第6話 初デート、映画を見る前に

 今日は透華と恋愛映画を観に行く事になっている。

 ライソで集合時間と集合場所を決めたので、それに合わせて支度始めた。


「今までみたいに映画を観に行くだけなら、変に着飾らなくても普通のトレーナーと着やすいズボンとかで良いよな?」


 特段、お洒落に着飾る事もなく着やすさ重視で服を選び、ライソで集合場所として決めた俺と透華の家の間にある、斜めったカーブミラーの所へ向かう。


「男として待たせるわけにもいかないし、15分前到着で丁度いいよな」


 昼前に集合する事になっているので、昼ご飯はお互いに食べていない。お昼ご飯は一緒に食べようという事も事前に決めていた。


 俺は透華を待っている間、ご飯屋さんを選ぶのに迷って予定が狂ってしまわない為にスマホを弄り、昼食として良さげなお店の候補を絞り出す。


「俺も透華も好きなもので、映画館の近くで、あんまり高くないお店は――」


 ◇


「ごめん、待った?」


 まだ候補を完全に絞り切れてはいないものの、いくらか目星は付いたところで隣から透華らしき声が聞こえた。


「全然待ってないよ。俺もさっき来たところだし……って透華、なんかお洒落だな」


 待ち合わせ場所に来た透華は、薄いけど透けていない羽織を羽織って、ロングスカートっぽいけどズボン?のようなズボンを履いていた。


「なんか、大学生っぽいな。大学生がどんな服を着るのか知らないけど」

「そ、そうかな。似合う……かな?」

 透華がどうかな、とポニーテールに似ているけどお団子みたいな塊もある髪をフリフリしながら尋ねてくる。


「髪型も相まって似合ってて良いと思う」

 髪型の名前は知らないけど。


「そっか、良かった……。じゃ、じゃあ、行こっか」

「あ、透華。先にお昼ご飯食べてから映画を見るか、それともお昼ご飯は映画の後にして軽く済ませるか。どっちが良い?」

「じゃあ、先に食べようかな。まーくんはそれで良いの?」


 なら、と俺は目をつけておいたお店をスマホに表示させて見せる。


「これが一応何個か目星は付けておいたお店、ハンバーグかオムライスかラーメン。二人とも好きで、且つ映画館の近くにあったお店。どれが良い? もし他に食べたいものとか有ったら探すけど」

「ううん、私はオムライスが食べたい。まーくんありがとう。じゃあ行く?」


 行く? という言葉と同時にパーに開いた透華の手が俺の方に伸びてきた。


 ここで俺は少し勘づいた。透華がただ映画が観たくて俺を誘ったのでは無く、デートとして俺を誘ったかもしれないという事に……。


 手を伸ばす透華の目は輝いていて、今日を満喫するぞという気持ちがヒシヒシと伝わってくる。


「よし、行こう!」

 俺は伸びた手をガッチリ掴んで透華の輝いた目に視線を向ける。


 折角お洒落もして着飾ってきた透華のワクワクしてそうな笑顔を絶やすなんてこと到底できないので、俺の頭には手を繋ぐという選択肢しか無かった。


「……きょ、きょ、今日はいい天気ですね」


 透華の言う通り雲ひとつない快晴が空には広がっているが、透華はそんな事を言いたかったのではなく、手を繋いでから生じたこの無言の空気を一掃する為に考えて出した会話の切り口なのだろう。


「透華、普通に喋ろう。いつも通りで良いんだから、な? 大体前は腕を組んできただろ。」

「あわわ……た、確かにそんな事もしていたような」


 手を握っているせいで当然、透華は両手で顔を隠す事なんて出来る筈も無く、握っていない方の手で顔を隠しながら俺のいない方へ顔を向けるだけで精一杯のようだった。


「じゃあ、透華は今日見る映画のあらすじとか知ってる?」


 そっぽを向いている透華に俺は無難に今日の、恐らくデートという形式のお出掛けで見る映画の事を取り上げて話す。

 透華があらすじを知っているならその内容を聞いてみるのも一つの会話として良いかなという目論見も含めて。


「すーっ、はぁ。……私、実はあんまり調べて無くて」


 透華は深呼吸をしてからこちらを向いて俺の質問に答えてくれた。


「俺もタイトルしか見てないから二人とも予備知識ゼロってことか……それもそれで面白そうだよな」


 お互い初見の方が驚きの展開がある映画でなら映画を観終わった後の感想も語り合えるし。アリだな。


「確かに……」


 特別な繋ぎ方では無く、普通の繋ぎ方で、でも離れないようガッチリ手を繋ぎ、並んで歩く。


 待てよ? あらすじをそこまで知らないって事はどうしてこの映画を見たいって言った? 映画は口実だったりするのか? ならばデートとして俺を誘った線がいよいよ濃厚になってくるな……。



 ◇◇◇


 喋りつつ、デートだろうなと考えて歩いていると目的のお店に到着した。


 最近できた店舗なのだろうか、外観は奇麗でパッと見た感じ汚れている様子はない。


 俺と透華は流石に繋いでいた手は離してお店の中に入る。


「案外空いてそうだし直ぐに入れそうだね」

「昼時なのにな」


 昼時なのに店内は広く、席数が多いのでお店に入ってからスムーズに席に着くことが出来た。



「透華はどのオムライスにする? 俺はこのふわふわ卵のビーフシチューオムライスにしようと思ってるんだけど」


 俺はメニューを開いて真っ先にビーフシチューオムライスが目に入ったのでこれだ、と即決した。


「えーっと、どれにしようかな……。じゃあデミグラスソースたっぷりふわとろオムライスにしようかな」

「ビーフシチューとデミグラスソースのオムライス。よし、注文するぞ」



 メニューを表記そのまま読むことはせず、少し簡単に省略して注文をした。


 ◇


「ま、まーくん。そのオムライス、美味しそうだね……」


 透華が自分の目の前に置かれているデミグラスソースのオムライスには一切手を付けずに俺のオムライスを興味津々そうに見ている。


 これは……もしかしてシェア待ちか?


「透華、ちょっといる?」

「う、うん……」

「…………?」


 あれ、透華……いらないのか?


「あ、あのさ……あーんとかしてみたいんだけど、だめかな」

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