第88話 異変
時刻は夕方。
私たちは《テレポート》で山脈都市マトンの近くにきていた。ただマトンの様子がなにやらおかしい気がする。門のところに入場待ちをしている人がいなかったのだ。
「エリーナは山脈都市マトンに来たことある?私が前に来たときは行列が出来てたんだけど・・・」
「最近は来てないからわからないが、いつもとは違う何かが起きているということだろうか」
とりあえず街の中に入るために門兵のところに向かった。いつもよりピリピリした雰囲気で、門兵が前よりも多い気がする。
「すみません、中に入りたいのですが・・・」
「お前たちもしかしてフロンダからきたのか?途中で注意書きの立て札があったはずだが・・・大丈夫だったか?」
辺境の街フロンダから山脈都市マトンにくるまでに何か注意書きがあったらしい。《テレポート》でここまで来た私たちはもちろんそれを見ていない。《テレポート》は移動が一瞬で終わる便利なスキルなのだが、こういったデメリットもあるのか。
とりあえず門兵には誤魔化しておこう。
「大丈夫でしたよ。ところで何かあったんですか?」
「どうもこのあたりの魔物の生態系がおかしくなっているらしい。いつもよりも魔物ランクが高くなっていて、皆警戒しているのだ」
「・・・へぇ」
高ランクの魔物が出ると聞いて、エリーナがニヤリとした。戦闘狂はこれだから困る。危険なところに自ら飛び込もうとするのはどうにかしてほしいな。
もしくは修行の続きが出来そうだと思っているのかな。門兵からとりあえずの情報を聞き、私たちは山脈都市マトンの門をくぐった。
「もうすぐ夜だし、ロイさんを探すのは明日の朝にしようか」
「そうだな、了解した」
私たちは宿に泊まり、翌朝また集合した。
ロイさんは今どこにいるのだろう。とりあえず情報収集のために冒険者ギルドに向かうことにした。
冒険者ギルドの中に入ると朝ということもあり、依頼の受付などで皆、慌ただしそうだ。受付の列に並んで順番待ちをしていると、ようやく私たちの番になった。
「すみません、指名依頼を受けて辺境の街フロンダから来たんですけど、依頼主の方が今どこにいるのかわかりますか?」
「ちょっとお待ちくださいねー。あ、わかりました。ここですね」
受付の人はそういうと、取り出した地図にのっていたある家を指さした。ロイさんは今ここを拠点にしているらしい。エリーナといっしょに地図の場所を覚えて、冒険者ギルドを後にした。
さっそくその場所に向かうと、一軒の大きな家が建っていた。2階建ての建物で、立派な門の周囲に塀があるため全容は見えないが、遠目でみても広いなとわかるぐらいの敷地面積を有していた。
「エリーナ、ロイさんっていつもこんな感じの家を借りてるの?」
「大体はそうだな。もちろんただ借りるときもあれば、長期間の滞在の場合は買い取ることもある」
ロイ=ハルバートン。さすがは貴族様だ。たしかに貴族が宿屋の一室を借りているとか想像できないな。私の宿屋の横の部屋に貴族がいたら、こっちは物音立てるだけでも緊張してしまうだろう。難癖つけられたらと思うと気が気じゃない。
そう考えるとエリーナは貴族でありながら、辺境の森の小屋で1人修行生活をしていたんだよな。私が言うのもなんだが、よく頑張ったよな・・・
と言いたいところだが、初対面でいきなり斬りかかってきたこと、忘れてないからな。甘やかさないように気を付けよう。
門のところにいる2人の護衛騎士のところへ向かった。
「すみません。指名依頼で来たんですけど、ロイさんはいらっしゃいますか」
「あなたは確か・・・スグルさんでしたか。そちらにいるのは、エリーナじゃないか!久しぶりだな。フロンダからこっちに来たのか?」
「師匠についてきただけだ。それよりもロイはいるのか?」
「ロイ様は他の方と面会中だ。スグルさん、今後の予定を確認してきますので、しばらくお待ちください」
そう言うと1人の護衛騎士は家の中へ入っていった。護衛騎士がエリーナに対してタメ語なのは元同僚だからだろう。私に対して敬語なのは指名依頼を受けてきた来客だからだろうか。
ロイさんとエリーナは呼び捨てできるほど仲良さそうだし、子供のころからの付き合いとかかな。そんなことを考えているうちに護衛騎士は帰ってきた。
「確認したところ、本日の昼過ぎであれば時間が作れるそうです。すみませんが出直してきてくれませんか」
「昼過ぎですね、わかりました。また来ます」
そう伝えて私たちはその場を離れた。貴族と言えば、何日も待たされそうなイメージだったけど、いきなり来たにも関わらず昼過ぎには面会してもらえるらしい。よかった。
さて空いた時間は何しよう。私の手甲を作ってくれた鍛冶師ドーラさんのところに顔を出してこようかな。
「少し時間あるけどエリーナはどうする?私はちょっと顔出しに行くところがあるけど・・・」
「もちろん付いていくぞ」
・・・ですよね。そんなわけで2人はドーラさんのお店に向かって歩いていった。
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