死の衝動〜改造人間サーティーンと死なずの彼女

黒羽椿

デーモンデストルドー

 「ここが、死屍草原……」


 目に見えるほど、高濃度の猛毒ガスが充満するこの魔境。昔はライオンなんかが生息していたらしいが、それも今となってはこの有様だ。だから、死屍草原なんていう物騒な名前が付けられたのだろう。ここはそういう場所だ。


 食物連鎖の頂点たる獅子も、原因不明の毒ガスには敵わなかった。なら、普通の人間がここに足を踏み入れたらどうなるのか。答えは、僕の足下に転がる死骸が模範になってくれている。


 そんな場所に、どうして僕はまともな防護装備すら装着せず、更に奥深くに進もうとしているのか。理由は単純だ。


 「やはり駄目か……この程度じゃ、死ぬ気配すらない」


 僕が、酔狂な自殺志願者であるからだ。


 ここで命を大切にしろとか、そんなことは間違っているとか、気の利かないズレた返答は無しにしてくれ。僕だって、自分なりの信条があり、それなりの理由があって自殺を決意したのだ。


 少し昔話をしよう。僕は今から5年前、このクソッタレな世界に転移してきた当時10歳の異世界人である。日本という平和な国から一転、路肩に死体が転がり、どこもかしこも異様な暗さと異臭で立ちこめるこんな世界だ。僕は心底絶望した。


 さらに、僕には特別な力や才覚などは宿らなかった。ステータスは見え無いし、魔法はそもそも魔力が無いから使えない。道を歩けば突然ぶん殴られ、身ぐるみを剥がされたし、誰も助けてなんてくれない。この時点で、僕は死ぬことを決意したのだった。


 続く戦争のせいで誰もが貧窮にあえぎ、秩序はほぼ崩壊し、虚ろな眼をした子供や老人が道を歩けばごまんと居た。その内、僕もそんな集団の一員になっていった。


 そんな場所で過ごせば、絶望なんて幾度となくすることになる。一つのパンで殺し合いが始まる場所だ。幸せな未来など、思い描ける訳もない。


 僕は考えた。早くこの長く苦しい地獄を終わらせたいと。けど、無駄死にはしたくない。野垂れ死ぬより、何か一つでもこの世界に来た意味を残したいと、思ったのだ。


 何のスキルも無い僕が選んだ道は、戦争への参加だった。当時、僕の居た国では実験段階の人体改造手術のテスターを募集していたのだ。死亡率は8割を超え、仮に死ななかったとしても、痛みのショックで使い物にならなくなってしまうという、悪魔の手術である。


 しかし、仮に成功した場合、被験者は超人的な身体能力や再生力、果ては超常的な能力の行使まで可能という、まさにハイリスクハイリターンの極みだった。そこへ、僕は喜んで志願した。


 どうせ、このまま生きても仕方が無い命だ。それで死ぬのなら、まだ意義のある自殺だと思ったのだ。


 そして、神は僕を生かした。僕以外、みんな死んだというのに。


 待機中、妹に美味しい食べ物を食べさせてやりたいと言っていた彼も、涙目で十字架を握りしめていた彼も、片腕を無くしながらもまだ生きようとしていた彼女も……みんな、死んでしまった。


 死にたかった僕が生きて、生きたかったみんなは死んだ。僕はまた、絶望した。


 そこから、地獄の日々が始まった。


 僕に宿った能力は超再生という、不便極まりない能力だったのだ。それ以外は、改造人間としての身体能力の向上くらいで、僕は出来損ないの役立たず扱いをされた。


 そんな僕の役割は、戦場へ一番に突撃すること。撃たれ、吹き飛ばされ、刺され、袋だたきにされる。もちろん、痛覚を消すなんて便利なことは出来ない。全てダイレクトに、鮮明に、僕の脳を焦がしていく。


