第8話 i・リーグ

「おぉ……」


 会場に入ると、俺は思わず感嘆とした声をあげた。


 2万人以上動員できるライブ会場──アキバ・アイドリングスタジアム(通称 : アキスタ)には、隙間が見当たらない。


 観客席を彩るのは無数のペンライト。

 灼熱の空間の中で、多くのファンがチームやメンバーの名前を懸命に叫んでいた。


「ウェムカムトゥゥゥゥ、ザ、アイドリングスタジアーーーーーム!!」


 ステージ中央にドライアイスが吹き出した瞬間、ノリノリな実況の声がドーム全体に響く。


「数多のアイドルたちがチームで鎬を削る、まさに第一次アイドル大戦!! それが『i・リーグ』!! 今から第3試合、しかも超注目のカードだが!? まだまだ盛り上げられるよなベイベー!!??」

「「「いぇぇぇぇぇぇい!!!!」」」


 実況の煽りに、会場のボルテージは最高潮。それを確認したところで、実況が開戦を告げた。


「それじゃあ始めようか! 本日のラスト、第3試合! まずはリーグ1位、ホワイトケミカル代表『アンメルティ・スノウ』の登場だぁぁぁ!!!」


 一瞬の静寂。暗転するステージ。

 だけどその後流れたBGMに呼応して、観客全員が盛り上がった。

 再びステージにドライアイスの煙が吹き上がる。

 さっきよりも激しく。ステージを覆い隠すように。


「「「ふぉぉぉぉ!!!!!!!!」」」


 煙が晴れた瞬間、6人の少女たちがステージへ歩く姿を現した。

 ある者は勝負に命を賭けるように真剣な面持ちで。ある者はアイドルらしく、華やかな笑顔で──。


「しらゆきぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」


 遅れて現れた白雪さんの姿が見えると、白く光るペンライトを手にした小竹さんが観客や実況に負けじと叫んだ。


 ステージ上には、7人組アイドルユニット『アンメルティ・スノウ』が堂々とした風格を魅せる。


 センターはもちろん、白雪さんだ。


 さすがリーグ1位。絶対王者というべきか。

 白雪さんが持つ貫禄と同等のものを、他の6人からも感じる。なんというか、失敗を許してくれなさそうなプロ意識の高い集団みたいだ。

 あんな存在とこれから一緒に仕事していくのか。腹痛くなってきた。


「続いてこちらも注目! この順位差でも、勝てば優勝も目に見える!! リーグ6位、一筋ひとすじガス株式会社代表『震怒雷武フルドライブ』ぅぅぅぅ!!!!」


 対する相手サイド7人も同じくステージに登場した。

 美麗な『アンメルティ・スノウ』と違い、荒くれ集団というべきか。ヤンキーとかギャルのような、学校のカーストトップを集めたようなチームだった。

 雰囲気はめちゃくちゃ楽しそうだけど、陰キャとかオタクに絶対優しくしてくれなさそう。


「お前らぁぁぁ! 今日も絶対勝つんで、夜露死苦よろしく!!!!」


 金髪少女の荒らげた叫びに応えるように、観客席も盛り上がる。

 さっきまで白かった光の海は、すぐさま黄色に染まった。

 あれ? 俺のペンライトも黄色に光ってる? 何もしてないのに??


「便利よね、このペンライト。状況に応じて自動に色が変わるもの」


 月坂が感心しながら、自身のペンライトを見る。

 黄色く光っていたペンライトは徐々に白色に戻り、それからはボタンをポチポチ押して何色あるか確認していた。俺もコイツに倣ってボタンをポチポチ。どうやら全部で10色あるらしい。


「──って、月坂、なんだよその格好」


 車の中でずっと私服姿だった月坂が、いつの間にか白色のTシャツに着替えていた。

 ライブTシャツかな、と思ったが、胸にはホワイトケミカルの横文字ロゴが書かれている。


「応援Tシャツに決まってるでしょ。なんであなたは着てないのよ」

「えっ、なにそれ? 知らないんだが??」


 周りを見渡すと、ホワイトケミカルの社員とアイドルと思われる人たちが全員、同様の白いTシャツを身にまとっている。

 もしかして、着てないの俺だけ!?


