第11話 添い寝

 少し不安になりながら歩く俺と、その隣を時折歩く速度を緩めながらも意気揚々と歩く透華の姿が夕陽に照らされて細長く伸びる帰路。


「透華、今日俺の家で例の内容を聞かせてくれるってことで良いんだよな」

「うん。でもまーくんもきっと喜んでくれると思うから……」


 透華の話す声の大きさが徐々に小さくなる。


 どうしたのかと隣を見ると、頬が他の身体の部分とは一角して赤く染まっていた。


 俺はこのあと一体何をさせられるんだ……。


「まさかの僅差だったね。3点差」

「何とか出来る限り思い出して書いたけどやっぱり最後が間違ってた……というか3点差って言ってるけど透華は100点だっただろ。100点とそれ以外の点数って全然違うぞ」


 俺は透華に点数勝負で負けた。

 俺は精一杯思い出したが結局、最後の大門で3点落としてしまった。


「私はまーくんに勝てただけで十分だよ」

「あんな感じの問題が出るって分かってて勝負仕掛けてきただろ」


 俺は苦笑を混えつつ狙ってたなと


「まあね。まーくんは聞いてないだろうなって思ってたから……。でもあの問題は授業の時に先生が出すって言ってたからまーくんがちゃんとしてれば取れた問題だよ? 先生も赤点取りそうな生徒の為のボーナス問題って言ってたし」


 さっきまでの頬を赤く染めていた透華はどこへやら、透華は自業自得だと言わんばかりに勝負の公平性を訴えてきた。


「はい、その通りです。……でも、そんなに俺に勝ちたかったのか?」


 先生が言っていたとはいえど透華は俺が聞き逃していると踏んで勝負を仕掛けてきた。つまりは勝とうと思っていたという事だろう。

 俺は透華を煽り口調で挑発する。その一方で肝心の何をされるかをまだ聞いていないので内心ドキドキが止まらない。


 誓って言うがこれは不安、恐怖に値するドキドキであって決してワクワクから来るものではない。


「ま、まぁ……。へへっ」


 またさっきのように透華の頬が赤く染まり、照れ顔が垣間見える。


 ころころ変わる透華の頬の色と表情を見ながら歩いていると家に到着した。

 透華の家ではなく、俺の家だ。


「お邪魔しまーす」

「透華ちゃん、いらっしゃい。今日は夕食も食べて行くのよね?」

「はい! まーくんと少し用があって、お願いします」

「じゃあ気合を入れて作るわね」


 俺と透華は話もそこそこに俺の部屋に向かう事にした。

 俺がさっさと胸の内を楽にしたかったからだ。


 自室へ向かう際、既に家に連絡を済ませている事も透華の口から聞いた。ホント用意周到だな。



 ◇◇◇


「それで、早速本題だけど教えて欲しい。俺は何をすればいい?」


 部屋に入り、座るや否や俺は単刀直入に聞くことにした。


「……いね、して欲しい」

「え?」


 透華の呟く声が小さすぎて頑張っても最初の方が聞えなかった。


「添い寝したいです。まーくんと……」

「そいね……はっ?! もしかしてそれが望み?」


 俺がそう聞くと透華は床に転がっているクッションを手に取り、顔のほとんどを隠して目だけをこちらに向けて来る。


 その表情はまるで子犬が何かを求めて訴えて来るような可愛さがあった。


 ヤバい……俺が色んな意味でもっと考えて、永久就職をして欲しいと言っていればこんな葛藤しなかったのにな。


 こんなにずっと一緒に居るし、永久就職して欲しいとは言ったものの付き合って下さいとはまだ言ってないんだよな。そもそも俺は透華の事をまだ異性として見れてないし、妹というかやっぱり幼馴染にしかまだ思えない。


「うん……そうなんだけど」


 正直言って添い寝を回避するか? いや、約束は破りたくないな。それに勝負に勝って、絶対に言う事を聞いてくれると思って透華も正直に言ってくれたわけだし無下にするわけにもいかないしなぁ……。


「がっつりじゃないよな? 仮眠程度っていうか軽いものだよな」

「え……軽く一緒に寝たいなって思ってたけど……やっぱり嫌だったら無理にするのは辞めよう。他に考えるから……」


 透華は学校の帰りや母さんと話していた時の笑顔とは全く異なる引き攣った苦笑いを見せて来る。


「別に透華と添い寝するのが嫌とかじゃなくてただどれくらいの長さなのかなって思っただけで。真横で寝た事なんて子どもの頃を含めても一回もなかったからさ、ちょっと緊張しちゃって」

「そ、そっか。良かった……嫌われちゃったのかなって怖かった」


 俺は決断した。

 たとえこの先どうなったとしても今は透華と添い寝をするべきだと心が言っている。


 俺はベッドの上に寝転がり、布団を捲って透華を待つ。


「そ、その……一緒に寝よう?」


 顔が熱くなってしまうほど恥ずかしいセリフと行動をしてしまう。


「う、うん」


 ゆっくりと透華の身体が布団の中に入って来て段々と俺との密着面積が増えて来る。

 目の前には透華の顔があり、赤面している。


「ちょっと恥ずかしいね。まーくん、顔真っ赤だよ」

「透華だって」


 クスッと透華が笑うたびに透華のいい香りが自然と鼻に入って来る。


「添い寝ってこれでいいんだっけ?」

「あんまり分からないけどこれでいい気がする。……だって私が凄く心地よく感じてるから」



 結局、俺も透華も心地よく感じてしまったのか、仮眠程度で済ませる事が出来ず二人とも起きたのはとっくに夕食時を過ぎた頃だった。

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