 それでも、死なない。何故なら、僕の体はご丁寧に修復を続け、使いたくも無い神経を新しくし、廃人一歩手前の脳をアップデートするからだ。


 そんな地獄でも、確かに優しさはあった。


 「お前、今日も痛ぇ思いすんのか? ……そうか。出来るだけ早く助けに行くから、それまで待ってろよ」


 僕を人間扱いしない上層部と違い、出来る限りの配慮をしてくれたグレグさん。彼は爆撃されて、残ったのは煤だらけの右腕だけらしい。


 「僕にもね、君くらいの息子が居るんだ。もう、何年も顔を見れて無いんだけどね」


 そう言って、悲しそうに笑いながら僕に飴をくれたマリスさん。彼は疫病で苦しんで、最後は汚い救護所で息を引き取ったらしい。


 「あんたも改造人間なんだって? 精々、死なない様に頑張ることね!」


 普段はツンケンしつつも、仲間思いだったティルナ。彼女の最期は……思い出したくも無い。


 みんなみんな、もっと生きたかったはずだ。なのに、死んでしまった。


 僕はみんなのために死にたかったのに、またしても、死ぬことが出来なかった。


 極めつけは、少しおかしい……いや、正確にはおかしくなってしまった彼女に、僕は呪いを刻まれた。


 「ミルフィアもティルナもカイリも死んだ! 君まで死んじゃったら、私はもうどうすれば良いのよ!!!」


 ヒステリック気味に叫ぶ彼女の名は、アルド・テルニタス。テルニタス侯爵家の三女にして、人工的ではない超常の力を持って産まれ、弱冠13歳で聖女の称号を正式に授与された才女である。


 しかし、それと同時に政権争いの被害に遭い、あんな場所に来てしまった、気の毒な少女である。


 彼女の能力は、平たく言ってしまえば治癒の力だ。死んでさえ居なければ、時間と労力をかけて誰でも治療することが出来る。まぁ、その代わり死ぬほど痛いんだけど。


 「君は確かに死なないけど、それは絶対じゃない。いつか、体が再生しなくなってそのまま死んでしまうかもしれないでしょ? だから、保険をかけさせて」


 半ば家を追い出される様な形で戦場にやってきた彼女は、しかしその身分のおかげで前線に出ることは無かった。けど、毎日の様に続くグロテスクな負傷兵や、自分の治療で苦しみ、殺してくれと叫ぶ兵士達に精神をすり減らされ続けた。


 おまけに、毎日のように知り合いが死んでいくのだ。昨日まで一緒に笑い合っていた戦友が、次の日にはひっそりと居なくなっている。彼女は、それに耐えることが出来なかった。


 「いつも死にたい、死にたいって君は言うよね? でも、そんなこと絶対にさせないから。もう、君しか生き残ってないの。君まで死んでしまったら、私は駄目になってしまう」


 そう言って、彼女は僕の身体を弄った。改造してないところなんて、探す方が難しいまでに。


 全部で13個のアルド特製の刻印は、半永久的に動き続け、僕の身体を絶え間なく治療し続ける。


 元々持っていた超再生に加え、アルド・テルニタス渾身の秘技により、僕は自分の力で死ぬことすら出来なくなった。少なくとも、容易に思いつく手段では不可能だ。


 だから、僕はここに来たのだ。そんな呪いに等しい刻印にも、欠点はある。それは、僕の生命力を原動力にしている、という点だ。


 欠点というほどのものでは無いのだろう。超再生によって、僕の身体は丸一日焼こうと煮込もうと朽ちないからだ。だからこその半永久的だ。


 けれど、もし僕の超再生を破ることが可能で、さらにそれを持続的に行えるのなら……この刻印を破壊することが出来るやもしれない。


 「……すまん、アルド」


 ふと、彼女に対する自責の念が湧いてきた。それは、僕が彼女から二重の意味で逃げたからだろう。


 彼女の意思に反して死のうとしている僕だが、これでも悪いとは思っている。聖女として認められ、それと同時に放逐された彼女には、もはや帰る場所も待っている家族も居ない。


