第17話 新たな課題

 あの後、色々なことがあった。


 お祭りの翌日、モコと俺たち二人が小竹さんにこっぴどく叱られたり。

 月坂の『ドSキャラ』が開花したり。

 急増した月坂のオタクが『ドブ』と命名されたりした。なんだこの展開は。


「なんか、不本意なんですけど……」

「いいじゃねぇか。モコとお前のユニットライブは大成功したし、SNSのフォロワーもめちゃくちゃ増えたし。これでリーグのステージに近づけたじゃねぇか」

「……それが不本意だって言ってるんでしょ!」


 思わぬ形で有名になったせいで、月坂は頭を抱えていた。

 総勢200人以上の観客を動員した先日のメルティ・キッスのライブ。

 その一環として行われたモコと月坂のユニットライブは、天使のように可愛いモコに興奮する観客たちを、月坂が罵倒するという芸当がうまくハマったらしい。

 本人は嬉しくなさそうだが、ドSキャラの月坂はノリノリだった。


 ──私の可愛いモコに、汚い声援を浴びせないでくれる?

 ──気絶しそう? だったらそのまま永遠に目覚めないでくださる?

 ──みなさん、気をつけてお帰りくださいね! あっ、汗くさいドブの皆さん。罰として、汚れたライブ会場のお掃除をお願いしますね♪


 練習なんて全くしてないのに、そのセリフは全部アドリブ。初めて聞いたセリフだった。

 そんなキレッキレなワード、どこから出てくるんだよ。あと、観客にライブ会場を掃除させるな。


「しかし、『可愛い』が全てじゃないんだな。ファンの心を掴むのは」

「そうかもしれないけど……。はぁぁ……、私、こんなキャラじゃないのに……」

「まぁいいじゃねぇか。おかげで二軍ユニットに加入することもできたし。三軍でセンターを張れなかったお前が二軍へ成り上がりだぞ? 順風満帆にも程があるってもんだ」

「くっ……、人の気も知らないでよくもそんなことを……」

「ホント。……一体、誰に当てられたのやら」

「シメるわよ」

「その目で言わないでくれるか?」


 なんだろう。初めてこの女を『怖い』と思ったんだけど。殺気が強すぎて、マジでビビるんだけど。

 これのどこが好きなんだよ、オタクたちは。



 〇



「はぁ……、疲れた。マジで頭痛てぇ……」


 夜の8時。仕事疲れに俺は参っていた。

 月坂が忙しくなったということもあり、たくさんの仕事に同伴するようになった。

 今日の月坂はマックの半日店長をやって、モコと二人であちこちまわってミニライブをやって……。

 その間に俺は100人以上のアイドルのプロフィールを暗記し、会社に戻ってからは2時間くらい事務作業に励んでいた。

 おら、こんな仕事だ嫌だ!

 早くホワイトケミカルの正社員になりたーい!!


「しかし、どうしたものか……」


 俺の読み通り、月坂とモコをくっつけるという采配でかなりの収穫を得ることができた。

 思わぬ形だったが、『アイドルらしさ』の一つの解を見つけることもできた。

 でも、足りない。これでは、あのステージに立てない。月坂も、モコも。


『美弧乃ちゃんの歌、上手すぎだろ!』

『お仕置してくれー! 美弧乃ー!!』


 SNSで月坂美弧乃を検索してみた。

 相変わらず、歌唱力とキャラは高評価だ。

 しかしこの業界はそんなに甘くない。二人を好ましく思わない意見もあるし、厳しい評価もあった。


『モコみこの二人ってさ、ダンスいまいちじゃね?』

『てか美弧乃ちゃんのダンスって、メルキスのレベルじゃなくね?』

『メルキス好きなんだけど、さすがにリーグのステージでは見たくないような……。複雑な気分』


 どうやら二人とも、特に月坂のダンススキルはまだまだらしい。というかメルキス全体のダンススキルが、一軍の水準を満たせていないようだ。

 歌声とキャラの良さは素人でも食いつきやすい要素であり、そのおかげで彼女たちはここまで人気になることができた。

 だからといって、ダンスを捨てるわけにもいかない。見てる人はちゃんと見てるし、下手だとやはり悪目立ちするからな。

 というわけで、今度の課題はダンススキルの向上というわけだが……。


「適役がいないんだよなぁ……」


 100人以上のアイドルから探してみたが、月坂やモコと気が合う、ダンスの上手い女の子は残念ながらいなかった。

 もういっそ白雪さんや一軍ユニットの誰かに頼んでみるか? と思ったが、これでは月坂が乗り気にならない。

 あの人たちは月坂やモコよりも断然忙しいからな。アイツのことだから「忙しいみんなの時間を奪うだなんて迷惑だ」と言うだろう。


『ピロン♪』


 またもや真剣に悩む俺を嘲笑う音が聞こえた。ケータイを見ると、愉快なお誘いメッセージを受信しているのが見えた。


『いいよ。今から行こう』


 そう返信し、電車で大学の最寄り駅まで向かった。

 今まで誘いを何回か断ってたからな。今日はお詫びに奢ってやるとしよう。



【あとがき】


ここまでご覧いただき、ありがとうございます!!

明日から第三章です!

そこでお知らせなのですが、三章以降は1話のみの投稿で終わる日がありますので、ご了承頂けますと幸いです。


面白いと思った方、続きが気になる方は「いいね」や☆評価、当作品のフォローをよろしくお願いします!!

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