第4話「片思いⅡ」
「あれって…蛍子先生と吾郎丸さん……?」
てかなんかあの二人、恋人って空気じゃなくないか?
蛍子先生と吾郎丸さんは、5mほど距離をとって、間に小さな倉庫を挟んでいた。二人は‘‘愛しあってる’’とは思えないほど敵視した目でにらみ合っていた。でも、どこか寂しそうな瞳だった。
「ねえ、えーっと愛ちゃん?だっけ。蛍子先生と吾郎丸さんなんかおかしくない?」
「…私がぁヒック体質のせいでヒック……うわーん」
今まで静かに泣いていたのがさっきよりも大きくなる。
やばい、直感でわかるがたぶんあの二人にバレると相当まずい。肌でヒシヒシと感じる。
「愛ちゃん、落ち着いて。」
オレが愛ちゃんの手を優しく握ると、少し落ち着いたらしく、静かになった。
「貴方が……だったなんて!」
「お前が……だったなんて!」
え?なんだって?よく聞こえない。
「「適側の殺し屋だなんて!!!!!!」」
二人は目に涙を浮かべ、絞り出すように声をだした。
………はい?え、korosiya?え、冗談だよね⁉理解しがたいといいますか…てか意味わからねーよ!
オレが混乱してると、頭をチョップされる。
「痛い……って恋恋⁉」
振り返ると天野 恋こと恋恋が、顔に怒りマークを浮かべてオレを見ていた。
「俺の妹の手、何握ってんじゃゴラ。放課後、愛私輝橋に来いや(怒)」
「お兄ちゃん……!」
「やっと来たか、愛ちゃんずっと待ってたんだぞ!恋恋……じゃなくて!早く逃げるぞ‼気づかれる前に。」
オレの必死の声も届かず、恋恋は
「早くその手を放せ‼俺の前でイチャイチャすんじゃねえ!!!!!!」
と大声で言った。
「誰だ⁉」「何奴⁉」
ばれた―――――――!!!!!!!!!!!
「逃げるぞ!恋恋、愛ちゃん!」
「え⁉」「その前に愛と手を繋ぐな!」
とりあえずオレ達は本校舎の方向に走り出す。
だが、それも虚しく数秒後にはみんなで捕まってしまった。
「捕まえたけど、どうしましょう?コードネーム『白犬』、私はあなたを今から殺したあとに、この子達も殺そうと思うんだけど。」
蛍子先生が真顔で言う。
「同意見だな。こっちも『赤猫』を殺したあとにガキを殺そう。」
オレ達3人は縄に縛られている。
「聞いてないんだけど、どう言うことだよ?美波。」
訳が分からない顔をする恋恋に、オレは一から説明する。
オレも一応淫魔ではあるが、淫魔は恋愛や性関係、夢なんかが得意なだけで、別に戦えるわけではないし、「かえんほうしゃ‼」とか言ってもなにも出て来ない。
……つまり絶対絶命のピンチなのだ。
「オレ死んだわ、ごめん。二人とも、二人は悪くないのに。」
オレは恥ずかしさとかプライドとか忘れて、涙を流した。
「…美波先輩」
愛ちゃんがオレの名前を呼んで、優しく手を握ってくれた。
「美波先輩が悪いわけではありません。私の体質のせいです。そう言うことにしときましょう!きっと私とお兄ちゃんが何とかしてみせます。」
愛ちゃんが自信に満ち溢れた目で笑うと、オレの涙は引っ込んだ。
美しい。
生きてきて初めて、こんなことを思った。
「愛、なんで俺も入ってんだよ、まあ何とかなる気はするけど」
なんだよ、それ。
「根拠ないのに~(笑)」
普通に笑えた。普通に話していた。
「お兄ちゃんの『なんとなく』は当たるんですよ☆」
なんかなんとかなる気がしてきた、いや、何とかするさ。オレはイケメンだから!
そんなことを考えている中…
明石 蛍子と白石 吾郎丸は殺し合っていた。
「うれしかったのに…初めての彼女が蛍子さんで、本当に幸せだった」
地面に落ちてた木の枝を、刃物の様にシュンと投げると、蛍子さんが余裕でよける。
その一瞬に、吾郎丸さんは距離を詰め腹パンした。
だが、蛍子さんは防御態勢をとり、今度は顔面向けて右足で蹴りを入れた。
それも吾郎丸さんの左腕で止められてしまう。
「私だって、上京してきたなれない私を助けてくれてうれしかったんだから!」
「「好き!より戻そう!!!!」」
二人は顔を赤らめて同時に言った。
しばらくして二人が戻ってきた。
「あれ?どっちも生きてる。仲良く俺らを殺そうってか?」
恋恋が挑発的に言うと、二人は優しい顔をして首を振る。
「「私たち、付き合うことになりました。」」
「「は?」」「え?」
3人ですっとんきょうな声をあげる。
「私たち、愛の逃避行をするわ。ロミオとジュリエットみたいにね!」
「現役を引退する。て言っても二人でいることバレたらやばいけど。」
吾郎丸さんは焦りつつも、うれしそうな顔をしてる。
「あなたたちの安全は保障するから!これから私たちは世界中を飛び回らなきゃいけないから、もう行くわ。教師はやめる。また会いましょう。」
そう言って、縄をほどいてくれた。
オレは驚きを隠せなかった。
「え⁉マジで助かっちゃった!ラッキー‼」
「はい!お二人が結ばれて本当にうれしいですぅ‼」
「そうかぁ?命は助かったからいいとしても不幸せに爆発してほしいぜ。」
目に涙を浮かべて見えなくなった二人をあがめている愛ちゃんとは対照的に、恋恋は二人の方を向いてファッ●ューポーズをしていた。
「…愛ちゃんありがとう。オレ元気出たわ‼」
オレが本気でお礼を言うと、愛ちゃんはキョトンとした後、くすくすと笑った。
「私はこの世に失恋以外に怖いものはありませんから!私もありがとうございました。美波先輩。」
ドキッ。
愛ちゃんがニッと笑うとオレの心臓が速くなる。
なにこれ、顔熱いんだけど。てかなにこれ愛ちゃんが超かわいく見える。なにこれ⁉
「美波先輩、顔赤いですよ。大丈夫ですか?」
「は⁉いやえーっと」
「俺の前でイチャイチャするな!」
恋恋に邪魔されるが、何かわかってしまった気がする。
これが恋ってやつか⁉
あれから10年、早いなぁ。
それでも気持ちは変わらない、だって今も好きだから。
「よし、今日もがんばろっと!」
自己暗示のようにつぶやくと、オレは教室に向かう。
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