第6話 人形

報告書を読みながら、地面に撃沈しているアマテラスの分霊1147を見て、妾はため息をついた。


「アマテラス分霊4桁が、このイザナミの分霊3桁ナンバーであり、管理局主任の妾に勝てるとでも思ったか?」


そう言いながら、戻って早々、ツクヨミの分霊に殴り込みをかけてきた馬鹿娘を足で軽く蹴り飛ばす


「同じ神から生まれた分霊でも、やはり環境因子で個性が出るようだ」

妾はアマテラスの体を抱えると、救護室へと連れて行こうとした


ブーブブー

懐に入れていた通信機(スマホのようなもの)が震える

「どうした?」

「すいません、主任!転生課に来てもらえませんか?」

どうやら、トラブルが発生したらしい、管理局での役職持ちは、こういったトラブルを解決することが多い為、普通より強い分霊が採用される。

存在時間こそがパワーを上げるので主に初期スロットが最も本体に近い力を持つ

性質故だ

簡単に言うと、お姉ちゃんだから、妹の面倒を見なさいという奴だ

救護室に寄った後、転生課に向かうと————



魔方陣に人形が置いてあった


「しゅ、主任!!どうしましょう!!」

いや、これ人形?え~と魂が感知できるから……付喪神とかの転生?

ちょっと、普通に転生させれば……人間の体とかで……

いや、そもそも、死と言う概念が適応されるのか?

依り代は無事みたいだし……



「んっ?この依り代……非破壊属性……形状変化……自動修復……服従の制約……抗魔……**し?」

何というスキルが盛られているんだ!?最後のスキルは文字化けしているのが気になるが———

非破壊属性の筈なのに自己修復を行えるあたり、非破壊を壊せるスキル対策を練られ、服従の制約に対して魔術による抵抗が見られる……

「この依り代—————ただの付喪神ではない?」

妾は、人形を持ち上げ、対話を試みた。

(お主……何者じゃ?このスキルの数々……ただの付喪神の器とは思えぬ)

《システムアナウンス:念話が抗魔によって阻まれました》


「……」


(妾の話を—————)

《システムアナウンス:念話が抗魔によって阻まれました》

(わ————)

《システムアナウンス:念話が抗魔によって阻まれました》

(ち———)

《システムアナウンス:念話が抗魔によって阻まれました》

(は———)

《システムアナウンス:念話が抗魔によって阻まれました》





(………)


《システムアナウンス:念話が抗魔によって阻まれました》



「いい加減にするのじゃ!!!妾はただ話をしたいだけなのじゃ!!!」

あまりの抵抗に、我慢が出来ず、妾は人形を地面に叩きつけて————

怒りにより、力加減を間違えた人形は、地面に砂煙とクレーターを生み出してしまった


「すっ—————すまぬ!!大丈夫か!!!」

妾は、砂煙でおそらく原型をとどめていない人形に声をかけると————

(システムアナウンス:念話が抗魔によって阻まれました)

「おちょくっとるのか!!!」

砂煙の中から、無傷の人形が立ち上がりながら、そう念話を返してきた!!



(まったく————人が気持ちよく、消滅しようとしているときに—————うるさく騒いだかと思ったら、地面に叩きつけやがって—————クソガキが)

そう言いながら、人形は、デスクの上に座ると妾と向き合う。


「すまぬ————じゃが、転移か転生かは、わからぬが————お主は異世界に呼ばれておるのじゃ」

それに、この能力————

(また神の気まぐれかよ)

妾の言葉に、人形は肩を落とすような動作を取る

「神の気まぐれとは—————お主は神を嫌っておるのか?

一応、お主も付喪神と言う神の一柱に数えられるのじゃが————」

そう言うと、人形は舌打ちをするような動作をし

(好きこのんで、付喪神になったわけじゃねぇ!!)

まあ、ざっと話をしてくれたが—————

「はっ————破壊神のおもちゃ?」

破壊神や死神が好き勝手に壊せない、頑丈な人形を作ろうとして出来た器

(壊れたら、修復され、破壊できないように鍛えられ、形を変えて、破壊を免れようとし、抵抗したら、魔術で自由を奪い、それに抵抗し、生意気だと、さらに攻められ————)

誰も助けてくれなった。誰も俺を救ってはくれなかった。

そう、彼は肩を震わせながら語った。

彼のスキルは、そうやって鍛えられた証なのか—————


妾は、涙を潤ませながら、先ほどからずっと解析していた、最後のスキルが判明し、確認しようとして—————自動回避が発動しデスクから飛び退くと、先ほどまで妾が居た場所が陥没する!?

(だから—————俺が殺すしかないじゃないか)

神殺し—————最後のスキルとその声が同時に示された。



「あ———神殺しか————」

そう言うと人形は恨みや憎しみ———負の感情を形にする。

(また俺を利用する奴は許せねぇ!!俺は静かに消えたいだけなのに!!!

俺の邪魔をするな!!!)

黒い気の塊になった人形が、妾に飛び掛かる!!

妾は、そんな人形に無防備に両腕を広げると—————

心の臓に人形の拳が突き刺さり—————妾は抱きしめた。

「辛かったのう……悲しかったのう……」

(なっ!?離せ!!クソが!!!なぜ心臓を貫かれて生きていやがる!!!)

暴れる人形を妾はさらに強く抱きしめ、封印術を発動させる

「愛される事を知らなかったのじゃな—————愛する事を学べなかったのじゃな————」

妾は、妾が生み出し、妾を殺した子を思い出していた。

愛も知らず、愛されることも知らず、父親に殺されたあの子を————


「妾は、お主に愛を知ってもらいたい。生きるという事を知ってもらいたい。

それは悲しいと思う事もあろう、知らねば良かったと思う日が来るかもしれない。

じゃが、その気持ちを知ったとき、お主は—————」

封印術————能力を封印し、妾は人形から意識を奪う—————

姿を形状変化に干渉し人の子に変え、異世界にいる孤独な魔女に—————拾われるように送った—————


自己満足かもしれない


さらに呪いを纏うかもしれない————

だけど、それでも————妾は知ってもらいたかった。


独りではない、ともに在れる存在を————




「ちょっと、しんみりしたから、カグツチに会いに行くとしようかのぅ」

異世界に突き落とした人形を見送った後、妾は愛しの我が子に会いに行った。



結果報告

全治3時間の全身やけどを負った。

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