第33話 アイスタグラムからは逃げられない
「無理よ、無理! 私にはぜーったいに無理ー!!」
「そんなこと言ったって仕方ありません! ほら、早くアカウントを作ってください!」
昨日と同じ会議室にて、モコが涙目の月坂からスマホを強奪しようとしていた。
──アイスタグラムにユニットと個人のアカウントを作り、明日から二日以内にいいね数を十万以上獲得すること。
これが一次審査の通過条件だった。
小竹さんによると、ユニットのアカウントが条件を達成しなければ三人組全員が脱落となり、個人のアカウントで達成しなければ、その人だけが脱落するというルールとのこと。
ユニット全員が通過するとは限らない。それを形にした結果がこれか。
「いいから早く!」
「だってアイスタって、写真とか動画載せるんでしょ? 私みたいな陰キャにそんなネタあると思ってるの!?」
「あるじゃないですか! 美弧乃さんの、そのスタイルが!」
「は? 何それ嫌味?」
「えっ、いや──」
「言ってる意味が分からないなら、ちゃんと自分の胸に手を当ててみたら?」
「……日向さーん! 美弧乃さんが怖いですー!」
脱兎のごとく逃げ出すモコが日向に飛びつくと、日向によしよしされながら気絶した。忙しいロリだな。
……ていうか、この女はいつまで無駄な意地張ってるんだ。
「おい、ワガママ言ってないでアカウント作れよ。じゃないと落ちるぞ?」
「分かってるわよ、バカ」
「じゃあ何で作らないんだよ?」
──って聞いても、何も変わらないか。
仕方なく俺はいつものように、挑発するように問いかける。
「もしかして諦めるのか? アイスタが嫌って理由だけで逃げるのか?」
「ぐぬぬぬ……」
「でもお前がアカウントを作らないと、他の二人にも迷惑になるぞ? それでもいいのか?」
「……あーもう分かった! 作ればいいんでしょ!!」
「分かってんじゃねぇか」
さすが月坂検定一級の俺。
不本意ながらもこの不名誉な称号を受けた俺に、こいつの扱い方で分からないことなんて滅多に無いからな。……アホくさ。
とはいえ無事に月坂がアカウントを開設してくれた。
まずはいいねを多く獲得すべく、ユニットのアカウントと三人のアカウントのフォロワーを集める必要があるのだが、ここで思わぬ事態が発生した。
「はわわわわぁぁぁぁ! 大変です! わたしたちのユニットアカウントのフォロワーの伸びがすごいです!」
慌てるモコのスマホを見ると、トライアル・イカロスのアカウントのフォロワー数が、開設して十分も経たないうちに二万を超えていたのだ。
「もしかして、モコの効果か?」
「いえいえ! わたしみたいなヒヨっ子が……。すみませんわたしのアカウント、もうフォロワー五千人超えました」
やはりか。
さすが二軍ユニット『メルティ・キス』のメンバーで、元天才子役なだけある。きっとモコならすぐ一次審査を通過できるだろう。
あとは、最近まで三軍ユニットにいた『知る人ぞ知るアイドル』の月坂と、アイドルとして無名の日向だ。
それなのに、どうしてユニットのアカウントでフォロワーが急増したのか……?
いや、待てよ? もしかして──。
「日向お前、アイスタ開設したことツイッターに流しただろ?」
「もちのろん! ついでにアイドル始めたことも報告したよ!」
どうしてここで日向が? と首を傾げる残り二人。
どうやら日向葵和子が有名人であることは、俺の大学に通ってる学生くらいしか知らないらしいな。
「実はコイツ、大学のミスコンで優勝してんだよ」
「へへへ〜、すごいだろぉ〜♪」
自慢げに語る俺を見て、二人は嘘でしょ、と言わんばかりに固まっていた。
ちなみに日向の個人アカウントのフォロワーは現在で三万人超え。それからもローディングする度にフォロワーは増えていき、ユニットアカウントのフォロワーをどんどん突き放していく。
……いや、それにしても増えすぎでは?
まぁいい。何はともあれ今はかなり優勢だ。俺たちは一次審査を通過することだけを考えよう。
「ねぇねぇ、せっかくだし明日、みんなで海行かない!? 親睦会も兼ねて、みんなでアイスタ映えする写真たくさん撮ってフォロワー増やしに行こ!」
「いいですねそれ! わたし賛成です!」
「「うげぇ……」」
早速の日向の提案にノリノリのモコ。だが俺たち日陰者は、乗り気ではなかった。
「行くなら三人で行ってこいよ。俺は留守番する」
「あっ、抜け駆けするのずるい!」
「抜け駆け言うな。せめてお前は行ってこいよ。水着姿で『何見てんだゴミ』って言ってたら勝手にフォロワーもいいねも増えるだろ」
「むぅぅぅ……、何よその言い方……」
「とにかく、俺はパスだ」
「そんなこと言わないでくださいよ、アルバイトさん!」
「そうだよ、翼も行こうよ! アタシたち三人の萌え萌えな水着を拝めるんだよ!?」
「萌え萌えな水着ねぇ……」
気にならない、と言えば嘘になるけど……。
まぁ俺が行かなかったら頑固な月坂も行かないだろうし、ここは仕方なく引き受けるとしよう。
「分かった。俺も行くよ」
俺の言葉を聞いてすぐにモコと日向がハイタッチ。一方の月坂はというと、さっきの威勢はどこへやら。今はもじもじしている。
「じゃあ翼、カメラマンお願いね♪」
……やっぱり行くのやめようかな。
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