第28話 Summery・SnowWhite
「すっごぉぉぉぉぉぉい!!!!」
総勢二万人以上の導入するアキスタを見渡し、日向は目をキラキラさせた。
隙間の見られない観客席、無数のペンライト、そして熱気と熱気のぶつかり合い。これには日向もさすがに唸らされていた。
「アタシたちさっき、こんな大きな舞台で踊ってたなんて信じられない! これが、i・リーグのステージなんだ!!」
「はい! ここはアイドルたちが頂点を目指して最高のパフォーマンスを披露する熱いステージなんです!!」
あらやだモコちゃん。缶バッジやらキーホルダーやらジャラジャラついててド派手な
てかオタクのオシャレ、度を越してて怖いわ。あと頭に四本くらいついてるサイリウムを外してくれ、目が痛い。
「えっ? ……あっ、ごめんなさい」
そんなモコだが、スタッフに注意されて泣く泣く頭についてるサイリウムをしまった。
どうやらこの会場で手に入るペンライト以外は持ち込み禁止との事。
「チア怖いSNS怖いオタク怖いチア怖いSNS怖いオタク怖い──」
そして背後の月坂はもうメンタルが崩壊寸前。なにか声をかけようにしても、周りのオーラがどす黒すぎて近づくことすらできない。
とりあえずこのロリと元カノは他人だと思い、俺は日向に大事なものを渡す。
「はい、日向。ペンライトだ」
「おぉ、これが……! ありがとう、翼!」
分かったから、その光を俺の目に向けないで。
「あら皆さん、会場に来てたのですか?」
「えっ!?」
思いもよらない人物の登場に、俺の声は裏返った。
これからホワイトケミカルの、アンメルティ・スノウのライブだっていうのに。
関係者席に現れたのは、応援Tシャツを身にした白雪さんだった。
「ライブ始まっちゃいますよ? ステージはいいんですか?」
「はい、今日は皆さんの応援に務めます!」
「いやいや、だって今日はプレイオフですよ? 一回でも負けたら終わりですし……」
「とは言っても、ずっと出場していると身体に良くないですからね」
その言葉を聞いて、過去に白雪さんが足を怪我したことを思い出す。
「この世界は厳しいです。動き続ければ壊れてしまうし、一人が欠ければチームが総崩れしてしまうことも珍しくありません。それに……、心ない言葉に、心が壊れてしまう日もあります」
だからこそ休息が必要だと主張する白雪さん。その目はよどみがなく、自信に満ちあふれていた。
「それにワタシは信じなくちゃいけないのです。ワタシがいなくても、今日も、これからも、ずっと勝てるって!」
「そんな、白雪さんは必要じゃ──」
「もちろんワタシだけじゃありません。みんな脆い女の子だから、長くは戦えない。だから誰かがステージから欠けてもいいように、みんなでトップレベルの力を磨く。それがワタシたち一軍ユニット──アンメルティ・スノウのやり方なんです」
それに、と言って、今度は優しい笑顔をこちらに向ける。
「ステージにいなくても、ワタシたちは繋がってますから♪」
これが弊社トップアイドルの、信じるチカラか。
これだから、彼女はきっと頂上に立てるのだろう。恐るべき17歳の女子高生だ。
『ウェムカムトゥゥゥゥ、ジ、アイドリングスタジアーーーーーム!!』
真っ暗になった会場。そこにノリノリな実況の声がドーム全体に響いた。
『数多のアイドルたちがチームで鎬を削る、まさに第一次アイドル大戦!! それが『i・リーグ』!! 本日からはプレイオフ! 頂点は目の前だが、負けた瞬間に即ドロップアウトだぁ! ヒヤヒヤするよなぁ? 推しが負けたら嫌だよなぁ!? だったら、声が枯れるまで応援しやがれ! ベイベェー!!』
毎度の煽りに、観客のボルテージは頂点に。
その瞬間、ステージがどっと揺れた。
『i・リーグ、プレイオフ、第一試合! これから上位4チームで争われる、負けたら終わりの頂上決戦が開幕だぁ!!』
割れんばかりの歓声が響き渡る。
『四月から四ヶ月に渡って行われた戦いはもう全部、見応えあったよな!? お互いの負けたくないという気持ち、どのチームよりもこの会場を湧かせたいという情熱! ……このリーグはもうすぐ閉幕だけど、最後まで盛り上がり、後生に引き継がれる熱いステージにしようぜ!!』
その言葉に感激したのか、会場に歓声と拍手が入り交じった。
『フゥー! イイ感じだ! ──それじゃあプレイオフ、開幕だ!!!』
実況の言葉に応じるように再び会場が真っ暗に。
そしてすぐステージにライトが照らされ、吹き出すドライアイスの向こう側に少女たちが現れるのが見えた。
『まずはリーグ3位、ビワコ飲料株式会社代表! リーグ最高峰の歌姫に注目のバンドルユニット! ラ・テティス!!』
エレキギターの演奏が始まり、奏者に向けて熱い声援がかけられる。
彼女がギターを弾く手の動きはもう、人間のそれじゃない。
音は荒々しいが、それに心を突き動かされる自分がいる。
敵ではあるが、これには興奮せざるを得なかった。
「出たわね、五本指」
どこか恐れるような笑みを浮かべて、小竹さんは言った。
「五本指って、あのギター少女ですか?」
「そう。このリーグを、アイドル業界を牽引する五人のアイドルで、白雪を率いる私たちホワイトケミカル同様、彼女たちのいるチームは全部、優勝候補よ」
そんなチームが相手なのに、今日は白雪さんがいない。まさか今日は、そんなステージで凪夏子が踊ると言うのか……?
