第4話 仮初めの婚約者
「じゃあ3年後のブルームーンまで……」
本物のミリユと約束を交わした直後、満月が鏡から姿を消すと同時に、そこに映る姿も元に戻ってしまった。
3年もこちらの世界にいることになった。そんな長い年月を見知らぬ世界で過ごすなんて不安でしかない。でも鏡の中でミリユは、笑みを見せながら『自由な暮らしがしたい』と言っていた。
じゃあ私はどうしたらいい? マイナス思考で泣き続ける? それともミリユと同様に、この奇跡を利用する?
私はベッドに潜り込みながら、事故に遭ったあの日自分が何を願ったのか思い返した。
「幸せな人生を、もっと楽しい人生を……か」
こちらの世界には元の私を知る人はいない。突如キャラ変したってバカにする人もいない。だったら3年間頑張ってみるのもいいかもしれない。
私はそう密かに決意し、眠りについた。
翌朝、アンナが慌ただしく私を起こしに来た。
「ミリユ様、急いで起きてください!」
「う~ん……こんな朝早くから何?」
「アレン様がお見舞いに来られるそうです!」
「アレン? 誰それ?」
「アレン様のことも覚えていらっしゃらないんですね……。アレン様はこの国の第一王子でミリユ様の婚約者様ですよ」
準備を整え応接間に入る。すると中世貴族が着るような華麗な洋服を着たブロンドヘアの男性が窓際に立っていた。
「……アレン様、お待たせして申し訳ございません」
「もう身体の方は大丈夫なのか?」
「はい……」
宝石のような淡いブルーの瞳に見つめられ、思わずドキリとする。この男性がアレン王子。でもこの違和感は何だろう? 微笑んでいるのに目の奥は冷たいままだ。孤独を抱えてきた私だからこそ感じ取れる。理由までは分からないが、きっとこの人も心を閉ざしている。
「では、ソナタの無事も確認できたし帰るとしよう」
アレンが私に近づき手を取ると、手の甲にそっとキスをした。確かにこの世界ではそれが当たり前の挨拶かもしれないが、私にとっては衝撃的な出来事だ。その場に残された私は、アレンの唇が触れた所だけでなく全身が熱くなるのを感じた。でも不思議と不快には感じなかった。逆に心が『行け!』と言っている。気づいた時には信じられない言葉が口から出ていた。
「アレン様、3年だけ私と恋をしてくれませんか?」
「恋?」
「は、はい……」
「もう婚約してるんだからそんなの必要はないだろう?」
「私は誰かに愛されるという気持ちを知らないのです。それではいつか王妃になった時、国民を愛することができないのではないかと不安で……」
「そうか……。でもなぜ3年なんだ?」
「それは聞かないでください……」
アレンは黙ったまま探るように私のことを見つめていた。
やはりダメか……と諦めかけた時、意外な答えが返って来た。
「いいだろう。恋とやらをしてみようじゃないか。でもやるからには本気でいくからな?」
「お、お手柔らかにお願いします……」
「では、また学園で」
アレンは去り際、私を優しく抱きしめてから部屋を出て行った。
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