嬢ちゃんは連れか?」
「そうですね。成り行きでちょっと面倒みることになった子ですね」
「子とはなんだ。こっちのほうが年上だろうに・・・私はエリーナという。訳あって師匠の弟子になった身だ。よろしく頼む」
「・・・坊主が弟子の間違いじゃないか?」
ドーラさんは疑わしい目で私とエリーナを見た。13歳の子供が師匠だと言われたら誰だって疑うだろう。いいとこのお坊ちゃんのおままごとかと思ってしまう。
そんな感じで世間話をしているうちに手甲の整備が終わった。楽しい時間はあっという間に過ぎていき、お昼時になった。私は「また来ますね」とドーラさんに伝えてお店を後にした。
そのままロイさんの屋敷に向かい、門のところに行くと護衛騎士に中へ案内された。エリーナと2人で応接室で待っていると、お昼ごはんをまだ食べていないと聞いたからか、給仕の方が軽食を持ってきてくれた。
私たちは遠慮なくいただいていると、ロイさんが部屋に入ってきた。
「やあ、よく来たね。あ、そのまま食べてていいよ。スグルもエリーナも元気そうだね」
辺境の街フロンダに調査でやってきた貴族、ロイ=ハルバートン。彼は今、山脈都市マトンにいた。挨拶を交わし、さっそく今回の指名依頼の話に移った。
「内容は特に考えてなかったんだよね。とりあえず君を王都に連れて行きたくて指名依頼を出したんだ。エリーナが強さを認めたというから有能そうだしね。依頼内容は道中の護衛でも王都のお屋敷の掃除でもなんでもいいんだけど・・・」
貴族お抱えの冒険者になれということだろうか。厄介事に巻き込まれる可能性大だ。エリーナが強引なら、その元上司も強引だな。
ただなんとなくだが、
「残念ながら今この山脈都市マトンから移動できないんだよね。なんでも魔物の生態系に異変があったらしくてさ。そうだ、指名依頼はこれにしよう。2人でこの問題を解決してきてよ!報酬弾むからさ」
「師匠、この依頼受けよう」
エリーナがニヤリとしているよ。強い敵と戦えれたら、それでいいんだろうな。
冒険者ギルドのアドバイスでここまで来たし、危険が迫っているとなると、ここにはドーラさんがいるから何か力になりたいとも思うけど・・・。
「じゃあこの魔物の生態系異変を調べて、ロイさんが山脈都市マトンから移動できるようにするって内容の指名依頼でいいですか?」
「んー仕方ないね。冒険者ギルドでも似たような依頼が出てるけど、未だに解決してないようだしね。じゃあ内容を一筆したためるからこの手紙を冒険者ギルドに提出しておいてよ」
この内容なら冒険者ギルドでも同じような依頼が出ているだろうし、ロイさんの指名依頼として対応すれば最低限1回はロイさんの頼みを聞いたということになる。これ以上の関わり合いにならないようにしないと。
「あ、ちなみに指名依頼はこれっきりにしてくださいね!」
「今回の出来次第かな。依頼に失敗したら王都で扱き使ってあげるよ」
「・・・王都に付いていきませんからね!」
ロイさんはエリーナと同じぐらいの年齢だからか、対応が軽い感じで意見をコロコロ変えそうで心配になる。
そうは言ってもドーラさんのためにも魔物の生態系を調べてみるかと思い、ロイさんから指名依頼の内容が書かれた手紙を受け取り、私たちはロイさんの屋敷を後にした。
◇ ◇ あとがき ◇ ◇
人物紹介
【スグル】
主人公。
【エリーナ=ロンダルタント】
王都調査員の護衛騎士だったが、スグルに弟子入りを希望。冒険者ランクA相当の実力があるが、冒険者支援制度(師弟関係)を利用するために冒険者ランクFとして登録した。
【ドーラ】
山脈都市マトンにいる鍛冶師。区画整理でひと悶着あったが今もお店を続けている。毎日顔を出してくれたスグルに手甲を作ってあげた。
【ロイ=ハルバートン】
辺境の街フロンダに来た王都からの調査員。貴族。今は山脈都市マトンで足止めをくらっている。
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