13:メイド長の正体
私とヴィクトールは、しばらくニコニコと笑い合っていたと思う。
身に覚えのない罪を着せられた者同士の同情というか、陥れられた者同士の傷の舐め合いだ。
笑ってもどうにもならないことだが、同じ感情を共有する相手と巡り逢えたことは、素直に嬉しい。
そんな事を考えていると、拗ねたようなレイラの声がした。
「二人の世界、いいですよねー」
「悪い悪い。ちょっと感動しちゃってね」
「ラブラブなのは結構なんですけど、結局護衛にジュリアを連れて行くんですよね?」
「ああ。その通りだ」
レイラには抱いてほしくない感情だと、私も彼も思っていただろう。
この話は終わりにしようと目配せをして、護衛の話を受ける事も了承する。
「ジュリアも、いいのよね?」
「えぇ。もちろん」
すると彼女は私に確認をして、水差しが載ったワゴンの下からトランクを引っ張り出した。
魔法鍵を差し込みひねると、書類や服や武器……? が丁寧に詰め込まれている。
「親戚全員分の名前と特徴のリストに、屋敷の見取り図。王族の召使いに紛れられる衣装と、どんな服にでも隠せる暗器。必要なものは用意したから、好きに使って」
「……え?」
「元々、私が護衛なの。去年ちょっとやらかしたから、王宮から出禁食らったんだけど」
”ちょっと”ではないねぇ。とヴィクトールが口を挟んだ気もするが、それはおいておく。
一見全くもって普通のメイドであるレイラが、こんな物騒な武器を? と首をひねりつつ見れば、確かに良く手入れされている。
折りたたみのバトンや袖に隠せる短剣に、大きく曲がったカランビット、投擲用の細いナイフといった品々を見ながら、ようやく彼女が護衛だと信じた私はため息をついた。
「全く気づかなかった……」
「ジュリアに言われると、ちょっと嬉しいわ」
すると彼女はほんの少しだけ頬を緩め、軽く咳払いをして真剣な表情に替わる。
そして私の顔を指差して、前任者としての忠告を力強く言い切った。
「一応忠告しておくんだけど。ジュリアは恐ろしく強いから、いつも油断してる。他人を舐めてるっていうか……正直あなたより強い人間も魔獣も存在しないと思うし、その自信かしら」
「……」
「でも、暴力じゃない悪意から人を守るときは、それじゃダメよ。旦那様は頭だけはいいけど、あんまり強くないから」
「分かった」
普段の私を見ていて思ったのだろう。確かに私として、そういう傲慢はあったかもしれない。
だからこそ、レイラの真っ直ぐな声は胸に響いた。
「まぁ私が言えたセリフじゃないんだけどねー。去年お母さんに死ぬほど怒られたし」
護衛としての心得を肝に銘じて、私の傲慢さを反省していると、彼女は和ませてくれようとしたのだろう。
自分もやらかしたと笑って、ヴィクトールに目を向けていた。
「去年の件は怒るなって言ったんだけどなぁ」
「旦那様が許しても、ウチは許してくれないですよー。じゃ、私は仕事に戻りますね」
強くないと言われて普通に落ち込んでいたらしい彼と、幼馴染の彼女は苦笑いで話し合う。
軽く手を振りスタスタと歩いていったレイラの後ろ姿を良く見て、やっと私は彼女が相当な訓練を積んできた兵士だと気付いた。
「彼女、本当に手練れですね。全く隙がないことにすら気づけませんでした」
「メイド長だけど、僕の近衛兵でもある。知っている人間は少ないがね」
「そうでしたか」
レイラという絶対の信頼を置く幼馴染の代わりに選ばれたことは、光栄だと思う。
ただ、その分の責任が非常に重たいものだ。
「ところで、レイラは何をやらかしたんですか?」
「ああ……僕のワインに毒が入っていてね。気付いたレイラが王宮の厨房で破壊の限りを尽くしてさ……」
「……良く処刑されませんでしたね」
「うん。まぁ、身代金と弁償代で王都に屋敷建てられたと思うよ」
……私も、気をつけよう。
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