第12話 夏休み前の一幕
「まーくん、おはよ!」
「透華、おはよう」
ルーティンのように当たり前になった登校時の挨拶。透華はいつもより元気良さげで活発な声で挨拶をしてくる。
若干ステップを踏むような軽い足取りにも見える。
「嬉しそうだな」
「だって明日から夏休みだよ? 課題はあるけど課題さえ終われば後は楽しみしか待ってないよ」
あながち俺も夏休みが始まることに嬉しさを感じてないわけではないが、透華はそれが露骨に表に出ていて、まるで高校生には見えないほど夏休みにウキウキしていた。
「いっぱい色んな事をして良い夏休みにしようね」
「もちろん」
いい思い出を作る事に関して透華に反対するはずもなく、寧ろ俺も透華と思い出を作りたいので当然のように賛成する。
「そういえばまーくんのお父さんも帰って来るんだっけ」
「そうなんだよね。久々に仕事が一段落ついたって言うのと話したいことがあるからって帰って来るらしい」
最近ずっと家に帰ってきていなかったがどうやら俺が夏休みの間に帰って来るらしく母さんはそれをかなり喜んでいて張り切って計画を立てていた。
「じゃあまーくんはお父さんとも何か思い出作らないとね」
「どれくらい休むのかまだ聞いてないし分からないけどそうだね」
夏休みについて話し合いながら夏休み前最後の登校として校門をくぐる。
いつもとほぼ同じ時間に校門を通っているが周りに生徒が多い気がする。もしかすると皆もう夏休みが待ちきれなくて気持ちが先走っているのだろうか。
いつもならすんなり靴を履き替えられている下駄箱も気持ち程度混雑していた。
喋りつつ、教室の前に到着したが、教室に入る前に透華が先生に呼ばれていたので先に教室に入り、自分の席に着席した。
◇◇◇
「東堂さん、ちょっと話があるんだけど良いかな?」
「はい!大丈夫です」
透華は大学の事かなと思いつつ連れられるまま職員室にやって来た。
「東堂さん、一応東堂さんの希望に合いそうな学部がある大学をいくつかピックアップしてみたの。この中には夏休み中にオープンキャンパスがある大学もあるから行ってみるのもどうかな?」
「ありがとうございます。予定が合いそうな日があれば行ってみたいと思います」
透華は貰った資料を抱えて正樹に遅れる形で教室に入り自席へ座る。
「まーくんのお嫁さんっていう将来は決まったし知見を広げるのもアリだもんね。失礼の無いように振る舞ったり、まーくんのサポートをするのに知識も必要だし」
透華は貰った資料たちを背負ってきたリュックに仕舞って正樹の元へ向かう。
◇◇◇
「まーくん、夏休み何しよっか?」
用が終わったのか透華が俺の席の側にやって来て早速夏休みについての話を始める。
「何しようか――」
俺が透華に答えようとしていた時、SHRが始まるチャイムが鳴った。
「ごめん透華、あとで」
「わかった……」
少ししょんぼりした表情をして透華が自分の席に戻って行った。
透華が着席したと同じくらいして先生が教室へ入って来てSHRが始まった。
始業式や大掃除などの進み方が話されてSHRが終わり、そのまま今までの終業式の日と同じように進んだ。
◇
「終わった~」
「遂に今から夏休みだな」
終業式の全てが終わり放課後になった事で俺も透華も解放された気分になっていた。
帰り支度、といってもそこまで時間の掛かるものではないが帰る準備をしつつ透華と話す。
「まーくん、夏休みを存分に楽しむためにちょっと考えてたことがあるんだけど……夏休みの課題を最初の二日で一緒に終わらせるのはどうかな?」
「二日で終わるか? 結構課題あったけど」
「だ、大丈夫。一緒に頑張れば終わるはず……終わらなくても私は一緒ならいいけど」
「ごめん、最後の方が聞きとれなかったんだけどなんて言った?」
「な、なんでもないよ。ただ楽しみだなって思って」
透華は夏休みの課題をこんなに早く終わらせたいほど楽しみにしているらしい。透華がこんなに楽しみにしているんだしいい思い出を作れるように頑張らないとな。
夏休み前最後の下校として校門をくぐり、俺と透華は帰路に就く。
「じゃあ明日と明後日は課題頑張りますか。俺の家で良いんだよな?」
「うん、午前中からでも良いかな?」
「良いよ、俺は用意して待ってる。明日は文系科目を中心に先に終わらせるか」
「そうだね、その方が効率良さそう」
◇◇◇
家に着き、正樹と別れた透華は正樹に永久就職して欲しいと頼まれた時以来に喜びが溢れていた。
「まーくんと一緒の時間を過ごす為に一緒に勉強をする。いつもの勉強会は勉強をする為のものっていう要素が強かったけど今回は夏休みに思い出を作る為っていうある意味二人の時間を過ごす為の勉強会……えへへ」
透華の中では課題を終わらせる為に勉強をするという事が正樹との時間を作る為に勉強をするという事に変換されていた。
「そういえば、オープンキャンパスの予定とまーくんと遊ぶ予定の調整もまた考えないと」
透華はリュックから大学の資料を取り出して自身が調べてメモしていた情報と照らし合わせて比較する。
「私が行きたい学部が属しているキャンパスが一番ここから近い大学はこの大学か……。でもこっちの大学の経済学部の専攻内容もまーくんの役に立てそうな気もするなぁ……。この大学のオープンキャンパスって何日だっけ、この大学は事前予約がいるのか」
一度正樹に言われてから考えなくなっていたがこんどはどの大学にしようかと、余計に進路について頭を悩ます結果となってしまった透華だった。
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