第38話 肉体と精神体

北の砦に着くと、リューク王子は殉職者を弔う為に安置室へと向かった。


ボクは...王族じゃないし。

友達のシャルが心配でシャルの元へと向かった。

リューク王子はそんなボクの行動を咎める事はなく。


「悪いな。任せた」


本当はリューク王子もシャルの元へ向かいたいけど、王族としての責務を果たす事を優先したと、何となく察した。



「シャルは?シャルはどこに居ますか?」


「シャルロッテ殿下はあちらの部屋で治療を受けています」


兵士に言われた部屋へと向かってドアを開けた。



「今は治療中だ!一刻の猶予も許されない。出ていけ!」


シャルを治療している魔法士がボクに向かって

怒鳴ってきたけど、無理もないよね。


ベッドに横たわるシャルは身体に掛けられたタオルの腹部は真っ赤に染め、足も腕も皮が剥がれて、肉が見えている。



「ヒールじゃダメ...」


「なにっ?」


《ハイヒール》


ボクはシャルに向けて上級魔法を唱えた。


シャルに目を向けると傷は塞がり、血は止まっているけど、顔色は悪いまま...

深いキズの為、ハイヒールでは傷を無くすに至らなかった。


それに内蔵がやられてる?



「おい、もう一度、ハイヒールは出来ないか!姫様を...助けてくれ!」


さっきまで怒鳴り散らしていた魔法士は、今度は懇願してきている。


シャルを救う事に必死で、魔法士としてのプライドも何も捨てているようだった。


《ハイヒール》

《ハイヒール》

《ハイヒール》


何度ハイヒールを使っても顔色は変わらなかった。


「シャル...」


ボクは魔法士に見えないようにタオルを持ち上げると、膨らんだ胸の上に着いてるはずの乳房が無かった。


胸も...抉られたんだ。


「こんな状態でよく戦ってたわね...普通なら死んじゃってるわよ...」


「兵士の証言では傷を負っても姫様の身体から魔力の結界が張られていたようだ。誰かが姫様にバリアをかけたんだろうな。そのお陰で即死は免れたようだ。」



ボクが冗談で掛けたバリア...

なんで、ちゃんとしたバリアを張ってあげなかったんだろう。


なんで、シャルは襲われたんだろう。


なんで……ボクが襲われなかったんだろう。


もし...シャルが死んじゃったら。

処刑ルートで殺されるよりも辛い。


助けたい。

シャルも...

シャルが守った兵士も...




「ならば、助けなさい?」


え?誰??



気が付くと真っ白な空間にいた。


「憎しみが残ったエリスは処刑されるわ。だけど、貴方の魂が入った事で憎しみは無くなったわ。」



目の前に1人の女性が立っていた。

その姿は...ボク?



「ここは?そして貴女は?」


「同じ場所よ。ここは貴女の精神の中。肉体は私の生まれ変わり。精神はあなたもよく知っている。エリスと佐伯天馬の融合。別世界から紛れ込んだ魂を融合させたのよ。生前、私の最後は悲惨だった。でも、私を祈ったり祀ってくれた人達も沢山いたわ。」


「リーゼロッテ……?」


「魂の私はそれに救われたわ。でも、身体は覚えていたのね。それをあなたの魂が入った事で憎しみは浄化されたわ。人格を作る大切な思春期に男の記憶が入った事で身体に残った憎しみが解放されたの。そろそろ貴女は思春期を過ぎ女性の心になる。それから。世界を苦しめた悪魔を討ち滅ぼして魔界との時空の歪みを断ち切ってほしいの。私が守ろうとしていた世界を守って!」


「リーゼロッテはそれでいいの?酷いことされたのに。」


「それでもいい事も沢山あったわ。私の仇は悪魔に殺された。でも、私が守ろうとした人達の子孫は生きて正しい道を歩んでいるわ。きっとこの為に私の精神体は残されていたのね。でも私にはもう時間がないわ。」


ボクとリーゼロッテが手を合わせると、身体の中に眠っていた魔力が解き放たれた気持ちになった。



「貴女は私であって私ではないの。さぁ、お友達を助けられないで世界を助けられないでしょ?」



目を開けるとリーゼロッテの姿はなく。

シャルが眠るベッドの前にいた。



《光属性...エクストラヒール》


温かい光がシャルを包み込んだ。

その光が消えてシャルの姿が見えてくると傷跡はなくなり。

顔色も良くなった。


胸の頂上の乳房も復活した。

あとは...兵士。



《エリアハイヒール》


温かい光が砦全体を包み込み、戦闘で負傷した兵士だけではなく、砦にいた人達の直近に出来た傷も癒して、そのままボクは魔力を使いすぎて意識を失った。

まだまだ、リーゼロッテのようにはいかないみたい。



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