おまけ短編2 お祝いですからっ! みんな集合~っ! その1


※作者よりお知らせ


 こちらの作品は、WEB版の第二幕、第三幕の登場人物も入り乱れてのメタ要素ありのお遊び短編となっております~!


 また、ネタバレ防止のため、呼び方が本編とは異なっている場合がありますがご了承くださいませ(ぺこり)


 もしかしたら、1巻をお読みいただいてからのほうが楽しめる内容かもしれません……っ! ←宣伝用おまけ短編の意味とは……?(; ・`д・´)


   ◇   ◇   ◇


 龍華国の名家のひとつであり、代々、筆頭宮廷術師を輩出している蚕家さんけ


 その離邸となれば、建物自体は立派だが、中身はほとんどが『蟲招術ちゅうしょうじゅつ』の書庫や図書室、資料室などで占められており、居室は少ししかない。


 『蟲招術』とは、異界から常人には見えぬ《蟲》を召喚し、空を飛んだり、何もないところに火を起こしたり、はたまた傷を癒やしたり……。とさまざまことをす術だ。


 蚕家の離邸の中でも、一番立派な部屋の中で、お仕着せに身を包んだ侍女の明珠めいじゅは、あまりのまばゆさにくらくらしていた。


 照明が明る過ぎるわけではない。確かに、露台へ通じる高価な硝子がはめられた大きな硝子戸からは、燦々さんさんと陽光が降りそそいでいるし、光を放つ蝶に似た蟲、《光蟲》が入った灯籠も吊るされているので、室内は十分に明るい。


 明珠の目がくらんでいる理由は、ひとえに、室内に集まっている面々が見目麗しすぎるせいだ。 


 室内にいるのは、明珠が侍女として仕えている美少年の英翔えいしょうと、英翔の従者である季白きはく張宇ちょううと、隠密の安理あんり


 青色を基調とした衣を纏う英翔は、十一歳か十二歳くらいの見た目だが、ともすれば女の子かと見まごうほどに愛らしい。長く伸ばされたつややかな黒髪は飾り紐でうなじのところでひとつに結ばれていた。


 英翔の従者である季白と張宇、安理は三人とも二十代の半ばほどだ。切れ長の目が冷徹な官吏を連想させる季白に対し、いかにも武人然とした大柄な張宇は、腰に剣を佩いている。だが、季白と異なり、凛々しいながらも穏やかな雰囲気をたたえる物腰は、いかにも人当たりがよさそうに見える。


 地味な服装に身を包んだ隠密の安理は、何が楽しいのがによによと先ほどから口元が緩んでいた。


 蚕家側として出席しているのは、当主である遼淵りょうえんと弟子のひとりである周康しゅうこうだ。


 豪奢な服に身を包んだ遼淵は、四十歳を超えているはずなのに、若作りのせいでどうみても二十代後半にしか見えない。下手をすると、そばに控えている弟子の周康のほうが年上に見えそうなほどだ。


 そして、先ほど到着したばかりなのが、客人である初華はつかだ。明珠を除けば紅一点の初華は、紅色を基調とした華やかな絹の衣を纏っていて、咲き誇る大輪の花のようなあでやかさだ。


 季白や遼淵達も整った顔立ちをしているが、やはり英翔と初華の見目麗しさは別格だ。見慣れている明珠ですら、二人を見ているとまばゆさでくらくらしてくる気がする。


 部屋の中央には、大きな円卓も置かれているのだが、安理に招き入れられた初華が、入るなり固まってしまったので、全員立ったままだ。


 彫像のように身じろぎもしない初華の視線は一点に集中している。


 もしかして、驚愕のあまり、立ったまま気絶してしまったのではないかと明珠が心配になったところで。


「まぁ……っ! 何ということでしょう……っ!」


 初華が白い指先を紅をはいた口元に当て、声を上げた。いつもは明るく澄んでいる声が、かすれ、震えている。 


「まさか……っ! こんなにお可愛らしい英翔様のお姿を見ることが叶うなんて……っ!」


 感動に声を震わせる初華の視線の先にいるのは、青い衣を纏う愛らしい美少年の英翔だ。


 女の子と見まごう愛らしい顔立ちと痩せ気味の華奢きゃしゃな体格は、少年用の衣を纏っていなければ、少女と言っても通用するに違いない。


「なんてお可愛らしいのでしょう……っ! これは藍圭らんけい様に負けず劣らずの愛らしさですわ……っ!」


 英翔を見つめる初華の瞳は、星を閉じ込めたようにきらきらと輝いている。藍圭というのは、初華の年下の婚約者だ。


「そうですよねっ! わかりますっ、初華様っ! 少年姿の英翔様はほんっっっっっとうにお可愛らしいですよねっ! 私も、順雪じゅんせつに負けず劣らず可愛らしいと思いますっ! もちろん、藍圭様もとってもとってもお可愛らしいですっ!」


 どうしても我慢できず、最愛の弟の名前を出しながら、明珠もこくこくこくっ! と大きく頷いて初華に同意する。


 が、初華と明珠に「可愛らしい」と評された英翔自身は、ぎゅっときつく眉を寄せ、不満極まりない表情だ。


「初華、明珠。お前達の喜ぶさまを見るのはわたしにとっても喜びだが……。わたしは男だぞ? 可愛いと評されても嬉しくない」


(そのねてらっしゃる感じがさらに可愛いんですけれど……っ!)


