第10話 アンメルティ・スノウ
このタイミングで、ちょうど一曲が終わった。
俺が言える立場かよ、なんて自嘲したい気持ちはあるが、とりあえず言いたいことを言えてスッキリした。
さて、ここで話題を変えるとしよう。
「それにしても、凄いのな。i・リーグ」
「えぇ。だってここは、誰もが一番輝ける世界だもの」
今度はうっとりとした表情で月坂は言う。俺も同感だ。
それからは相手チームと交互に曲が披露され、その間にペンライトが黄色と白色を行ったり来たりしていた。
このライブを見て分かったのは、白と黄色のオーラがぶつかり合う瞬間に、未だかつて無い輝きを拝めること。
互いのチームが勝ち気に満ち溢れているからこそ、このステージを相手より湧かせたいと思っているからこそ、研鑽されていくパフォーマンス。
自分の推しチームが勝って欲しいというファンの強い気持ち。相手だから応援しないのではなく、相手のパフォーマンスでも盛り上がりたいと思わせてしまう少女たちの魅力。
そういうのが全部ごちゃ混ぜになったものが、瞬間の輝きに詰まっているのだろう。
「いやぁ、やっぱホワイトケミカルは最高だぜ!」
「いやいや、一筋ガスの方がアチアチだったと思うが?」
「ねぇ、白雪ちゃんマヂ神じゃね? クールすぎて、ウチと結婚して欲しいんだけど!?」
「それな! 愛サマもワイルドすぎて、アタシ死にそうなんだけど!!」
「マヂでそれな!!!」
それぞれの推しチームへの気持ちをむき出しにするファン。それぞれの推しチームやメンバーを讃え合うファン。みんな、キラキラ輝いている。
この瞬間は対戦方式のライブであるi・リーグだからこそ味わえるものだと、俺は実感した。
「どう? i・リーグの感想は?」
「本当に来て良かったと思うよ」
「でしょ? 最高でしょ?? 特に全体曲の後で披露されたデュオユニットバトル!! お互いペアを信じてる気持ちが伝わってマジで尊い! てか、デュオって概念が尊みの塊ね!!」
「バカ言え。どう考えてもその後に行われたトリオユニットバトルだろ? やっぱり奇数はセンターが映えるから最高だよな。センターの子を中心にステージが作られる。それがアイドルのライブってもんだろ?」
「いやいや、トリオも尊いし良いけど、やっぱりデュオでしょ。それとも何? センターが映えない二人組ユニットは外道だって言いたいの?」
「そこまで言ってないんだが? 俺はセンターがいる方がいいなと思っただけだ。お前、昔からそうやって悪い拡大解釈ばっかりするの変わらないんだな」
「あなただって、何も言ってないくせに『はいはい、俺が悪うございましたぁ〜』って言うくせに!!」
「……一体、誰に当てられたのやら」
「んぐぐっ……、ムカつくぅぅぅぅ!! そうやっていつも私のせいにしてばっかり!!」
ちなみにこのぶつかり合いは輝きのカウントに入れないでね。醜いから、この女が。
「こらこら、ビジネスパートナーになるって誓ってすぐに喧嘩するな」
後ろに座る小竹さんが俺たちの肩に手を叩きつけた。痛いです。
「てかアンタたち、やっぱり元恋人同士だったのね?」
「「うぐっ……」」
「っはは! やっぱアンタたち最高だわ!!」
小竹さんが俺たちの肩をがっしり組むと、急に真面目な表情を見せた。
「来るよ、ウチのエースが」
それと同時に、相手エースのソロ曲が終わり、ステージが突然静かになる。さっきまで黄色く光っていたペンライトの明かりが消えていく。
「ウチのエースの、真骨頂が──」
真っ暗なステージにただ一人、エレキギターを持った雪の精。
白雪さんだった。
物音が何一つない空間に、彼女の透明な歌声とエレキギターの音だけが響き渡る。
そして──。
「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」
英語の歌詞を力強く歌った瞬間、真っ赤なライトが彼女を、ステージ全体を照らした。
伴奏がドッと鳴り響き始める。観客も負けじと盛り上がる。
観客席では、全員が赤いペンライトをタオルの如くグルグル回していた。
灼熱のステージ。ドライアイスの煙が出ていた発射口からは、本物の炎が上がっていた。
それでも雪は溶けることなく、むしろ圧倒的な存在感を見せていた。
ここにいるぞ、と。私だけを見ろ、と叫ぶように。
「すごい……」
「これが……」
「「桐蔭寺白雪のソロパフォーマンス!!」」
俺も月坂も、気持ちが昂っていた。
月坂もどうやらこのパフォーマンスを見るのは初めてらしい。
クールな全体曲。ファンシーなデュオ。可愛らしいラブソングを披露したトリオ。
アンメルティ・スノウはこれまで毛色の違う三曲を披露したが、どれもがアイドルにふさわしいものだった。相手チームに関しても、同様だった。
しかし今、白雪さんのソロ曲はもう、アイドルのそれじゃない。もはや、アイドルらしいかどうかなんて忘れさせるものだった。
これはアイドルの曖昧な定義なんて度外視の、一人の歌姫──桐蔭寺白雪にふさわしいロックナンバーだった。
【あとがき】
ここまでご覧頂き、誠にありがとうございます!!
約3年ぶり?くらいにカクヨム様で投稿させていただきました。
次回の更新も明日です!! 11万文字以上あるストックが尽きるまで毎日投稿します!!
面白いと思った方は「いいね」と当作品のフォローをよろしくお願いします!!
これからどんどん面白さが加速しますし、この面白さが書籍1冊分ストックされてますので、良ければ応援よろしくお願いします!!
あっ、他の緒方作品も見て頂けると幸いです。(特に下の作品!)
タイトル: 超モテる美少女の恋を手伝うことになった『イケメンの友人キャラ』の俺……って設定ですよね?
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