第3話 月坂美弧乃
しかし奇妙な話だ。どうして面談の前にあの女のことを思い出したのだろう。
車の助手席に乗せられた俺は、車窓から景色を眺めながら、そんなことを考えていた。
「どうしたの? ボーッとしちゃって。緊張とかしないの?」
「あぁ、いやぁ……、緊張を紛らわすためにボーッとしてたというか?」
「っははは! あなた面白いのね!!」
笑ってそのまま深堀りしてくれなくて良かった。事実、俺は緊張なんかしていない。というか、緊張するほどのやる気がみなぎっていない。至って無気力だ。しかしそんな姿を察せられてしまえば、イメージダウンに繋がりかねない。
背筋を伸ばし、しゃんと胸を張った。
すると、繁華街の大きな電光掲示板が目に入った。
『アイドルの、アイドルによる、アイドルのためのプロリーグ──『i・リーグ シーズン1』! 今日、18時より生放送!!』
アイドルたちがしのぎを削る、アイドルのプロリーグか。
きっとあのバカ女なら、今頃は興奮しているだろう。
そういえば昔は、アイドルにうるさいアイツの話を何度も聞かされたな。
当時は確か、一つの巨大なアイドルグループが絶対的な存在を見せていて、『私もあのグループに入るんだ』と言ってたっけ。
それが今や、大規模なアイドルグループが10組も集まってバトル。きっとステージに立つ誰もが頂点を目指すだろうから、パフォーマンスもどんどん進化していく。アイツのようなアイドルオタクにとっては、激アツな祭典だろう。
「アイドル、興味あるの?」
「まぁ興味があると言うか、無駄に詳しくなったというか、そんなところです」
その返しに、小竹さんは「ふーん」と興味無さげな反応を見せた。
かと思えば、今度は明るい声色で──
「それなら、このバイトは天職だね!」
「……えっ?」
……いやいや、ちょっと待て。
天職? 天職って、どういうことだ?
意味が分からない。
だって俺は化粧品メーカーのプロジェクトリーダー、みたいな役職に就くんだろ? 小竹さんの言う『マネージャー』ってそういう意味だろ?
もしかして同業者にアイドルオタクが多いから話が合わせやすいとか? それとも取引先とアイドルの話をすれば盛り上がりやすいとか?
……全て、違う。
そう気づいたのは、この後のことだった。
「だってウチも『i・リーグ』に参入してるし? てか、分かってて応募したんじゃないの? ──アイドルのマネージャーとして働いて欲しいってこと」
──聞いてねぇよ!! 知らねぇよ!!!
くそっ、騙された。まんまと罠にハマってしまった。
いや、悪いのは俺か? 企業のことをまともに調べなかった俺が悪いのか?
いつの間に、こんなに視野が狭くなっていたとは。……一体、誰に当てられたのやら。
「あの、すみません。どこかで休みませんか……? 俺、ちょっとトイレに──」
「逃げても無駄だから。住所知ってるし、いつでも捕まえに行けるし」
この人、就活生から得た個人情報を悪用しようとしてやがる。おまわりさーん、ここに犯罪者がー!!
「さぁ、急ぐわよ!! 愛しのアイドルちゃん達に会うために!!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
ギアを変速させてフルスロットル。
爆速ターボで車は道路を駆け抜け、大きな本社の入り口に到着した。
その時まで、俺は知らなかった。この車が、俺を地獄へ導く火の車だということも。
だって、目的地に待ち受けていたのは……。
「げっ……」
憎たらしいくらいに美しい黒髪ロングヘア。俺以外の誰も寄せ付けようとしない、肉食獣のごとく鋭い
「どうして、お前が……?」
「どうして、あなたが……?」
お互いが、合わせた目を見開く。
間違いない。
聞きなじみのあった透き通る声を発し、俺を見て驚くこの女を、俺が他の人と見間違えるわけが無い。
【あとがき】
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あっ、他の緒方作品も見て頂けると幸いです。(特に下の作品!)
タイトル: 超モテる美少女の恋を手伝うことになった『イケメンの友人キャラ』の俺……って設定ですよね?
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