第4話 初デートの約束を交わす

 俺が遠回しのプロポーズ?をしてしまってから二日が経過した。

 今日は透華が朝から家に来てもいいように早めに起きる。


「もし透華とこれから関係を築くにしても改めてちゃんとした形でスタートを切りたいし、本当の事はいつかは言わなきゃいけないよな。でも、傷つかないように事実を伝えるにはどうするのが一番マシなんだろう……」


 間違いだったとはいえ、あんな事を言ったのは事実だ。でもだからと言って突然婚約なんて、透華の方も急に言われてビックリしているかも知れないけど。俺もまだ心の準備が出来ていない。


 透華の事は勿論好きだ、幼馴染として。

 だからこそ、これから一緒に働いて欲しいと思ったし、俺が会社を継いだ時はそばで仕事を支えて欲しいと思った。


「仕事も一緒にしたいし、この関係は絶対に壊したくない。だから透華を傷つけてまであれは間違いだったとは言いたくない。何が正解なんだ……」


 恋愛対象として透華をまだ好きだとは思っていないこんな状態で結婚までコマを進めようなんて不誠実だし、そんな中途半端で透華の気持ちに応えたくない……。


 そもそも透華は俺の事をどう思っているのだろう。

 元々俺への好感度が高かったから永久就職と言われて嬉しかった? 

 それとも只々あんな風に言われたからスキンシップを増やすほど気持ちが芽生えたのか?



 考えを口に出しつつ頭の中を整理して制服に着替える。鏡に映った俺は頭を捻っているようにさえ見えた。


「一旦、下に下りるか~」

 身支度を終えたので昨日よりも早く自室を出てリビングに下りる事にした。


 ◇


「母さんおはよう」

「あら、今日は早いのね。おはよう」


 今日は透華は来ないのだろうか、母さんが台所で着々と料理をしているのが見えた。

 いや、あれはお弁当じゃなくて朝ごはんと、夕食の下準備か……。


「顔洗いに行こっと」


 洗面所に着いた俺は目を覚ます為、スキンケアの為、そして雑念を振り払う為に二度三度と水を顔にぶつける。


 顔を洗った後は朝食を食べ、歯磨きをして過ごした。

 早めに起き、早めに準備を済ませてしまったので時間が余ってしまった。



「透華も来なさそうだし、そろそろ行くか」

 てっきり連日来るものだと思っていたが……。

 家の中でテレビを見たりして多少の時間は潰したが、それでも暇を持て余していたので、いつもより早く家を出る事にした。


「行ってきまーす」

「あっ……うん、行ってらっしゃい。そうそう、今日は学校の購買でお昼買ってくれる?」


 母さんが何か言いたげな様子だったが、通知音の鳴ったスマホを確認すると何でもなかったように行ってらっしゃいと言ってきた。


 ◇


 学校へ向かう際、俺はいつも透華の家の前を通る。今日も今日とて透華の家を通ろうとしていた時のことだった。


「お母さん。明日からは起きなかったら絶対に起こしてよ。朝ご飯? パン? 分かった。行きながら食べる。……行ってきます!」


 家の横を通り過ぎようとしたその家の扉が開き、同じ高校の制服を着ていると思われる生徒が出て来た。


「あっ……」

「えぇ……」


 目の前には少女漫画の主人公という言葉がピッタリ当てはまる様なパンを咥えた女子高生の姿があった。


「お、おはよう。透華」

「あわ、わわ……お、おはよう。まーくん」


 パンを咥えながら家から出て来た所を俺に見られて恥ずかしかったのだろうか、透華が俺に背を向けて、今出て来た家の方へ身体を向けてしまった。


「一緒に行きたいんだけど……その、パン食いながら歩くってのもなんだし、学校に行く途中に通る公園でそのパン食べるか?」

「う、うん……。そうする。私も一緒に行きたいし」


 こうして俺は『遅刻遅刻〜』というテンプレ的なイベント?を回避した。



 ◇◇◇


「なるほど。夜遅くまで起きていたから今日は昨日みたいには起きれなかったのか」

「ごめんね。今日も作らせて貰う約束をしてたんだけど、結局行けなくなって……」


 俺と透華は昨日と同じように屋上のベンチに並んで座って昼食を取っている。

 因みに俺は購買で買ったパンを食っている。


 透華はしょんぼり落ち込んでいるが、俺は元より無理をしてまで弁当を作るなんて苦労を掛けたくなかった。

 寧ろ第一に俺の為、ではなく自分のことを優先して欲しい。


「透華、俺たちは良くも悪くもまだ高校生なわけでさ。今から数えたって高校二年の夏と秋と冬、それから高校三年の一年間が丸々残ってる。だから今は、今だけでも俺の為に……とかじゃなくてもっと自分の為に時間を使って欲しい」


 ……まだ俺が透華の気持ちに見合えていないってのもあるし。


「じゃあ私の為に時間を使いたいんだけど、そのお願い聞いてくれる……?」

「お願い? 良いよ!」


「私さ——」

 と透華がベンチから立ち上がり俺の前をゆっくり一歩、一歩と歩き出した。

「まあまあ仲のいい友達は結構いるんだけど、そこまで深い仲じゃなくって……。見に行きたい映画があるんだけど誘いにくくて。だから一緒に行く人がいないんだ……」


 映画を観に行きたい。確かに自分の為に時間を使う、か。


 透華がクルッと身体を回転させてこっちを見つめてくる。

 これは俺が何かを言わなきゃいけないパターンか?


「俺でよければ一緒に観に行く?」

「い、良いの? じゃあ明日のお昼頃とかって空いてる?」

「明日は土曜だし。俺も予定ないし。よし、明日行くか!」


 あれ、何の映画を観るか聞かずにオッケーしたけど友達を誘いにくいって変な映画なわけじゃ無い、よな。


 ◇


 午後の授業の合間は移動教室やら何やらで潰れてしまったので、下校しながら俺は透華とさっきの会話の続きを話す事になった。


「映画ってどのジャンル?」

「あー、えーっとね……そうだよね。何にも言ってなかったよね。……ふ、普通の恋愛もの何だけど大丈夫?」

「恋愛もの。全然大丈夫!」


 変な生物が出てきて日本を支配する、みたいな侵略系映画とかじゃなくて良かった。あんなのグロくて観れないし。


「あと……今日は勉強会は無しにしてもいいかな」

「あぁ、わかった。じゃあここでお別れだな」


 透華の家の前まで着いてしまったので俺は家に入る透華に手を振って自宅へ戻った。



 映画を観に行く……か。今までみたいに出掛けるだけだよな。

 恋愛映画を観たかったからあんな風に改まって話し出したのか? いや、話の流れ的に改まって話したのか。


 ◇


「これってデートになるよね。遠回しだけどデートの誘い方の一つってサイトにも書いてあったし……。映画はデートの口実だったから何も考えてなくて、咄嗟に恋愛映画って言ったけど、今やってる映画って何があるんだろう」

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