第3話「片思いⅠ」
「またね、愛ちゃん!」
「はい、美波先輩さようなら。」
愛ちゃんこと、天野 愛(あまの あい)ちゃんがオレに笑いかけると、オレの心臓の鼓動は420倍速くなる。
オレの名前は美波 生(みなみ せい)。こんなかっこよくて大人っぽい見た目だけどまだ高校一年生なのだ。世の女性たちよ、すまん☆
それにオレは一途だからなあ。
オレは十年、愛ちゃんに片思いしている。
ただ、告白できてない、理由は二つある。
1つ目は、愛ちゃんの失恋体質。愛ちゃんは失恋回数108回、周りも失恋モードにしてしまう能力なのだ。そんなところもまた好きなんだけどさ。
2つ目は……オレが淫魔(インキュバス)だってこと。
急にファンタジー的な話にしてすまん、でも本当のことなんだ。
オレの家は、何千年も前からある淫魔(いんま)の分家。
淫魔の家系は、恋愛を遊びや食料としか思っていない。オレも昔はそうだったけど、今は違う。愛ちゃんに出会ったから。
10年前…
オレは小学2年生だった。
「転入生の美波 生です。よろしくお願いしま〜っす。」
適当に言うと、クラスの女子たちから歓声があがる。
…チッ、なんでオレがこんなとこに。つい先週までは名門の愛梨学院に行ってたのに。
制服の帽子をとって指定された席に座る。
まぁオレが勉強ついていけなかったからなんだけどさ…。
淫魔にとって、見た目と性格はもちろん大事だが、同じくらいに優秀さも必要だ。
だがオレは愛梨学院で幾ら頑張ってもついていけなかった。なので両親は仕方なく、愛私輝学院にオレを入学させたのだ。
「美波くん、教科書は今度渡すから隣の天野くんにみせてもらってね。」
先生が言うと、オレは隣の天野に頼む。
「見せてくれ、天野⭐︎」
オレが笑顔で頼むと天野と言う男は一瞬、嫌そうな顔をしたが、コクリと頷いた。
淫魔の落ちこぼれとは言え、やはり性格(外面)も大事だからな。
「ありがと天野、下の名前なんて言うの?」
「………恋(れん)だけど」
「じゃあ恋恋ね〜、これからよろしくな」
「はぁ!?恋恋ってなんだよ‼︎」
「ちょっと天野くん、静かに」
先生に言われると驚いた顔をして「すいません」と言って急いで恋恋は座る。
「もう、いつもはこんな事ないのに。天野くんったら。元カレにちょっと似てて…」
途中から関係ない話してますよー、先生。
そう心の中でツッこんでる時だった。
ガラッ!!!!
みんなが一斉にドアのほうを見る。
ドアの前にいたのは30代くらいの男だった。
スーツを着てはいるが髪が跳ねてて台無しだった。
生徒の顔を見ると、みんなも知らない様な顔をしている。そんな中口を開いたのは…
「吾郎丸くん⁉︎」
まさかの先生だった。
「蛍子ちゃん、好きだ!君のことが忘れられない。戻ってきてくれ。」
吾郎丸と呼ばれた男は頭を下げた。
オレは正直この展開に半分ついていけなかったが、蛍子先生の答えが気になってしょうがなかった。
「…成功したな」
恋恋が聞こえるか聞こえないかの声でつぶやいたが、オレは聞き逃さなかった。
「…吾郎丸くん、ありがとう、よろしくお願いします。」
「「…え」」
吾郎丸さんとオレの声がはもる。
その後、俺の自己紹介よりも大きい歓声が、クラスで響き渡ったのだった。
「すごいな、恋恋!なんで分かったんだ。」
「た、たまたまだ。」
休み時間、恋恋に話しかけると、あからさまにプイッと顔をそらしてどこかに行ってしまった。
えぇ〜と思っていると、クラスメイトの女子たちが話しかけてくる。
「美波くん、どこからきたの?」
「かっこいいね」「どこのシャンプー使ってるの?」「私が学院、案内してあげる♡」
いろんな女子からの質問に答え続けると、流石に疲れる。
どうせ食料にするだけなのに…。
「……オレちょっとトイレ行ってくる。次の授業までには戻ってくるから。」
「私も一緒に行く!」
一人、髪の下の方をお団子でまとめた…えーっと如月さん?がキラキラした顔で言う。
そう言うと、他の女子たちも私も、私もと次々に言い出した。
「え、いや…えーっと大だから!!」
オレが恥ずかしながら(嘘だけど)言うと、女子たちがフリーズする。
その隙にオレは、クラスを出て、さっさと体育館の裏に逃げ込んだ。
「こんなところがあったのか。」
オレは端っこに行くと誰かいるのに気づく。
足音に気付いたのかその誰かは振り返った。
「お兄ちゃん?」
後ろを向いたのは、青っぽいボブ髪を揺らした女の子だった。
「えーっとどなたですか?」
「あ、オレ美波 生!今日転入してきたばっかでさ。2年生、よろしく。」
「…天野 愛です。よろしくってそうじゃなくて、お兄ちゃん知りませんか?」
「お兄ちゃん?」
「天野 恋って言うんですけど…」
「え、恋恋?約束でもしてたの?」
オレが聞くと、愛ちゃんが泣き出す。
「え!?急にどうしたの⁉︎大丈夫?」
「どうしましょう、あれ!」
そう言って指差した方をオレは見ると…
「え、あれって……」
そこにはさっきの蛍子先生と五郎丸さんがいた。
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