「あー、ごめんねアルバイトくん。キミの分、まだ用意できてなかったわ」


 小竹さん、勘弁してくれよ。

 おかげで俺だけ教科書を忘れたみたいで居心地が悪い。誰か貸してくれ。


「あっ、あの……、私ので良ければ……」

「いえいえ、大丈夫です! マジで!!」


 本当に貸してくれる人が現れたが、俺は思わず焦ってしまった。

 だって声掛けてきたの、アイドルの子だったもん。女子寮で下着姿見ちゃった子だもん!


「いえいえ、せっかくのこの機会ですから、是非!!」

「うっ……」


 それでもTシャツを押し付ける彼女に逆らえなかった。

 その子は確か17歳の高校生なのに、身長が170センチ超えだったっけな。名前は忘れたけど。


「何やってんの、さっさと着てきなさいよ」

「……っ、あーもう分かったよ。ありがとう!」


 なぜかキレ気味の月坂に押され、俺はTシャツを受け取ってトイレの個室に向かった。


「……いい匂い」


 実際に着てみると、女子寮を包んでいた甘い香りが鼻腔をくすぐった。


「そういえばこれ、サッカーのユニフォームみたいだな」


 更衣室の鏡に映る自分の姿を見て思う。

 前面や袖には、ホワイトケミカル以外の企業ロゴが書かれている。

 マックやユミクロ、ヤマグチ電気、たつや書店……、なるほど、スポンサーってやつか。


「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 ドアを開けた瞬間、たくさんの歓声が聞こえてきた。

 会場の外は静かなのに、まるでこの先は別世界だった。


「それじゃあまずはユニット曲から! 『震怒雷武フルドライブ』で、『フルドライブ』!!!」


 曲名が紹介され、観客が全員声をあげながら黄色いペンライトを降り出した。

 イントロが流れると同時に、センターの子がスタンドマイクをワイルドに持ち上げる。


「お前らぁぁぁ! 今日は絶対勝つんで夜露死苦ぅぅぅぅぅ!!!!」


 わぁぁ、と大きな歓声がスタジアムを支配する。


 はい! はい! はい! はい!


 アイドルの叫びと、ファンのかけ声。ここにいる黄色い軍団全員が、最初からアクセル全開だ。


 流れているのは、終始アップテンポなロックナンバー。

 特にサビの盛り上がりは尋常ではなく、スタジアム全体が揺れながら煙をあげていた。


 熱い。心が熱い。まるで燃えるように。

 熱い。身体が熱い。まるで血管が限界まで広がっているみたいに。

 額を伝う汗を拭うのを忘れるくらい、俺はこの熱さに夢中になっていた。

 こんな熱いライブは、いつぶりだろうか──。


「お前らぁぁぁぁ! まだまだ盛り上げていくから夜露死苦ぅぅ!!!」


 曲が終わり、相手側の7人組がステージから去った。

 それにしても、凄まじいものを見てしまったと思う。その証拠に、身体中には鳥肌が立っていた。


 けれど、俺は忘れていた。

 これでもまだ、序の序の口だということを。



【あとがき】


いよいよ本命のライブが始まります!!

更新は明日の昼頃を予定してます!!


面白いと思った方は「いいね」と当作品のフォローをよろしくお願いします!!


これからどんどん面白さが加速しますし、この面白さが書籍1冊分ストックされてますので、良ければ応援よろしくお願いします!!


あと、他の緒方作品も見て頂けると幸いです。


タイトル: 超モテる美少女の恋を手伝うことになった『イケメンの友人キャラ』の俺……って設定ですよね?

URL: https://kakuyomu.jp/works/1177354054895338193

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