第34話 夏と海と茶番劇と

「──これがアタシのいいね集めのやり方だよ!」


 会社近くの海に来て早々、日向が俺の頭に装着したのは見知らぬカメラだった。

 目線の前にカメラがあるので、視界が遮られて不便だ。


「なんだこれ?」

「もしかしてゴープロも知らないの!?」


 知らねぇよそんなの。

 もしかして俺が知らないだけで、実は陽キャは常にこれを頭につけて生活してるのか?


「ゴープロは凄いんだよ! まるで翼の目線を写すように撮影してくれるんだもん!」

「俺の目線なんて使ってどうするんだよ?」


 陽キャ日向の考えが全く読めない。

 すると日向は、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに、むふふとニヤける。


「今からフォロワーさんたちに、アタシたちと海デートしてる気分になってもらうの♪」

「わぁぁ! 日向さん素敵です!」

「海、でぇと……」


 なるほど。

 デート相手である俺の目線に合わせたこのカメラで撮影して、それをアイスタに投稿しようってわけか。


「というわけで、まずはアタシからね!」



 〇



【日向葵和子 テイク1】


「どう、かな……?」


 もじもじとしながら、頬を赤くする日向。

 ラッシュガードのファスナーがゆっくり下がると、白のビキニが露わになっていく。

 それはいいのだが、ファスナーが胸の辺りに来た時の、ぷるんと飛び出す感じが……、


「……もぅ、どこ見てんのよ変態」


 しまった、つい視線が胸に吸い寄せられて……。友達とはいえ、相手は異性。

 まったく、いつになっても慣れないものだ。


「それで、どう?」

「……すごく似合ってるよ。可愛いと思う……」


 今の俺は、日向の彼氏という設定。とはいえこんな言葉、スムーズに言えるはずもなく。

 ……ってあれ? 日向さんがご不満な様子なんですが?


「やり直し。翼、喋っちゃダメって言ったでしょ?」

「あぁすまん! つい……」


 そうだ。俺は彼氏役だが、あくまでフォロワーに没入感を与えるために用意された無口な主人公だ。

 ということで日向の撮影は後回しとなり、次はモコの撮影へ。



 〇



【咲良モコ テイク1】


「あははは! せんぱーい、ここまでおいでー♪」

(ちょっ、待ってよ!)


 砂浜を元気に駆ける少女を眺めながら、俺はセリフを心の中で呟いた。

 白いフリルの水着と健康的な白い美肌が相まった彼女は、まるで海に舞い降りたプリティなエンジェルだった。(そう思えって命じられた)


「こっちこっちー!」


 彼女の呼びかけに釣られてバシャバシャと海の中に足を入れると、突然彼女は俺に水をかけてきた。(思いっきり顔面に)


「えへへ〜、悔しかったら仕返ししてみてくださいよぉ〜」

(なんだとぉ〜(殺意抑えめ))


 バシャンバシャン、バシャンバシャン。

 跳ね上がる水しぶきと、一緒に写る天使の笑顔。

 あぁ、もし俺の目がカメラだったら、瞬き一つでシャッターを切れたら、最高の一枚を撮れていただろうに。(ゴープロで撮ってるじゃん)


 まぁいいさ。キミとの時間を切り取ったその一枚は、一生俺の心のアルバムに保存してやるから。(早く終われ)


「ねぇねぇ、今度はもっと深いところまで行きましょうよ♪ えっ、お前泳げないだろって? ……そうですよ。だから、お手伝いして欲しいな?」


 その後、泳げない(という設定の)モコの手を掴みながら海で泳いだり、突然クラゲに刺された(という設定の)モコが「足が痺れて動けなーい」と言うので、お姫様だっこしてあげたり、そんな王子様な一面を見せる彼氏(という設定の俺)にモコが「ありがと♡」と微笑んだりした。何だこれ。





【日向葵和子 テイク2】


 月坂が未だに俺たちと合流しないので、再び日向が挑戦。


(うげっ……)


 思わず変な声が出そうになったが、なんとか心の中で収められた。

 だって日向は今、ビキニの紐を外し、まっさらな背中を晒して寝転がっているのだから。


「ねぇ、日焼け止め塗ってくれない?」


 くそっ、巨乳がそんなの要求すんなよ。そのでっかいやつもぎ取るぞ! (そんなっ、俺が先輩の背中に日焼け止めを塗るなんて!)


 あぁミスった、逆だ。いかんいかん、集中するんだ藍川翼。


(わっ、分かりましたよ……)


 ドキドキする鼓動を押えながら、俺は日向先輩から日焼け止めを受け取った。(今度は先輩設定かよ)


(じゃ、じゃあ行きますよ……)

「もう、モタモタしてないで早く塗ってよ〜」


 その口に日焼け止めぶち込むぞ。(そんなに急かさないでくださいよ! まだ心の準備が……)


「ひゃっ……! もぅ……」


 わき腹がくずぐったかったのか、思わず漏れた先輩のエッチな声に俺の心臓がはち切れそうになった。


(ご、ごめんなさい!)

「あぁ、ごめん。なんかキミの手つきがエッチだからつい……」


 ……本気で何言ってんだコイツ。



【あとがき】


ここまでご覧いただき、ありがとうございます!!

今日はちょっとしたおもしろ回です(アイドルたちは至って真面目らしいんですが)。

でも次回は──? (ニヤニヤ)


明日も更新! 19時頃です!


面白いと思った方、続きが気になる方は「いいね」や☆評価、当作品のフォローをよろしくお願いします!!

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