「目を離しちゃダメよ、翼くん。どんな結果でも、最後まで応援してあげてね」
「もちろんですよ。だって俺は──」
「あっ……」
ズガン、という大きな物音が会場に鳴り渡る。例の五本指の一人がなんと、ギターを叩きつけて破壊したのだ。
「またやっちまった……」
「どっ、ドンマイ!!」
「ドンマイドンマイ!」「マヂクールで神だったおー!!」
壊れたギターにショックを受けた彼女は、メンバーや観客に慰められながらステージを後に。
「あれが、五本指ですか……」
「えぇ、一応、ね……」
なんというか、威厳の「い」の文字すら見当たらない、破天荒な子だったな。
「べっ、別に! ギターを弾いてるあの子とキャラが被るから参加してないんじゃありませんよ!?」
何も言ってませんよ、白雪さん(可愛い)。
『つっ、続いて! 今大会の優勝候補!! ──リーグ1位、ホワイトケミカル株式会社代表! アンメルティ・スノウ!!』
先程のチームに劣らない歓声がステージ送られる。
センターに立っていたのは凪夏子だった。
「ななこぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「ななこさぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
「ななこちゃぁぁぁぁぁぁん!!!!」
白雪さんの叫びにつられて、モコと日向もセンターに立つ少女の名を叫ぶ。
日向は白く光るペンライトを夢中になって振っていた。
それに気づいたのか、凪夏子はステージを降りる前に元気よく両手を振ってくれた。
『それじゃあさっそく、先攻のラ・テティスから魅せてくれ! 曲は「スプラッビートビート」』
会場が暗転するとすぐ、幻想的な蒼い光がステージに集中した。
センターに立っているのは、先程ギターを破壊した少女。さっきのやつとは違うギターを持ってマイクの前に立っていた。
「──ハァ」
この息遣いから始まった彼女のパフォーマンス。
静かな美声のアカペラから開幕し、ロングブレスが切れたところから始まったドラムの演奏で一気に世界が変わった。
「「「ハイ! ハイ! ハイ! ハイ! ハイ!!」」」
会場の人たちが、蒼くなったペンライトを振りながら激しい合いの手を入れる。
曲は終始アップテンポのまま続き、俺たちの身体は熱くなっていくビートに従うほかなかった。おかげでTシャツは汗まみれだ。
「てめぇらぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
センターの彼女が大きく叫ぶと、笑顔のまま無邪気なウィンクを見せ、
「──愛してるぜ」
バタッ、バタッ、バタッ、バタッ。
会場にいる女子たちを数名、尊死させた。
「きゅいいいいいいい…………」
ついでに左隣のモコも、謎の奇声を発しながら倒れてしまった。
さっきの法被、よく見たらあの子のグッズばっかりじゃねぇか! 裏切り者!
「ななこちゃん、大丈夫かな……」
右隣の日向にいたっては、ずっと両手を合せてあの子の成功を祈っていた。
「大丈夫だ。今はあの子を信じよう」
「……うん」
このタイミングで、再びステージが暗転した。
湖を彷彿とさせる蒼いステージとは打って変わって、今度は太陽が照りつける真夏のビーチを模したステージが広がっていた。
ステージに上がる少女たちの白いビキニ姿に、会場からは「ふぉぉぉぉ!」という桃色の声援が聞こえてくる。
そしてその声が鳴り止んだ瞬間、陽気なサウンドが流れ始めた。
『ヘイ、ボーイズ!?』
「「「ボーイズ!!!」」」
『ガールズ!?』
「「「ガールズ!!!」」」
『うぃあーーーーーーー!!??』
「
観客の合いの手と、凪夏子さんの流ちょうな英語の発音から始まったパフォーマンス。
水着をまとう彼女たちのキレッキレなダンスに日向は釘付けになったのか、「すごい、すごい!」と跳びはねていた。
ここから曲が終わるまで、不安な様子なんて微塵も感じられなかった。
日向からも。そして、ステージの中心で踊る一人の少女からも。
【あとがき】
ここまでご覧いただき、ありがとうございます!!
明日は1話投稿です……!
投稿は夕方に!!
面白いと思った方、続きが気になる方は「いいね」や☆評価、当作品のフォローをよろしくお願いします!!
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