第15話 アイドルらしさ、とは?
数時間後の18時。
俺と月坂、モコはレッスンルームにいた。小竹さんは別のアイドルと仕事に行っているらしい。
「はぁ、はぁ……、スゴいですね、美弧乃ちゃん……」
「はぁはぁ……、まぁね?」
月坂はモコの動きにしっかりついてきており、クオリティはさておき、月坂はモコのキュートな振り付けをコピーできていた。
しかも繰り返す度に完成度が増していく。
きっとこれは『モコに負けたくない』という月坂の本能が、そうさせた結果だろう。
どうやら俺の読み通り、モコの指導は要らないみたいだ。
「でも、なんなんでしょう……」
しかし月坂を高く評価したモコが、どこか納得していない様子を見せる。
「なんか……、美弧乃さんらしくないというか……」
「そんな! それじゃあ私が『可愛いのが似合わない』みたいじゃない!!」
口に出したら怒られるので言わないが、確かに月坂の言う通り、可愛いのが似合っていない気がする。
笑顔がまだ硬いからそう見えるのもあるが、月坂の表情や雰囲気など、見た目から感じる情報も可愛い振り付けがマッチしていないことが一番の原因だろう。
とはいえ、やっぱアイドルらしい=可愛いだろ??
可愛いから、可愛い一面を見せられるから、オタクの心を掴めるんだろ??
だから『可愛い』の権化とも言えるモコとくっつけてみたんだが、それじゃあダメなのか?
「大丈夫ですよ、美弧乃さん! わたしに提案があります!!」
いや、その心配は杞憂かもしれない。
自信に満ちたモコが、ピンッと手を挙げる。
「やっぱり美弧乃さんはクールキャラ路線で『可愛い』を演出するのがピッタリです!」
「と、いうと?」
「たとえば……、『クーデレ』とかどうでしょう?」
「ぶふっっ!!!」
いかん、思わず噴き出してしまった。
月坂がクーデレ? 気持ち悪いったらありゃしない!
……おっと、その気持ちは顔に出しちゃダメだぞ藍川翼。
「今、『お前がクーデレとかキモすぎだろ』って顔してたでしょ?」
ちっ、バレたか。
「てか、『デレる』とかいう概念なんて、もう高校時代に捨ててきたし」
「そうだぞ、モコ。コイツには羞恥の感覚が無いんだよ」
「ちょっと、その言い方やめて!」
冗談ですよ、冗談。
「そっ、そんなことありません!」
どうしても月坂の言葉が信じられないモコは、頬を紅潮させながらこんな提案をする。
「じゃ、じゃあ……、幼なじみのアルバイトさんに……、あっ、愛のコクハクを──」
「好きです付き合ってください。これでいいでしょ?」
こんなに早口で冷めきった告白があるかよ。
「じゃっ、じゃあ!! わたしが作ったこのニャンニャンメイド服を──」
「着るわけないでしょ、しまいなさい」
モコはカバンから出したとっておきの服を、泣く泣く元の場所にしまった。
なんでそんな服を持ち歩いてるんだ、この子は。
「じゃあ、今度は大好きな白雪さんに、ツンデレ風に愛の告白を!!」
「しっ、白雪ちゃんに!?」
おっ、紅潮した。顔がリンゴみたいに真っ赤だ。
「べっべべべっ、別に白雪ちゃんのことなんか……、でゅふふふふふふ」
いや、ダメだ。限界オタクスマイルが出てる。
これじゃあファンがドン引きすること間違い無しだな。
「うーん、ダメですねぇ……」
「そうねぇ、やっぱり私に『可愛い』は……」
「あわわわわ! そんな事ないですよ、美弧乃ちゃん!!」
しゅんと
いや、そんなことを呑気に考えている場合じゃない。
今は『アイドルらしさ』に悩む月坂をどうにかせねば。
『可愛い』がなければ、『可愛い』が似合うキャラがなければ、きっとオタクは振り向いてくれない。『可愛い』は正義だ。
クール路線で可愛いキャラは? オタクが食いつく可愛いクールキャラは?
色々と思案するが、なかなか最適解が導き出せない。
──くぅぅぅぅぅぅぅぅ。
そんな悩みを嘲笑うような可愛い音が、耳に入った。
「えへへ……、なんだかお腹空いてきちゃいました」
音を発した張本人は、気恥ずかしそうに頬をかきながらも、あどけない笑顔を見せている。
うん、可愛い。月坂も見習って欲しいものだ。
「今日はもう帰ろうか」
「そうね」
「そうですね」
レッスンルームを掃除して、俺たちはこの場を後にした。
凝り固まった頭で考え事をしても時間の無駄だからな。また明日、改めて考えるとしよう。
【あとがき】
ここまでご覧頂き、誠にありがとうございます!!
次回は最高にエモいシーンと、予想外のハプニングが!?
早くも佳境の第二章。明日も2話投稿させていただきます。
次回の更新も明日の7時頃を予定しています!!
11万文字以上あるストックが尽きるまで毎日投稿します!!
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これからどんどん面白さが加速しますし、この面白さが書籍1冊分ストックされてますので、良ければ応援よろしくお願いします!!
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