第8話 台風襲来と彼シャツ?!

 週末が明けた月曜日の朝。

 外では雨と風が騒ぎ立てており、窓がガタガタと揺れまくっている。


 俺はもしかすると学校がなくなるかもしれないという可能性と共に用意もせずにリビングに下りた。


 階段を下りてリビングに入ったが当然透華の姿はない。見える台所にも母さんの姿しかなく、透華は居なかった。


 学校がどうなるのかを知る為にテレビを点ける。予想通り大雨警報、洪水警報、暴風警報が出されているのが確認できた。

 俺の通っている高校は暴風警報が発令された場合、普段自転車で登校する者や電車を使って登校する者が登校出来ない事があるので休校になる。


「よし、学校なくなった」


 俺は母さんに学校は無さそうだ、と伝えて二度寝をする為に自室へ戻ろうとした。


 しかし、ここで家のインターホンが鳴る。


 母さんが何やら作業をしていたので俺が対客する事にした。

 雨も風も強いので一々モニターで応答するのも相手が可哀想だと思い、誰かわからないまま扉を開く。


「はい、どちらさま……透華?!」

「まーくん……」


 傘を差しながら透華が扉の前に立っていた。


「どうして来たんだよ。雨も風もすごいし、危ないんだぞ」

「でも、会いたくなって……」


 透華にとって俺は禁断症状の出てしまう薬と一緒なのか?


「と、取り敢えず一回中に入って」

「わかった」


 傘を差していたと言えど雨を完全に凌げるほどの万能性は待ち合わせていない、ましてや今日のような風の強い日は傘の機能性は一段と下がるので透華はかなり濡れていた。


「結構濡れてるな。このまま帰っても風邪を引きそうだし、この天気で家に帰したくないし……。ってかおばさんは止めなかったのか?」

「お母さんがトイレに入ったのを確認してから飛び出して来た。一応まーくんの家に行くってライソはしておいたけど」

「マジか……」


その行動力は他で使ってくれ、と思いながら透華が風邪を引かないように努める。


「俺、タオル持って来るから透華はちょっとの間だけここに居て」


 俺は透華を玄関に残し、お風呂を沸かしてからタオルを持って透華の元に戻った。


「はいこれタオル。今お風呂沸かしてるからお風呂場に行って、タオルで身体を一通り拭いてお風呂に入って来て。今着てる服は洗濯機にでも入れてくれたら良いから」

「うん……でもこのまま歩いたら床がびちょびちょに」

「拭いてから歩いても濡れるだろうし、こんな玄関で身体拭きたくないだろ」


 透華にそう促した後、俺は透華が着れそうなものがないか物色する。



 ◇◇◇


「嫌われちゃったかな……」


 透華は学校がない一日を正樹と一緒に過ごせる。そう思って正樹の家にやってきた。

 しかし、正樹の考えは会いたいという透華の欲望を前面に出した考えとは異なり、透華の身を案じるものだった。


「まーくんはいつも優しいなぁ。私なんかが婚約者になっても良かったのかな……。もっと他にいい人も……。はぁ」


 正樹と自分が釣り合っているのか、透華は温かいシャワーに打たれながらため息を吐いて考える。


「と、透華……着替え、俺の服でもいいか?」


 シャワーを浴びている透華に向かって正樹がお風呂の扉越しに声を掛ける。


「あ、うん。ありがとう」

「じゃあここに置いておくから。それと洗濯機に入れた服は母さんが明日までには返せるって」

「ありがとう」


 お風呂が沸いたと知らせる音が鳴ったので透華はシャワーを止めて湯船に浸かる。


「あったかい」



 十分に身体を暖めた透華は湯船から上がり、さっきとはまた別のタオルで身体を拭いて正樹の服を着る。


「まーくんの服。まーくんが着たことのある服って事だよね。まーくんの匂いがする。これ、私が着たからちゃんと洗って返すって言えば持って帰れるかな」


 さっきの悩みは何処へと言わんばかりに透華は正樹の服に興奮していた。


「あれ、パンツ……どうしよう」


 ◇


「お、お義母さん、お風呂ありがとうございました。すっごく気持ちよかったです」


 透華は俺の服に着替えてリビングまでやって来て母さんに礼を言った。


 シャツが大きすぎて脚がちょっと隠れてる。これが所謂彼シャツってやつか……?


「それは良かったわ。でも台風の中出歩くなんて無茶、絶対にしたらダメよ。正樹は何処にも行かないんだから。ね? 正樹」

「あ、うん」


 完全に外堀が埋まって来てる……。これじゃあ益々言い出せる機会が無くなってきたな。


「じゃあ、俺たちは俺の部屋に行くから」

「透華ちゃん。お母さんには連絡しておいたから。今日一日はウチに居て良いからね」

「あ、ありがとうございます」

「美味しいお昼ご飯作っておくから。お昼になったらまた呼ぶわね」


 ◇◇◇


「透華、何する?」


 透華が来る前は二度寝をするつもりだったが透華が傘を差しながら家に来たのを見て眠気が吹き飛んでしまった。


「ま、まーくんとならなんでも良いけど……」


 元々七分袖ではない服が透華が着る事で七分袖になってしまっている。


「透華、そのシャツで良かったか? 他のシャツでも良いけど」

「わ、私は大丈夫。それよりこのシャツとズボン、私が着たでしょ? 明日以降に洗って返しても良い?」

「わざわざそんな事しなくても——」

「洗って返しても良い?」


 透華から洗わせろというものすごい圧を感じた。


「良いけど」

「……やった」


 俺の服を洗えるのがそんなに嬉しかったのだろうか、透華が明らかに嬉しそうに笑った。


 嬉しいそうならまぁ良いか。


「ゲームしよう。落ちものパズルとか」

「いいよ」


 父さんが昔、ゲーム好きだったのでゲーム機を買うことに躊躇いは無く、俺の部屋にはゲーム機が揃いに揃っている。


 俺と透華の落ちものパズルの戦績は五分五分。勝って負けてが続いている。


「まーくん組むの速いよー」

「その分雑だから」

「ここにこれを置けば、よしっ4連鎖」


 透華が先に仕掛けて来た。

 俺もあと緑が落ちてきてくれれば、間に合うか。


「あー、せっかく緑が来たのに置きたかった所にお邪魔が……っでもまだ耐えれるはず」

「2連鎖、2連鎖」

「あっ……」


 初戦は呆気なくやられてしまった。


 そこから何度か勝って負けてを繰り返しているとお昼時になった。



 ◇◇◇


「俺ちょっとトイレ行って来るから先に食べてて」


 正樹が席に着く前に一言だけ言ってトイレへ向かった。


「透華ちゃん、率直に言うね。今下着はどうしているの? 替えの下着なかったよね?」

「……は、履いてないです」


 透華は考え抜いた結果、下着を着用せずに今日一日過ごす事に決めていた。


「ごめんなさい、頭が回っていなくて。気がついた時にはもう二人が部屋に行っていたから……。おばさんので良かったら使う?」

「いえ、元は私が無茶してまで来たのが原因ですから謝らないでください。それにスースーしてなんか気持ちよくなって来ましたから」

「……」


 この沈黙は正樹がトイレから戻って来るまで続いた。



 ◇◇◇


 外出が可能になるほど雨風がマシになったところで透華は帰宅した。

 もちろん外出したことを怒られはしたものの透華はそれどころではなかった。


「まーくんの服を直で着ちゃった。えへへ。まーくんの服を着た私」


 パシャ


「明日以降に返すって言ったし、今日はこの服で寝ようかな……なんちゃって」

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