第2話 違うんですけど

「「はよ起きんかい。この穀潰ごくつぶしが」

 

 えっ、ここはどこ?

 

 粗末な継ぎ接ぎだらけの布団に、身を起こしたリカは辺りを見回した。

 擦り切れた畳、薄日のさす黄ばんだ障子、天井はやたらに高い、吹き抜け? 古民家風とでも言うのだろうか。

 でも、宮殿でないことは確か。王子様もいない。


「さっさとしろ。顔を洗ったら、牛に餌をやれ」


 板戸を開けると、お爺さんが火を竹で吹いていた。


「お祖父ちゃん?」

「ひい爺ちゃんだ」


 えっ、ひい爺ちゃんて、リカが2歳のときに亡くなった、あのひい爺ちゃん? お祖父ちゃんのお父さん。



「あの、洗面所は?」

「外の井戸水を使え」

「タオルは?」

「そこの手拭いを使え」


 リカはスニーカーをつっかけて、外の井戸に向かった。

 井戸の水の出るところに白い布袋がぶら下げられていて、袋の底の方は茶色く変色している。


 えっ、こんな水、使うの? 綺麗なの?

 そんなこと、あのお爺さんに訊けそうもない。

 それでなくても怒ったようにぶっきらぼうに話すんだもの。

 怖い。


 「顔を洗うのにえらく時間がかかっとったのう。馬の顔でも洗っていたのか」

「あのー、トイレは何処にあるんでしょうか?」

「外の牛小屋の隣にある」


 牛小屋の隣の木戸を開くと強烈なトイレの臭いが襲ってきた。

 ウオシュレットもトイレットペーパーもない。ましてや便器でさえない。

 四角い柱が2本ずつ渡されていて、その真ん中の隙間に排泄物を落とすらしい。


「うわっ、びっくりした」


 隣の牛小屋の上の部分が空いていて、牛が顔を出した。

 こんな連れションはいや。


 用をたしたリカは前に置かれた小さく切られた古新聞紙をクシャクシャに丸め、シャシャと拭くと、破れた竹カゴに投げ込んだ。

 井戸で手を洗った。


「何をするにも時間がかかる。自分の布団くらい畳まんかい」


 リカが慌てて部屋に入ると、布団はなくなっていた。


「あのー、お水が飲みたいんですけど」

「そこの水瓶に入っとる」


 水瓶には柄杓が添えられていて、これで飲めということ。

 わあ、直飲み。

 躊躇っていると、また遅いと言われてしまう。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る