第3話乙女ゲームへの転生支援
魔方陣が光を放ち、次の人間を呼び寄せた————
今回の案件は—————
私はため息をついた
『転移の次は—————転生ですか—————』
死の説明からしなきゃいけないなんて、めんどくさい仕事です———
元々冥府暮らしの神、イザナミの分霊だが———死んだ事を伝えるのは、いつ面倒だ。
生き返らせてくれだの言い怒り出せば、死にたくなかっただの泣き出すし、
無反応な奴は————なんとも言えない
つまり、死者の相手をするのは面倒なのだ。
『それが————2人とか———本気で面倒です』
そう言いながら、私はデスク越しに現れた召喚陣を見る
その中から————
「こ———ここは?あの子は?」
OLのような女性が周囲を見ながら戸惑いの声を上げる。
そして、その後から———
「なに!!ここ?————ああ!!!あたしにぶつかって逃げたおばさんだし!!」
肌を黒く焼いたじゃらじゃらしたアクセサリーを付けた女子高生がOLに掴みかかっていた————
『はぁ……』
生前に問題があったようだ———とりあえず、資料を展開し————
『とりあえず、黙りませんか?』
「「ぴぎっ!?」」
威圧をかけて二人の動きを止めた。まったく、此処まで静かにお座りが出来るなら、初めからしていてほしいものです。
さっさと説明義務を果たそう
『とりあえず、説明を省くけど———貴方たちは同じ事故で死にました』
いや———面倒だから説明を省略したら、
「事故って!!あたし!まだ学生だし!!死ぬには早いんだし!!」
女子高生が喚き散らしてきた。
OLの方は、何か考えるように周囲を見て———
「あの———死んだのは私たちだけですか?子供とかは————」
喚き散らすでも、泣くでもなく、現状確認かしら?とりあえず、確認すると————
『死んだのは貴方たち二人だけですね』
OLは道路沿いでボール遊びをしていた子供に注意をする為に走って近づこうとして、女子高生にぶつかった。
そこで、女子高生が文句を言っているときに、子供が道路に飛び出して———
それを止めようとOLは走り、女子高生は逃げたと思って追いかけ———
あとは、テンプレで子供を助ける為に事故に遭い、女子高生はそれに巻き込まれたらしい……
映像を見るに、子供を突き飛ばして、その勢いで自分も助かる可能性もあったが、女子高生が、体の一部を掴んだせいで、轢かれてしまったようだ。
『害悪ですね』
私はそう言いながら、女子高生の方を見る
「ち———違うし!!あたしのせいじゃないし!!こいつが走るから悪いんだし!!
映像がきっと間違っているんだし!!!あたしが助けたに違いないんだし!!
あたしが死んだのこのおばさんのせいだし!!」
否定しまくりですね——この害虫—————。
「あの子は———助かったのね—————」
それに比べ、OLは子供を助けられた事に満足している。
『まあ————普通に死んで転生するだけなら、別に私が相手をしなくて良いが————
あいにく今回は、異世界転生————つまり、異世界に生まれ変わる権利を得てしまった。』
そう言いながら、私は善良な魂を欲しがる管理者は少なくないと思った。
まあ、一種の管理者の娯楽だろう。役者を選び、世界に入れて変わる世界を見たい。
人の魂を使った娯楽も行きすぎなければいいだけの話。
魂本人の同意も要るから、悪い話ではない。
「異世界転生!!それっ知ってるし!!スマホのケータイ小説で読んだし!!
すごいスキルとか貰って、幸せになるんだし!!」
女子高生はそう言いながら興奮するが————
『今回の異世界はこの世界のゲームを基とした世界———所謂乙女ゲームの世界だ』
乙女ゲーム、それは一人の女性が、複数の男性と仲良くなり、恋仲になっていくものだ。
『ただし、ゲームが基となるとしても、その世界はゲームのように固定された世界じゃない。そこの住人は貴方たちと同じように生きているし、考えもする。』
ゲームの世界だと言って勘違いする輩が多いから、そこはちゃんと説明したが———
「舞台はどこだし!!ゲームと言ってもたくさんあるし!!学園物だけでも現代とか中世とか、剣と魔法の世界とか!!楽しみだし!!」
女子高生うるさいし——って口調が移りそうになった
『そうですね————資料によれば、“魔術学園 想いはいつか魔法になる”と言うタイトルの世界ですね。』
大体のあらすじは、時代背景は中世 所謂、王侯貴族が支配する国が舞台だ。基本的にはこの世界の中世ヨーロッパの街並みだが、この世界とは違い魔術が発展している。
その世界で、主人公は没落した男爵家の一人娘として、産まれるが、貧乏な為に学校に通うことも出来ず、ウエイトレスをしながら生活費を稼ぐ日々を送っていた。
そんなある日、怪我をした美男子を助けようとして、魔術の才能に目覚め———
王侯貴族の通う名門の魔術学校に編入する事となる。
そこで、4属性(火・水・風・地)を操る事が出来る公爵令嬢に男に色目を使う奴として虐められ、教師に相談するが————公爵の娘である事に加え、通常1つの属性しか使えない筈なのに4属性扱える令嬢に立ち向かえる先生も居らず———
諦めかけていた時、神獣と契約を結ぶイベントがあり、主人公は実は全属性(14の誕生日に)使えることが発覚するなどで、権力を持ち、公爵令嬢を断罪して、ヒーローとハッピーエンドを迎える。大体こんな内容だった。
『まあ、設定は似ているが、さっきも言ったように、似ているだけで同じではない。
そこを気をつけてほしい』
ある程度、システムの説明をした。
向こうの世界では、魔術を使用するには属性の一致が必要である事、鍛えればその分強くなる事、基本幸運値は変わらない事、頑張れば変える事が出来る事、世界が崩壊するような事が起きれば管理者によっては強制力が発動して修正を受ける事を伝えた。
そこまで説明をしたところで
「それで、私は何をしたら良いんでしょうか?」
OLが質問をしてきた。
『貴方たち二人には、向こうの神様から頼まれた役割を伝えます。転生を拒否しても良いですし、役割の変更を願っても良いですが———』
「あたし主人公が良いし!!主人公だし!!」
うるせーなコイツ————
『とりあえず、向こうからのギフトと役割は———』
OLが主人公の役割 ・ギフト 幸せの導 ・属性 全属性(14の誕生日まで使用不可)
女子高生は公爵令嬢の役割 ・ギフト 因果の結末 ・属性 4属性持ち
だったが———
「嫌だし!!主人公が良いし!!」
女子高生が駄々をこね始めた。
それどころか————
「あたし被害者だし!!お前変われし!!」そう言ってOLの襟首を捕まえてわめき散らす————
コイツ————普通にあの世に送って根性を叩き直してやろうか!
