第2話
お兄さまは、目がお悪いのかしら。
そう思うことが、度々あった。私もどうにか自分の足で歩けるようになった頃。兄が本屋へ出掛けるというので、私もついて行きたいと意見した。今までは、もう少し大きくなったらねと断られてきた。しかし、どうにもその言い訳も通用しそうにない。
父の鶴の一声。兄は、笑って許して下さった。道中、兄と手をつなぐこと。店に入ったら、騒がぬこと。そうしたら、一冊だけ好きなご本を買って下さるとのこと。
本屋も目前というところで、背後から声を掛けられる。和服の人。兄の知り合いだろう。一度、後ろを見て、兄は再び歩き始める。確かに、顔を見たのだ。その人は、追ってきて、声を掛けた。
「これは、失敬。私服だったもので…」
兄は気まずそうに、下を向く。兄は、読書家である。字を読み書きするのには、支障なくとも光の加減で、何か見えにくいということがあるのかもしれない。話し込み始めてしまった。
私は、本屋を指差した。先に待っています。兄は、頷いた。家を出る時、目印にと頭に赤いリボンを結んでもらった。これで、すぐに見つけてもらえるだろう。そのはずだったのだが、ばったり友人に出くわしてしまった。
面白い本があるの。そう言って、友人は絵本をひらく。あら、この子、はなちゃんみたい。まさしく、絵の中の少女は、赤いリボンをつけていた。ちらちらと、私のリボンに目を向ける。欲しいのだろう。
はなちゃん、私のとかえっこしない? それは、素晴らしい提案に思えた。ただあげたのなら、家の人に怒られてしまうかもしれない。でも、かえっこなら。
しばらくして、兄が来た。当惑している。おかっぱ頭に、赤と白のリボンの娘がひとりずつ。迷ったあげく、兄は友人の手を掴んだ。
「はなちゃん、ご本は選んだの」
「あの…」
友人は、私に助けを求める。
「お兄さま、私が
見上げた先、確かに羞恥と怒りの表情が見えた。
「勝手をする。そのリボンは、迷子にならぬために、つけたのだ。それなのに、友達にあげてしまうなんて。こんな悪い子供は、私の妹ではあり得ない」
そう言って、さっさと歩いていってしまう。
悪いことをしたのだ。ただ、リボンをあげるのではなくて、かえっこもいけないことだったのだ。
友人と私は、普段、優しい兄からの叱責に大声で泣き出してしまう。何事かと、店主がやって来る。
「子供が
後で思い返してみると、兄は本屋までの道中で一悶着あったのだ。それなのに、目的地に着くと、また…。その日、結局、本は買ってもらえなかった。
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