第11話
赤い砂漠の中を装甲車が砂塵を掻き分けながら走る。武装した日本製のトラックと隊列を組んで進む。無人機が電波塔を捉えた。同調した視界には巨大なパラボラアンテナが映っていた。砂漠の中にそびえ立つ巨大な無人の軍事施設。砂漠に潜み、資源を改修する白蜘蛛がワラワラと集合し始める。時間との戦いだ。
「メイサ、覚悟は良いか?」
「勿論、後悔はしないわ。初恋の相手は企業の無人機の爆撃に巻き込まれて死んだの。戦争にも参加していないし、犯罪を犯したわけでもない……私は彼らを許せない。街の人も嫌いだけど企業の方が嫌いよ」
「……ありがとうな」
俺は、遠くに見える基地を見つめた。鉄条網で囲まれたゲートをぶち破り、装甲車が止まった。目の前に広がる広大な敷地に、一人の機械仕掛けの兵士が待ち構えていた。黒いコートに身を包み、日本刀を携えた初老の東洋人。気だるけそうな様相で此方を見つめている。
「じゃあ、メイサ頼んだ」「気を付けてね」
俺は首元の線を抜き、上部のハッチから外に出た。快い風が吹いていて涼しい。戦争日和だ。数歩歩くと、目の前に佇む
「……貴様らが、反乱軍の人間か」
「あぁ、そうだ。あんたが例の侍か?」
「如何にも。拙者は傭兵組合所属の刀使いだ。
彼は鞘から刀を抜いた。銀色に輝く刀身は刃こぼれしていた。
「俺も自己紹介しておこう。俺は運び屋で、名前はザック。宜しく頼むぜ」
「承知した」
「あんたの雇い主は何処にいるんだ?」
「知らん。だが、お前たちがこの国を変えてくれるのであれば、それで構わん。俺を倒してからな」
「そうか。まあ面倒くさい事は糞上司に任せてる。最近ずっと嫌な事ばかりが続いてな」
「……世界は腐ってる、お前さんも同じ口か?」
「そんなところだな。あんたも大変だな」
「……お前さん、聞いた所とは違うな」
「サイバーな侍に褒められるなんて、光栄の極みだね」
「ああ。殺しがいがあるよ」
俺達は同時に駆け出した。距離が一瞬にして縮まる。彼の振るう剣撃は、まるで稲妻のように煌めいた。俺はその攻撃を避けずに、右腕で受け止める。腕に痛みが走り、骨まで響く衝撃が伝わる。腕が切断された訳では無いがナノマシン装甲の硬質化じゃ防ぎきれない程の威力だった。俺が避ければ、後ろの奴らを殺すだろう。侍の美学とは、そういう物だ。
「大した男だ。俺の刀で腕を飛ばされないのは」
俺は左腕を振った。拳を握り締めて、全力で殴った。鈍い音がして、吟道の身体が吹き飛んだ。脱力して後ろに飛んだな。着地すると、吟道は起き上がってきた。そして、笑ったのだ。
「人切りは、楽しいか?」
俺は質問しながら拳銃を素早く抜き、頭に三度ぶち込んだ。奴の頭部が吹き飛び、機械部分が露出した。
「お前さん、俺も好きでやってるわけじゃあ、ねえんだ」
襲い掛かる刀を回避する。蹴りを入れられ肺が潰れた。息が出来なくなる。倒れ込んだ俺に彼は馬乗りになろうとした。奴の刀が振り下ろされる瞬間、俺は……笑った。
「メイサ、今だ」「勿論」
激しい轟音と共に、戦車の主砲が咆哮する。砲弾が座底から上昇し、その重量を支えるために巨大な装薬袋が瞬時に点火される。一瞬、砲身の先端が赤く輝き、次第に燃え盛る炎がその内部を包み込む。炎は爆発的な力とともに主砲の口径から噴き出し、周囲に熱風を巻き起こす。瞬、光を纏った火柱が吟道を貫き、激しく爆発する。砲撃の衝撃波が広がり、地面が震える。砂塵が舞い上がり、周囲の景色が煙に包まれる。主砲から漏れる煙が次第に収束し、煙が晴れると、戦車は再び沈黙する。
数十メートル先で、彼は機能を停止しかけている。俺は彼の前に立つ。
「卑怯とは言うまいな」
「ああ。良いコンビネーションだった。次戦を望むよ」
ヤツはニヤリと笑った。そうして、彼の遠隔操作された義体は機能を停止した。
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