第5話 洗濯
「朝飯が終わったら、風呂の水で洗濯じゃ。その服も洗っておけ。その間、これを着ておけ」
お爺さんはよくお寺のお坊さんが着ている着物を上下に切り離したような服を出してくれた。
「これも一緒に洗っておいてくれ」
やたらに長い布きれ、ひょっとして褌と言う物ではないのか?
それと、これは着物を着るときの腰巻き。
リカはキャー、と叫びそうになるのをかろうじて堪えた。
洗濯機なんてないよね。せめてゴム手袋。これもなさそう。
風呂場に行くと大きな木で出来た洗面器と板が置いてあった。
リカはロングTシャツとジーンズを脱ぐと、下着も脱いだ。
洗面器に風呂の水を入れ、最初のうちは丁寧に両手を使い洗っていたが、そのうち面倒臭くなり、手もだるいので洗面器に足を突っ込んで足踏みをした。
たぶん、お爺さんの褌と思われる布も、腰巻きも足で洗えば少しは抵抗が薄れた。
昨日、リカが寝ていると、奥の部屋からお婆さんをおんぶしてお爺さんが出て来た。
リカが起き上がり手伝おうとすると、
「おまえはいいから寝ておけ」
とお爺さんが言った。
奥の部屋には寝たきりのお祖母ちゃんがいる。
2人は長いことお風呂に入っていたみたいだが、リカはいつの間にか寝てしまっていた。
朝から雨が降っていた。
お爺さんは藁で草履を編んでいた。
リカが興味深そうに覗き込むと、
「やってみるか」
と藁を投げて寄こした。
近所の公民館祭りのとき、体験学習で84歳のおばあさんに習ったことがあった。
そのときはビニールの紐で編んだのだが、ピンクとブルーのビニール紐で出来上がった草履は、今でもリカの部屋の机の横にぶら下げられている。
藁で編んでいるんだよ。すごいでしょ。
いったい誰に言ってるんだろう?
ママ、心配しているだろうな。
ひどいこと言ってごめんなさい。
くそばばあだなんて、ちょっとユーリの真似して強がっただけなの。
入水も別にしたかったわけじゃない。でも、ユーリの言うこときかないと、あとで酷い目にあう。
宮殿で王子様と暮らせるなんて思っていなかったけど、こんな何もない時代に転移するなんて。
「ほほー、うまいこと編めとるわい」
お爺ちゃんに初めて誉められた。
「お爺ちゃん、厠へ行きたい」
「戸口の横にある傘を使え」
赤い傘は紙で出来ていて、ところどころ破れていた。
雨の日にトイレが外にあるのって最悪。
夜にはなるべく我慢して行かないようにしている。
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