 そんな彼女を支えられるのは約五年間の間、共に地獄をくぐり抜けた自分だけであることは重々承知しているつもりだ。


 しかし、それではいつまで経っても死ねない。そも寿命で天寿を全うできるかも分からない身だ。アルドと共に過ごせば、そんなもしかしてすら潰されかねない。


 そうやって彼女への謝罪を並べながら死屍草原を探索する。目的はこの場所に存在するという、この毒ガスを撒き散らす諸悪の根源だ。


 どんな姿形をしているのか、何故一カ所に留まり続けているのか、その目的は一体何なのか。分かっていることは、何一つとして存在していない。確かめに行った者は二度と帰らないのだから、当たり前ではあるが。


 形容し難い臭いが奥に進むにつれ、段々と毒ガスも濃くなっていく。その正体が何なのかは分からないが、これだけ広範囲に高濃度の毒ガスを散布できるのだ。大本はもっと強力な毒であるに違いない。


 しかし、僕の身体にその毒が効くかどうかは試してみるまでは分からない。今までも、新しいものから古いものまで、古今東西の毒を喰らってきたが、苦しいだけで死ぬことは出来なかった。今度こそ、僕を殺してくれると有り難いのだが……


 「……ん? あれは何だ?」


 祭司場だろうか。朽ち果ててもなお、厳かな雰囲気を纏う空間が見えてきた。その真ん中辺りに、様子の違う歪んだ淀みがあった。薄い霧のような周りと比べても、濃さが違う。


 思わず、笑みが溢れる。身体もようやく気付いたようで、心臓がバクバクと歓喜の叫びをあげていた。


 五感全てが叫んでいる。あれは、ヤバいと。


 駆け出したい衝動を抑え、ゆっくりとそこへ近づいて行く。ビリビリと感じる死の気配に、あともう半歩だ。僕は恭しく、右手を伸ばした。


 けれど、僕の手はその直前でピタリと止まった。淀みまで、ほんの数センチほどのところだった。


 「だ……め……!!!」


 生物など皆無なこの草原の中で、そんな声が聞こえた。幻聴では無い。確かに、この淀みの中から――


 「馬鹿な……!」


 ふざけた話だ。そんなこと、あり得るはずが無い。けれど、僕の眼は現実を無慈悲にも叩き込んでくる。


 「近づいちゃ……だめ……!」


 そこには、少女が居た。この不毛な大地を象徴するかのような、長い白髪の少女だ。しかし、異常なのは彼女の状況だ。


 いくつもの刃物が突き刺さり、心臓の辺りには周囲の毒ガスの根源であろう、煙を吹き出す刀が彼女を貫いていた。にもかかわらず、彼女は生きている。


 「っ……! クソッタレが!!!」


 「だめ……! 早く、その手を……! 離して……!!!」


 彼女の制止など、耳には入っていなかった。ただ、この世界の理不尽に苛立って、嘆いて、無我夢中で刀を強く握った。


 「がぁ……!!! ははっ……結構、効くなっ!」


 「辞め、て……! もう、これ以上……! 私のせいで、殺したくない……!」


 「うる、さい……!!!」


 これは僕のエゴだ。平和な世界で呑気に生きていたせいで、まだこの世界の当たり前を受け入れられていない。そんな、いつまで経っても愚かな僕の、愚かな願いだ。


 何の前触れもなく人が死んだり、優しい奴ほど早死にしたり、何の意味も理由も無く殺し殺されたり……! そんなのが当たり前だなんて、思いたくない。たった、それだけのことだ。けれど、それだけのことに、僕は命を賭けられる。


 どうせ捨てようと思っていた命だ。いくら粗末に扱おうと、誰にも文句を言わせない。


 「ごばっ……! 往生際が……悪い!!!」


 彼女から刀を抜いた瞬間、それは僕の身体を貫いた。悪意の塊の様な刀だ。全く、作った奴はよほど性根が腐っているらしい。


 「え……? どうし、て……? なんで、死な、ないの?」


 「それはこっちの台詞だ。お前、何者――」


 疑問を口にしようとした瞬間、パリンッという音が響いた。少女は何の音か分からずに首を傾げているが、僕にはそれが何なのかはっきりと分かる。何故なら、自分の身体の事だからだ。