 元の顔立ちが愛らしいので、不機嫌な顔も可愛らしいことこの上ない。思わず身悶みもだえした明珠は、英翔を抱きしめていい子いい子となでなでしたい衝動を必死に抑え込む。


 もしそんなことをしたら、英翔本人ばかりか、英翔に心酔している季白きはくにまで、


「侍女の分際で、英翔様になんという不敬を働いているのです!? 英翔様への敬意が足りていませんっ! そんな不届き者は減給したほうがいいかもしれませんね……っ!」

 と叱責されそうな気がする。


 減給だけはお願いだから勘弁してほしい。明珠は実家の借金を返済し、遺してきた最愛の弟・順雪を立派に育てあげるために、仕送りをしなければいけないのだから。


 明珠が可愛さに悶えていることを英翔が知れば、さらに不機嫌になるに違いない、と明珠は沈黙を守る。


 が、怖いもの知らずな初華は、真正面から英翔に問い返した。


「あら、可愛いものを可愛いと評することのどこがいけませんの?」


「だから。わたしは可愛くなどないと言っているだろう? 可愛いというのなら、明珠のほうが遥かにふさわしいではないか」


「ふぇっ!?」


 突然、自分の名前が出てきて、すっとんきょうな声が飛び出す。


「え、英翔様っ!? なんてことをおっしゃるんですかっ!? 私なんて……っ! 絶対ぜったい、英翔様や初華様のほうがお可愛らしいですっ!」


 とんでもないっ! とぶんぶんと手を手を振って必死に否定するが、英翔は納得しない。


「何を言う? わたしにとっては、お前が一番愛らしい」


「ふぇぇっ!?」


 甘やかな笑みで告げられた瞬間、ぼんっ、と一瞬で顔が熱くなる。


 否定しなくてはと思うのに、心臓がばくばくと高鳴って、うまく言葉が出てこない。


 あうあうと言葉にならない声を洩らしていると、ぶっひゃっひゃっ、と遠慮のない笑い声が聞こえてきた。


「英翔サマったらも〜っ! そのお姿でも明珠チャンをどぎまぎさせるなんて、どんな天然タラシなんスか〜♪」


 楽しくて仕方がないとばかりにけらけら笑っているのは安理だ。


「いやまあ、オレとしては、どんなお姿をしてらっしゃったとしても、英翔サマはやっぱり英翔サマだと改めて実感しましたケド♪ オレ的にも、英翔サマはお小さいほうが助かりますし♪ っていうか……」


 ぶくくっ、と安理がふたたびこらえきれないように吹き出す。


「お可愛らしいお姿の英翔サマを拝見するのは久々っスけど、やっぱり見てるだけで楽し〜っスね!」


「楽しくなどありませんよっ!」


 安理の言葉に目を怒らせたのは季白だ。


「わたしとしては、英翔様に一日も早く元のお姿にお戻りいただきたいというのに……っ!」


 額に青筋を浮かべ、ぎりぎりと季白が歯噛みする。


「この超絶鈍感天然娘のせいでいらぬ苦労を……っ!」


「ひぃぃぃっ!」

 季白に射貫くような視線で睨みつけられ、明珠は思わず悲鳴を上げる。


 上司の季白はふだんから厳しいが、敬愛する英翔のこととなると、さらに過激さが増すのだ。明珠では逆立ちしても手に負えない。


 穏やかな声で季白をなだめたのは、腰に立派な剣をいた武人の張宇だ。身体つきは大柄だが、滅多に声を荒らげず人当たりのよい張宇は、明珠にとっては頼れる兄のような存在だ。


「まあまあ、季白。それは明珠のとがではないだろう? せっかくのめでたい場なんだ。もう少し落ち着いて話したほうが……」


 疑問を差し挟んだのは、ひとりつまらなさそうな顔をしていた遼淵だ。


「そういえば、呼ばれたから仕方なく来たけど、今日は何の集まりなんだい? ワタシだって、愛しの君は少年姿じゃないほうがいいなぁ〜。だって、その姿じゃび――」


「わーっ! ダメです遼淵殿っ! もしかしたら新規の読者様もお読みくださってるかもしれないんですよっ!? いきなり盛大なネタバレはおやめくださいっ!」


 焦った様子で大きな声を上げたのは張宇だ。


「今回は、作者命令で『呪われた龍にくちづけを』の第1巻発売記念のおまけ短編の収録のために集められたんですから! 発売日前にネタバレなんて厳禁でしょう!?」


「張宇殿のおっしゃるとおりです! 遼淵様、いくら遼淵様と言えど、そのご発言は……っ!」


 周康までもが、顔を青くして必死に師を止めようとする。


 集まった面々の中では断トツで最年長のはずなのに、遼淵が子どもみたいに不満そうに頬をふくらませた


「え〜っ? でももう、第三幕までカクヨムで連載してるじゃん!」


 抗弁する遼淵に、張宇が幼子に言い聞かせるようにゆっくりと話す。


「それはそれ、これはこれ、です! それに、大筋は変わりませんが、上下巻になったおかげで、あれこれ加筆しているシーンも多いそうですから。さすがに、五年前に連載を開始した作品ですからね……。全体的に見直したらしいですよ」


「つまり、書籍版では英翔様の新たな魅力が見られるというわけですねっ!?」


 張宇の言葉に食いついたのは季白だ。


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