第26話 課題は解決か

「はぁはぁ……、もう一度!」


 月坂の仕事が終わってから、俺は月坂の自主練に付き合っていた。

 月坂いわく、俺をめぐって日向とじゃんけんして勝ったとのこと。俺を取り合うな。


「ワンツースリーフォーファイブシックスセブンエイッ!!」


 練習を重ねるにつれて、月坂のダンススキルがみるみる向上しているのが分かる。

 自分の踊る姿を録画して、何度も見直しているからだろうか。


 しかしキレが足りないというのは、素人でも分かってしまう程だった。


 アイドルらしさは、モコからの学びと偶然の産物から得られた。けれど同じように、ダンスを学べる存在が今はいない。

 できればモコみたいに友好関係を持てる存在がいいのだが、さすがに日向にその役は任せられないよな。


「いったぁぁぁ……」

「月坂!?」


 ドンっと鈍い着地音が聞こえた先には、尻もちをついた月坂がいた。


「お前、バク宙はやらなくてもいいのに」

「別に本番ではやらないわよ。失敗したら迷惑だし。でも……」

「やっぱり。まだやってたんだ?」

「日向さん」


 なぜここにいるのか、と月坂は驚いた様子だった。


「まだ女子寮で荷解きが終わってないんじゃないの?」

「あんなの一日で終われないし。それにアタシも練習に付き合おうかなって思ったんだけど」


 適度な柔軟体操を始め、月坂の横に並んだ。

 音楽が流れると、瞬時に日向の表情が明るくなり、動きもキレを表す。

 対する月坂も動きについていこうとするが、どうしても日向のようなキレと、激しくも柔らかな動きを再現できない。


「月坂さん、まだガチガチだね」

「仕方ないでしょ。あなたの言うとおり、柔軟性がないのよ」

「そうじゃなくて。力が入りすぎってこと」

「別にそんなことは──、ひゃっ!? 今度はなに!?」

「ひざカックン。かーらーのー、コチョコチョの刑だー!!」

「ひゃっ、いやっ、ちょっ、らめぇぇぇぇ……」


 もうやめてくれ日向。俺の耳に今の声は毒だから!


「はぁはぁ……、あなたねぇ……」

「はい! 今の状態でもう一度踊ろうか♪」

「あなた何なの!? さっきから!!」

「いいからいいから、早く元の位置に戻って~。この日向様が見ててあげるから~」


 動揺しながらも、月坂は音楽に合わせて踊って見せた。

 怒りで表情はこわばっていたが、ロボットのように動く姿は一切見られなかった。というか、キレが増しているように見える。


「どう翼、分かった? ダンスのキレの正体」

「あぁ」


 余計な力が抜けたことによって広がった可動域。力の入れた瞬間が分かりやすくなることで、さらに目立つようになった素早い動き。


 これが日向の言う、キレの正体だった。


「みんな『キレ』って聞くと、必ずずっと力を入れようとするの。力が入っていないとキレッキレに踊れないって勘違いしてさ」

「なるほど。今までの月坂はそれが原因だったんだな」


 日向の横顔を見て、声をかける。


「日向」

「なに?」

「ありがとうな。コイツのために」

「……べっ、別に。一番ついていけてないあの子がこのままだと困ると思っただけだし」


 バッと立ち上がり、ドアを開ける日向。


「じゃあ、また明日」

「待って、日向さん!」


 そんな日向に、月坂はグッと拳を突き出した。


「次はじゃんけんじゃなく、ダンスで勝負しましょう」


 月坂に応えるように、あるいは挑発するように、日向は手をパーッと広げて、その拳を掴んだ。


「負けて泣きべそかいても、知らないからね?」


 どうやら日向は、月坂のダンススキル向上の良き立役者になってくれそうだ。



【あとがき】


ここまでご覧いただき、ありがとうございます!!


明日は1話投稿です……! 

投稿は夕方に!!


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