 「や、やったぞ……! ついに、一つ壊れた……!」


 やはり、あの刀は特別なのだろう。心臓を貫いたくらいで刻印を一つ壊したのだ。今までどんな方法でも壊れなかった、あの呪いがだ。


 「事後承諾ですまないが、この刀以外も抜いて良いか?」


 「う、うん……良い、けど」


 他のものも、今も僕の身体を貫き続けている刀と同様の一品かもしれない。そんな期待をして、彼女の身体から一心不乱に抜き続け、自分の体を切ってみる。


 「はぁ……これが一番だったか……」


 しかし、結果は期待通りとは行かなかった。他の刃物は常人であれば簡単に殺すことができるが、僕に対しては何の効果も無いものが大半だった。


 とはいえ、収穫はあった。ついに、この刻印を一つ壊すことが出来たのだ。後は、この刀を詳しく調べれば、残りの刻印も壊すことが出来るかもしれない。僕は刀を自分の身体から引き抜き、自分の身体を使っての実験を始めようとした。


 「あ、あの……」


 「ん? あぁ、そういえば君に許可を取ってなかったな。少し、これ借りても良いか?」


 「そ、そういうことじゃなくて……どうして、それを持っていて平気なの?」


 「僕がバケモノだからだよ。それ以上でも、以下でも無い」


 驚いた。この短時間で、少女の身体はすっかりと元通りになっている。さらには胸の傷も、他の刀剣の類いが刺さっていた部分も、たどたどしかった発声までもが治っていた。


 彼女もまた、僕と同類という訳か。とはいえ、これに貫かれて生きてる時点で、そうだろうとは思っていたが。


 「貴方、名前はなんて言うの?」


 「そんなものは無い」


 「そんなわけ無いでしょう? ねぇ、教えてよ」


 「辞めろ、揺らすな。本当に、名前は無いんだ。そういった人間らしいものは、軍に入った時に全部捨てた」


 少なくとも、日本に居た頃の名は捨てた。それを持っていたら、死ねなくなってしまうから。


 「では、貴方は何とお呼ばれしてるの? 名無しさん?」


 「……サーティーンと、呼ばれている」


 13番目の改造手術成功者だから、サーティーン。自分で適当につけた名前だが、我ながら安直である。


 「サーティーン、ね。私はフェクティオって言うの。まぁ、そう呼ばれたことは少なくて、大半は鬼の子とか、忌み子とか言われてたわ」


 「そうか……何となく、事情は察した」


 「そぉ? じゃあ、ほんとに察せているのか答え合わせしましょ?」


 「辞めろ」


 「えっとね……あれは確か……5歳くらいの時だったかな?」


 分かっていた事だが、やはりこの世界はクソだ。この刀が刺さっていた時点で、何かろくでもないことなのだろうとは思っていた。そうであって欲しく無いとも。


 結論から言えば、彼女の独白は、僕の想像を軽く超えていた。


 曰く、フェクティオの祖先は長寿の民だったらしい。そして、彼女の身には何の因果か、とっくのとうに枯れたはずの祖先の能力を持って産まれてしまった。


 白い髪はその祖先を象徴する決定的な特徴らしい。さらには、この地に残る伝承が彼女を苦しめた。伝承によるとその祖先は、寿命以外では決して死なないらしい。


 そこから先は、全くもって不愉快な話だった。そんなフェクティオを殺すために人々は奮起し、彼女を痛めつけた。あの刀剣の数々は、そんな彼女を殺すために用意された、呪いの品の様だ。


 それでも、彼女は死ななかった。そして、焦った愚民は不可侵領域に触れてしまった。


 禁忌とされたこの刀を持ちだし、彼女に突き刺したのだ。どうしてそんなことをする必要があるのか、本気で理解に苦しむ。


 「それでも、私は死ななかった。それどころか、この刀は私を殺そうと躍起になったのか、はた迷惑な毒ガスを撒き始めたの。それで、この土地はこうなってしまった」


 愚かだ。何の迷惑もかけていない少女を痛めつけ、自らの手で取り返しのつかないことをした。そんな奴らは、今の今まで彼女を苦しめ続け、何の責任も取らずにのうのうと死んでいったのだ。


