第27話 いってらっしゃい

 あれから二週間後、ついに本番当日がやってきた。

 始めとは見違えるほどダンススキルが向上したメルキスの面々。凪夏子のコーチングや真琴さんの鼓舞のおかげか、ダンスだけでなく、エネルギッシュな歌声も一緒に披露できるようになっていた。

 モコもあの一件以降はスマホを見る時間が少なくなり、自信に満ちた表情。

 これでもう、本番に向けて準備万端だった。


 アイツ以外は……。


「もう、いつまで更衣室に籠ってるんですか、美狐乃さん!!」

「そうだよ、もう本番始まるんだよ!?」

「嫌よ! なんでこんなハレンチな衣装であのステージに上がらなきゃいけないのよ!!」

「お前なぁ、いつまでウジウジ言ってんだよ……」


 カーテンを引っ張ってもなかなか開かないらしく、さすがに飽き飽きした俺も二人に加勢し、思いっきりカーテンを開けてやった。


 ──シャッ!!


 更衣室には、案の定、頬を真っ赤に染めてうずくまる月坂の姿が。

 見ると日向やモコと同じく、へそ出しの黄色いチア衣装を身にまとっていた。


「なんでこの衣装で踊るって誰も言ってくれなかったのよ!」

「言ったらどうせ断るだろ」

「うっさい! バカ!!」


 必殺のピンクポンポンが顔面に直撃。目が痛ぇ。


「どうせ私の醜態はSNSで晒され、エッチな目で見られるに決まってる。……いいやそれどころじゃない。絶対私の貧相なアレをいじってくるに違いない。きっと明日のタイムラインは貧乳ネタ一色だわ……」


 ネガティブなオーラを放つ月坂を見て、溜め息をつくモコと日向。

 そんな二人は大きく息を吸って、


「「SNSなんか気にすんな!」」


 真琴さんみたく、思いのたけを月坂にぶっ放した。


「えっ、なに!?」

「「見たくなかったらSNSなんて開くな!! バーカ!!」」

「なっ、バカですって!?」

「ほら、分かったなら早く立って!」

「ちょっ、離して! てかバカって何よ!?」

「美狐乃さん、自信持ってください! じゃないと今までの練習がムダになっちゃいますよ!」

「モコ……」

「それに、刺さる人には刺さりますから!」

「それフォローになってないわよ……」


 そんなこんなで、ステージ裏に連れられた月坂。

 メンバーのみんなに「可愛い」と言われてチヤホヤされていたが、すぐに隅っこでうずくまっていた。


「ねぇ、翼」


 ジェットコースターの出発を待ちわびるように、日向は言った。


「さっき見てきたよ、ステージ。すっごいキラキラしてた! もうね、色々なサイリウムがぶわーって広がっててさ!!」


 本番前だというのに、一切緊張した様子を見せない日向。無邪気な笑顔を見るからに、今はステージに立つのが楽しみで仕方がないのだろう。


「緊張、しないんすか……?」


 一人の少女の、震える声が聞こえた。声の主は、日向の左隣にいる凪夏子だった。


「そりゃ緊張するけどさ。それより、早く踊りたくてウズウスしてる♪」

「……すごいっすね、日向センパイは。私なんてそんなこと、一度も思ったことないです」


 しゅんとする凪夏子。ぎゅっと握る拳は、小刻みに震えていた。


「大丈夫だよ!」


 しかしその手は、日向の両手に包まれた。


「アタシ、リーグってのがどういうのか分かんないけどさ! 凪夏子ちゃんなら絶対にうまくいく!!」

「センパイ……」

「だから見てて、アタシたちのステージ! それで勇気とか元気とか、いーっぱい凪夏子ちゃんに届けるから!!」

「はっ、はいっす!!」


 ステージが暗転し、辺りでスポットライトがゆらゆら動く。


「それじゃあ行くね、翼! 凪夏子ちゃん!」

「はいっす! 頑張ってください!!」


 歓声が上がり、日向を筆頭にメルキスのメンバー全員がステージへ。

 俺と凪夏子は彼女たちの勇姿を、頭上のモニターから見守った。



【あとがき】


ここまでご覧いただき、ありがとうございます!!


明日は1話投稿です……! 

投稿は夕方に!!


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