第4話 汲んでも汲んでも
もう何往復しただろう?
13回までは数えていたけれど、そこから先は数えるのを止めた。コツが掴めててきたのか、リカは木桶の水をあまり溢すことなく風呂に運べるようになった。
あと数回で風呂桶の水はいっぱいになりそうだった。
お腹空いた。
肩も痛い。
今、何時なんだろう。
スマホがないと時間もわからない。
だいいちスマホがあっても電波がない。
それに時間を気にしなくてもいいのだ。
スキだかクワだかを担いだお爺さんとすれ違った。
「畑に行ってくる。握り飯を食え」
お爺さんは言った。
風呂の水がいっぱいになると、
強烈な匂いが鼻をつき、目にまで匂いが突き刺さる。
モーモーさんはよく辛抱している。
間仕切りの上から覗いてくる大きな目をしたモーモーさんに、偉いぞと心の中で言った。
井戸で手を洗うと、物干しにかけておいた手拭いを使った。
リカが寝室にしていた座敷に、布巾を掛けたおむすびが2個お膳に載せられてあった。
塩で握っただけだったが、無性に美味しかった。
ちょっと硬くなった米は、噛めば噛むほど甘みが増した。
お爺さんは畑から帰ると、薪を割り、それで風呂釜に火をつけた。
「ほら、晩飯だ」
新聞紙の上に焼き芋が載せられた。
炭のような皮を剥くと、ほくほくの黄色いサツマイモが現れた。まだ湯気が立っている。
「アチチチ」
口の周りを黒く染めながらむさぼり食べるのをお爺さんは優しく見詰めていた。
その晩はお風呂に入った。
五右衛門風呂という鉄で出来た風呂釜だった。
飯炊き釜を大きくしたような風呂で、真ん中に板を載せ、沈めながら入る。回りの鉄に躰が触れないように気をつけて入らないといけない。
この姿勢を続けるのって結構大変。寛げやしない。
「お爺さん、歯を磨きたいんだけど」
するとお爺さんは小さな瓶の中から白いものをリカの手のひらに載せた。
「えっ、これをどうするの?」
お爺さんは自分の手のひらに載せた白いものを指先につけて歯茎を擦りだした。
しょっぱい。
白いものの正体は塩だった。
お爺さんは飲み水の瓶から柄杓で水を汲んでうがいした。
うがいした水は外に吐き出したので、リカもそれに倣った。
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