そう思ったが————
「わかりました———役割を変わります」
OLは顔をうつむけながらそう言った。
「マジ!当たり前だし!!これでハーレム作るし!!」
など良い飛び跳ねる女子高生
「ついでにあたしのギフトも交換だし!!因果よりも幸せがあたしに相応しいし!」
役割どころか、ギフトまで交換!?さすがに怒って良いよね?
「—————わかりました」
それなのに、OLは了承した。
「やったし!!!早く転生してほしいし!!」
ああ!!むかつくが本人が了承しているかぎり、口出しはできない
見るのも嫌だから、私は女子高生だけさっさと送り出した。
「それじゃあ、あたし逝くし!!幸せな未来があたしを待ってるし!!」
「ええ、巻き込んでごめんなさい……来世では幸せになってくださいね」
はしゃぐ女子高生を、OLは笑顔で見送った。
その様子を見ながら————
『本当に良かったのですか?』
私はOLに尋ねた。
「ええ、心配してくれてありがとうございます。」
OLはそう言って、私に頭を下げた。
『もともと、先方の神は子供を救う心に喜んで自分の所に転生させようとしていたのですが————これは、あんまりじゃないですか?』
子供を助け、死んでしまい、子供のわがままで、幸福な未来を失い————
それなのに————
『なんで————笑っていられるんですか!?』
私のその問いに、OL……彼女は———
「私————6人兄弟の長女で———いつも我慢していました。
いろんな事を我慢して、譲っていれば、みんな喜ぶんです。
おやつも彼氏も進学も————私が我慢したら誰かが笑顔になる———
私が笑顔でいれば、すべて丸く収まる————これで良いじゃないですか」
そう言う彼女に————私は—————
『馬鹿じゃないですか!!それは何もしていないだけです!!諦めているだけです!!』
私はお説教を始めていた。
『だいたい、死んでまで、なにを言っているんですか!!後悔とかありまくりの話じゃないですか!!』
それに、自分が我慢したら?
『それはつまり、嫌なことだって自分で分かっているじゃないですか!!
それで、笑顔でいれば誰も悲しまないと言いましたね』
急にお説教をされて驚いていた彼女は———
「ええ、誰も悲しまな————」
『今までは、そうだったかもしれませんが!!これからは、私が悲しみます!!』
「———!?」
私の言葉に彼女は驚く
「な————なんで神様が悲しむんですか!!初めて会ったのに————」
初めて?
『いいえ、貴方は私に何度か会っているはずですよ』
輪廻転生————魂は巡っている。
『正確には魂でしょうが————私の誰かに貴方はちゃんと会って生まれ変わっている』
だから————
『知人程度の関係はありますから!少しくらい、頑固な知人に餞別をあげましょう』
体質 強靭 精神異常耐性
「あの————」
『これがあれば、基本、生き残れるでしょ?』
私はそう言いながら、魔方陣を起動させた!
「ちょっと!!待ってください!!なんで————」
彼女が私に手を伸ばそうとするが————ただのお節介でこんな事をやっているので————気恥ずかしい
『良い来世を————もし、また我慢しすぎたら、私が泣きますから、泣かせないでくださいね!!あまりにも泣くようなことをしたら、天罰を堕としに行きますから!!』
私は消えかけた彼女に伝え————
「あ———ありがと————」
彼女は逝ってしまった。
後日
彼女を送った異世界の管理者から連絡がきた。
あの二人は異世界でやらかしたという事だ。
女子高生だが、没落した男爵の質素な生活なじめず、家出をして公爵に自分の能力を売り込み養女となった。
そして彼女は、魔術的性が無い事から、疎まれ———嫌がらせをしてくる女子高生から、身を護る為に逃げだし、居なくなった娘を探していた男爵に拾われた。
そして————右往左往しながら、時代は流れ———
彼女は、自由と幸福を手に入れたそうだ。
因果の結末を————
「全く驚いたよ、転生後に役割が変わるとか————
面白かったから修正しなかったけど————」
神獣を手にした女子高生だったが————見限られて、彼女のもとに行く話とか面白かった。
なにより、美男子と出会う場面で魔術の才能じゃなく————強靭で鍛え上げたステータスで制圧するとか!彼女は面白い!女子高生の魔の手を掻い潜りながら戦い続けた人生———
また会う事があれば、今度はちゃんとした友人として彼女と話をしたいと思っ————
「まったく、ありえないしーあたしは主役なのに!!!」
『いいえ、貴方は悪役だ』
私は向こうの世界から帰ってきた魂にそう告げ————魂の矯正の準備に入った。
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