第5話 自由を求めて
ブロンドヘアでブルーの瞳を持つ元のワタクシの顔がまた揺れ始め、鏡の中に再び紬の顔が映し出された。
「さて、自由に暮らすと決めたからには、新たな人生を思い切り楽しまなきゃ!」
ワタクシは自分の頬を両手でパチンと叩き、口角を上げた。それにしても、紬の表情筋の硬さときたら……一体どれだけ笑っていなかったのだろう。ワタクシは鏡と向かい合って何度も笑顔の練習をした。
笑顔が
「うんっ、上出来! 上出来!」
少し不揃いではあるが、自分の髪を切るなんて初めてのことだし、それを考えれば上手くできた方だと思う。
その翌朝、部屋の呼鈴に呼ばれ玄関の鍵を開けると、扉の前に制服姿の見知らぬ男の子が立っていた。
「お〜、今日から学校復帰だろ? おばちゃんに頼まれたから迎えに来てやっ――」
アクビをしながら気怠そうに立っていた男の子は、私を見るなり目を見開いたまま黙ってしまった。
「お、お前、ど、どうしたその前髪……」
「……それよりも、アナタは誰です?」
「は? 何だよ急に」
「ワタクシが名前を聞いているの。早く教えなさい」
「……幸人だよ。てか、お前本当に大丈夫か? 事故のせいでキャラ変したのか?」
「キャラ変? それは何ですの?」
「キャラ変ってのはな……あぁ、もういいっ! それよりもお前どうした!?」
「ワタクシはミリユ・フィレールと申します。青い満月の日に事故に遭い、気づいた時にはこの世界にいましたの」
「青い満月って、この間のブルームーンのことだよな? つむぎが事故に遭ったのも確かあの日だったはず……」
幸人は顎に手を当て何か考え始めた。そして何か思い出したのか、見る見るうちに顔が青ざめていった。
「もし仮にそうだとして、じゃあ本物のつむぎはどこに行ったんだ!?」
「つむぎはワタクシの世界にいますわ」
「そ、そんな……」
「ねぇ、ワタクシこの世界のことを何も知らなくて大変困ってますの。だからアナタだけが頼りなのです……。ねぇお願い、ワタクシのこと助けてくれません?」
シスターのように胸の前で両手を絡め、上目遣いで幸人を見つめる。大抵の男の人はこの手に弱いことを、私はかつて読んだ恋愛本から学んでいた。
「だぁぁぁ! わ、分かったよ! つむぎのこともあるから助けてやるよ!」
幸人に急かされながら部屋の壁にかかっていた制服に着替えると、ワタクシは新たな世界へ一歩踏み出した。
学校への道すがら、幸人はこの世界のこと、学校のことを事細かに教えてくれた。そして学校での紬の立場を考え、この入れ替わりのことは二人だけの秘密にすることにした。
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