 「だから、私は人殺しなの。生きてる価値のない、バケモノなの」


 「人殺しは違うと思うが……」


 「ふふっ……完全否定は、してくれないんだ」


 「してほしかったのか?」


 「事実だもの。ただ、もう少し気を遣ったらどうなのかって話よ」


 「バケモノがバケモノに気を遣えと?」


 「それもそうね」


 しかしまぁ……人殺し以外にも訂正したいことは、少しだけある。


 「生きてる価値が無い、というのは賛同しかねるな」


 「どうして? 私は今まで生きていて、迷惑しかかけてないのよ?」


 「この世界で人に迷惑をかけていない奴なんて居ない。皆、利己的で、余裕が無くて、他人を蹴落とすことになんの罪悪感も抱かない人間ばかりだ」


 もちろん、そうじゃない人も居る。だが、そんな美徳が霞んでしまうほどに、この世界はあまりにも醜い。それは、僕が元々この世界の住民では無いからというのもあるのだろうけど。


 「けれど、話を聞く限りで、君は自らの意思でこんなことをした訳じゃ無い。死ぬべきなのは君では無く、こんな事態を招いたここの住民だ。だから、君が死ぬ必要は無い」


 自業自得というものだ。そんなことで彼女が気を病むなど、あってはならない。


 「流石、あの酒呑童子に認められた男の言うことは違うわね」


 「……は? 今、なんて言った?」


 「? だから、その刀……酒呑童子に認められた人の言葉は違うって――」


 酒呑童子。日本の歴史に興味の無い僕でも知っているほどの、有名な鬼の名だ。


 けれど、それはおかしい。基本的な名前は同じものの、日本由来の名前が冠されたものなど、少なくとも僕はこの世界で見たことが無い。だから、この世界に転移したのは僕だけなのだと勝手に思っていた。


 「変な名前の刀よね。ま、大昔の人のセンスなんだから、そんなものなのだろうけど」


 「他に、そんな名前の刀を聞いたことはあるか?」


 「さぁ? 産まれた時からこの土地に縛られて、碌に外を知らない私にそれを聞くの?」


 「……すまない」


 アルドの作った刻印を壊せるほどの刀。さらには、僕の故郷の日本が絡んだ名を冠している。これもまた、因果というものなのだろう。


 「こんなはた迷惑な刀を作った、性根の腐った同郷の奴が居たのか」


 目的は定まった。自殺する前に、かつての先輩の尻拭いをしてから死ぬのも、悪くは無い。


 それは同時に、死ぬ事へも繋がるだろうから。


 「ねぇ? サーティーンは、これからどうするの?」


 「これと同じようなものを探す。その道中で死ねるなら、万々歳だ」


 「……私には死ぬなって言うのに、サーティーンは死にたいの?」


 「死ねるのなら、今すぐにでもな。それと、死ぬなじゃなくて、死ぬ必要が無いと言ったんだ」


 この考えは今も変わっていない。あくまでも、僕は死ぬことを目的にしている。それは、今も変わっていない。


 「なら、私に戦い方を教えて」


 「……それは、自衛のためか?」


 「それもある。けど、私はそれ以上に――」


 その瞳は暗く、けれどどこか惹かれる様な、何処かで見たことのある色をしていた。その色味はアルドと同じようで、決定的な部分が違っていた。


 「貴方を、殺してあげたいから」


 「……! 死んでも、文句は言うなよ」


 「ふふっ……やれるものなら、やってみなさいよ」


 道は定まった。僕は死ぬため、もしくは彼女に殺されるため、この旅を続ける。


 「さっ、行きましょう?」


 「あぁ……逝けると、良いな」


 終わりはきっと、僕が死ぬときだ。

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