閑話 ドナートの日常

いつも通り、門のところで街の中に入ってくる人のチェックをしていた。


(今日もいい天気だった。夕方時で、もうすぐ仕事が終わるな。終わったら酒でも飲みに行くか)


そんなことを考えながらぼーとしていると、目の前から一人の少年が歩いてきた。見覚えのない顔だった。


「すみません、街に入りたいのですが・・・」


「坊主一人か?身分証は?」


「持っていません。じいさんと2人で森の方で暮らしていたけど、この前、亡くなっちゃって・・・


ひとりで森では生きていけないので、生前にじいさんから聞いていた街に降りてきました。


お金もないので、ラビットの肉を売って生計を立てようと思っています。」


そう告げると少年の手にはラビットの生肉が握られていた。


(あれ?こっちに歩いてきたとき、そんなもん持っていたか?まぁいいか。事情ありの少年だ。その年で独り身とは、辛かっただろうに)


「そんな事情があったのか。あれ?生肉をそのまま持ってきたのか?道中、魔物に襲われなかったか?血の匂いでよってくるから袋に入れて持ち歩けよ。危ないぞ。」


「そうなんですね。次からは気をつけます」


 「素直でよろしい。俺の名前はドナート。これも何かの縁だ。肉を売って身分証を作りに行くか。一緒についていってやるよ。そろそろ交代の時間だから、その辺で少し待ってろよ」


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


そう言うと、少年は門の横の方へと離れていった。しばらくすると交代の門兵がやってきので、仕事を引き継いだ。



「おーい、坊主、またせたな。交代の時間になったから、今から行くぞ」


そう声をかけると、少年は足早に近づいてきた。少年を引き連れ、門の中へと入る。


「そういえば坊主、名前は?」


「スグルと言います」


「年は?」


「13歳です」


「まだまだ子供なのに、大変だったな。」


「いえいえ。そういえば、この街はなんていうんですか?」


「ここは辺境の街フロンダだ。近くに森があっただろ?あそこでとれる素材が売りの街だな。」


こういう身寄りのない子を時々見かける。フロンダにもたまにいるのだ。そういう子を見かけると、俺にも何かできないかと考えてしまう。いわゆるお節介というやつだ。


スグルと会話をしながら街を歩いていると、冒険者ギルドが見えてきた。


「スグル、着いたぞ」


冒険者ギルドの中へ入り、買い取りカウンターへと向かった。今の時間帯にいたのは以前お世話になったダンさんだった。素材の買い取りなんて久々だな。


「買い取りを頼む」


「ドナートが来るのは珍しいな。その坊主は誰だ?」


「こいつはスグル。じいさんと二人で暮らしていたらしいが、最近亡くなって、一人で街にやってきたんだってさ」


「はじめまして、スグルです。こちらがラビットの生肉です」


「言葉づかいが丁寧なこった」


スグルに生肉を渡すよう促し、査定してもらった。


「ほらよ。状態がいいから大銅貨1枚に銅貨1枚おまけしといてやる」


「悪いな、助かるよ」


肉の買い取りが終わった。次はギルドカードを作らなくちゃな。ミレイがいるし、ちょうどよかった。


「ミレイ、金は俺が立て替えるから、スグルの冒険者登録を頼む。」


「またそうやって面倒事を抱え込んできて〜。そういうのはほどほどにしときなさいよ!えっと、スグルくん?でいいのかな。この用紙に必要事項を記入してね」


書くところも少ないし、すぐに終わるだろう。それよりも今日はいくら持っていたかな。ポケットの中の小銭を触ると、大銅貨が8枚しか入っていなかった。


(あれ?こんだけしかないのか。やべぇ、スグルのお金立て替えたら酒が飲めねぇ・・・)


「すみません、職業には何を書けばいいのでしょうか?」


「あぁこれ?なんでもいいわよ。パーティー組むときに参考にするぐらいかな」


サクサク書きあげてスグルはミレイに紙を渡した。それに合わせて俺も泣けなしの金をミレイに渡した。


(あぁ、俺の今夜の酒代がー)


「登録料は大銅貨5枚。今回はドナートが支払うけどちゃんと返すのよ。ギルドカードが出来るまでに、冒険者について簡単に説明するね。」


ミレイがスグルに説明を始めた。もうこれを聞くのは何回目になるだろう。ミレイにはいつも手間かけさせるな。


「はい、これで説明はおしまいね。ギルドカードも出来たからお渡しします。再発行するにはまたお金がかかるから無くさないようにね」


そう言ってミレイはスグルにギルドカードを渡した。


「これで身分証が出来たな。お金はおいおい返してくれればいいからな。依頼を受け取るときはまずは死なないように慎重に行動しろよ」


(出来れば今すぐ返してくれてもいいけど、それは無理だろうな)


「スグルはこれからどうするんだ?」


「そうですね、寝泊まりするお金もないので、ひとまず以前の家に帰ろうと思います。そして素材とかこちらに売りにきて、ドナートさんに早くお金をお返しできればと思います」


「そうか、まぁ頑張れよ。じゃあ俺はこれから非番だからここまでな。何かあればミレイに聞けよ」


「ちょっ、ちょっと!またそうやってこっちも巻き込むんだから!」


手持ちの金は大銅貨3枚。仕方ない、一度宿舎へ帰るとするか。人助け出来たし、今日は良しとしよう。


・・・あー、酒飲みたい。

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