第9話 テスト期間

 朝は俺が起きると家に透華が居る。

 学校の休み時間は比較的ずっと一緒に行動して、お昼ご飯も一緒に食べる。

 そして放課後はほぼ毎日勉強会。という生活の多くを透華と過ごすようになってから一週間ほど経過した。



 ◇◇◇


「明日からテスト期間かー。点数を取れる教科と取れない教科の差がなぁ……赤点取ってしまいそう。透華は全教科余裕だろ?」


 季節はやや夏に移り変わっており、俺は制服をパタパタさせながらいつも通り、一緒に帰路に就いている透華に問いかける。


「私は赤点なんて取っちゃったらお母さんに殺されちゃうからできるだけ良い点数を取らないと。まーくんはやっぱり数学が危ない?」


 透華はおばさんに怒られない為に高得点を取る必要がある、なんて笑いながら返して来る。


「数学も頑張らないといけないけど、それ以上に現代文と古文がヤバいよ」


 数学に関しては平均点は取れるというまだ耐えている状態。

 それよりも現代文と古文だ。

 現代文、俺に日本語力が無いのは透華に永久就職の意味をはき違えて言ってしまったことが何よりの証拠だ。

 古文は現代文が出来ない事もあってか連鎖的に出来ない。


「じゃあ今日からみっちり特訓だね」


 勉強時間を増やす事に肯定的な透華は肘を曲げてグッとガッツポーズのような仕草を微笑む顔と共に見せて来る。


「お願いします……」

「その分私は英語を教えて貰おうかな」


 こうして明らかに等価ではない教え合いがこれからも継続的に続くことが決定した。



 ◇◇◇


「現代文は私たちのクラスを担当してる国分こくぶ先生が主軸になって問題を作っているらしいから授業でよく聞いて来る心情の問題が多く出て来ると思う」

「あー、あの主人公の心情ではなく他の登場人物がどう感じてるのかを考えようってやつか」

「うん、だから問題も評論よりも小説の問題が多く出題されると思う」

「そこまで分かるのか。前から透華に教えて貰っていればもっと効率よく勉強できてたかな……」


 これまでの定期考査で只々テスト範囲を万遍なく勉強するだけだった俺はもっと効率よく勉強できる可能性があった事に気づかされた。


「前から勉強会はしていたけど最近までは教え合ったりしてなかったもんね」


 俺たちは永久就職の話が出る前にも勉強会はしていた。しかし、それは教え合いなどではなく、互いを監視し合う為のものであったり各々が自分の課題に取り組むものだった。


「透華には前の頃よりも断然負担を掛けてるけど、俺は今の方が良いな」


 前はどことなく義務的で僅かだが距離もあったように感じる。でも今は各々の課題をやると言うより、それぞれの教科の課題を一緒に取り組むという形で勉強している。


 それもこれも俺が永久就職しないかって言ったからなのか……。


「えへへっ、そっか。まーくんも今の方が良いんだね。私も実は今の方が好きなんだ。まーくんと一緒に勉強できてるっていうのが前と違って実感できるんだよね」


 透華が積極的になってからまだ日は浅いがどことなく透華の表情がそれまでよりも明るくなっている気がする。


「透華がこうやって教えてくれている以上赤点は絶対に回避しなきゃだな」

「私もまーくんに教えて貰った英語で満点取れるくらい頑張らなきゃだね」


 ニコッと笑顔で嬉しさを向けて来る透華を見ると俺の言ったことが間違いだったと益々言い出しづらくなってしまう。


 ◇


「なるほど、古文は単語の暗記をすれば読めるようになるのか」

「うん。でも定期テストは多分だけど活用形とかを問いてくる問題が多い気がするからその暗記とか特徴のある助動詞の入った文章の訳を暗記する方が優先的かも」

「予習でやった品詞分解を今度は復習するのか」

「そうそう」


 現代文に引き続き、今度は古文の期末テストに向けたテスト週間の勉強指針を透華に教わる。


「……突然なんだけど、まーくん。英語の点数勝負しない」

「英語なら良いけど」

「負けた方は勝った方の言う事を何でも聞くってどうかな」


 透華は余程自信があるのか目がやる気に満ちていた。


「分かった」


 俺は勝てるのか、何を頼むかを何も考えずに了承してしまった。



 ◇◇◇


「絶対にまーくんに勝つ。勝って言う事を聞いてもらう」


 勉強会を終え、正樹の家から自宅へ帰って来た透華は正樹に言う事を聞いてもらう為に燃えていた。


「勝ったら何をして貰おうかな……」

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