第24話 七十一凪夏子《なぞいななこ》

「本日よりお世話になります! 日向葵和子です!」


 パチパチパチと拍手が鳴る。

 二軍ユニットこと『メルキス』の全員が、昨日に突然加入した日向を暖かく歓迎してくれた。

 そのおかげなのか、それとも陽キャな日向がそうさせるのか、すぐに彼女たちは打ち解け合った。


「なによあの陽キャビッチ……、翼くんにいきなり抱きついて……」


 ただ一人、月坂だけは殺意が抑えられていないようで……って、アイツ、日向に近づきやがった!?


「そういえば、日向さんにずっと聞きたかったことがあるんだけど?」

「ん、なーに?」


 光を失った目で、月坂は日向に問いかける。


「──翼くんとは、どういう関係なのかしら」


 えっ、何コイツ怖い。これから日向を殺すのかっていうくらい怖い!


「えっ? ……なに??」

「いいから、早く答えてくれない? じゃないとその目障りなアホ毛、切るわよ?」

「は? 何その態度?」


 月坂に怖じるどころか、日向は逆に喧嘩腰になる。


「あっ、もしかして妬いてるの? 萌え萌えな葵和子ちゃんと翼が一緒にいるから、嫉妬してんの!?」


 乗せるな日向! 戻れ!!


「は!? 別にこんなデリカシーも人の感情もない、死んだ目をしたアルバイトに嫉妬なんかしてないし!! あなたこそ『萌え萌えの葵和子ちゃん』って何? 痛いんですけど?」

「えっ、なに挑発? これが? アタシ別にそんなのに乗るほどお子様じゃないし??」


 乗ってる! 日向乗ってる!!


 二軍メンバーと日向が仲良くなったと思いきや、今度は精神年齢がお子様な二人による不毛な言い争いが勃発。

 周りは止めに入るが、俺は今のうちに退散しよう。巻き込まれたくないし──。


「どこ行くの、翼♪」


 その瞬間、日向は俺の腕をガッチリと掴んだ。


「おい、お前!」


 ていうか痛いだが? 陰キャのか細い腕が折れそうなんだが? 


「なっ、なにしてんのよ、あなた!!」

「えっ? なになに? アタシは友達といつも通りのスキンシップをしてるんだけど? やっぱり妬いてるよね? ね!?」


「ね!?」のタイミングで俺に近寄るな! 腕に柔らかいアレが当たってるから!!


「ぐぬぬぬ…………、私だって!!」

「月坂まで!?」


 ひどく赤面しながら勢いよく腕を組んできた月坂。

 ねぇ、そっちも痛かったんだけど? お前が強く当たってきたせいで、お前に何とは言わんクッションがないせいで痛かったんだけど!?


「翼、今日もアタシと朝までお酒飲んでゲームして一緒に過ごそ? いつも通り、アタシの家でさ♪」

「なっ……! はしたない!! 翼くん、今日は朝まで私のレッスンに付き合いなさい!!」

「おい、お前ら離れろって!」

「くふふふふ……、両手にアイドル。アルバイトさん、羨ましすぎますぅ~」

「モコまで!? てかどこから持ってきたんだその一眼レフ……って、おい! 撮るな!!」

「くふふふふ……、この写真、わたしの家宝にしましゅ……」


 もうやだコイツら。周りのみんな引いてるし、マジで誰か助けてくれ。


「ぎゃあぎゃあうるせぇぞ、蛙ども!」


 背後から現れた真琴さんの怒声に、俺たち四人は肩をビクッとさせた。


「おいアルバイト、遊びに来たのならさっさと消えろ」

「違うんです真琴さん……、元々はコイツらが……」

「「「いいえ、全部この人が悪いです」」」


 お前ら、焼き肉奢る話取り消すぞ。


「まぁ、そんなことはどうでもいい」


 俺を睨んでから舌打ちをした後、真琴さんは本題を告げた。


「お前たちメルキスには、i・リーグのステージに立ってもらう」


 全員を包む空気が、がらりと変わった。緊張でこわばった雰囲気が肌を刺す。


「真琴さん、それ本当ですか……」


 月坂の震える声に、真琴さんは「あぁ」と言って頷く。


「実はお前たちに、i・リーグプレイオフのオープニングアクトで曲を披露して欲しいという依頼が来てな」

「その曲って、もしかして新曲ですか!?」


 モコの驚く口調に今度は「違う」と答えたが、


「お前たちには昨日、日向をテストしたナンバーを披露してもらう」


 その後の言葉はもっと驚愕だった。


「期限は二週間。昨日のアレはダンスだけだったが、今回は歌いながら披露してもらうつもりだ」


 あんな激しいダンスに、今度は歌まで加わるとは。昨日といい、この人の要求するレベルが高すぎる……。


「ちなみに最後のバク宙は日向に再び挑戦してもらう。──できるな?」

「はい!!」


 対する怖いもの知らずの日向からは元気な返事。プレッシャーや不安が一切感じられない。


「そして今日、アタイ様はこの後に予定があってな。代わりに一軍ユニットのメンバーにレッスンを協力してもらう。入れ」


 真琴さんの合図を聞いて登場したのは、白雪と同い年くらいの、健康的な褐色肌とおへそを晒した女の子だった。


「はじめまして! 自分、七十一凪夏子なぞいななこっす!! 凪夏子って気軽に呼んで欲しいっす!!」


 こちらも日向に負けず劣らず元気な挨拶だ。エネルギッシュという言葉がよく似合う。


 七十一凪夏子なぞいななこ──アンメルティ・スノウ所属。16歳。高校一年生。

 健康的な小麦色の肌に、派手な金髪が特徴。


 そんな彼女の武器は、リーグ最高峰のダンススキルだ。世界のダンスコンテストで優勝した経歴が幾つもあるのを見るからに、おそらくそのスキルは真琴さんや日向すらも軽く凌駕するのだろう。


 ちなみに身長と体重はおろか、スリーサイズからカップ数まで覚えているが、ここは伏せておく。

 なんか俺、アイドルのこと知り尽くしすぎてキモくなってない? それならマジで小竹さんのせいなんだけど。


「よろしくね、凪夏子ちゃん!」

「はい! あなたが葵和子センパイっすね!? こちらこそよろしくっす!!」


 元気な者同士ですぐに打ち解け合う二人。その証拠に二人でパシャリと自撮り。出会って数秒でそこまでの関係になるの凄くね?


「というわけで、今後はあの曲を完璧に披露できるまで、凪夏子にみっちりコーチングしてもらう。いいな!?」

「はい!!」


 真琴さんの言葉に、日向だけが返事する。

 対して残りの皆は、先程与えられた要求が頭から離れないのか、不安で顔を曇らせていた。


「返事は!?」

「「「はい!!」」」


 その大きな不安は、真琴さんが怒鳴りつけても拭われた気配を見せなかった。



【あとがき】


ここまでご覧いただき、ありがとうございます!!

新キャラ登場と、真琴さんの無茶ぶり。

さてさて、……一体今後はどうなるのやら。


明日は1話投稿です……! 

投稿は夕方に!!


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