Chapter 7
時刻は昼の12時前、今日はギルドでペトラと待ち合わせだ。
ギルドホールの長椅子に座って待っていると、銀髪を靡かせた女性が近づいてくる。
「こんにちは、ヴィル。今日は突然呼びつけて済まなかったわね」
「いや、大丈夫だ。だが、それにしても急だな」
「それも含めて説明するから、まずはランチに行きましょ。立ち話もなんだし、ね」
ペトラに促されるまま、ギルドを出る。
軽く雑談をしながら歩くこと10分ほどで、高級そうな料理店へと到着した。
「ここなら個室でランチができるし、こういった話にはもってこいよ。今日は私からお願いしたんだし、支払いは私が持つわ。さぁ、入りましょ」
店の中は外見と違わずに小ぎれいだ。店員に促されるまま、個室へと入り、ドリンクを選ぶ。さすがにランチなのでアルコールはなしだ。どうやらペトラがコースを予約していたらしく、すぐにドリンクと前菜が運ばれてくる。
「それじゃあ早速だけど、本題に入らせてもらうわ。私とパーティーを組んで、アースドラゴン駆除に参加してもらいたいの。今回のアースドラゴン討伐は、チームで動く関係上、2の倍数パーティーでの参加が義務付けられているわ。私もあなたもギャザラーになったばかりで、パーティーを組んでくれる人はなかなか見つからないはず。あなたにとっても悪い話じゃないはずよ」
「それはそうだが、俺からすると2つ疑問点がある。1つは、なぜ俺を選んだのか。俺と違って、経験が多いギャザラーは沢山いる。2つ目は、なぜ、そこまで焦るのか、だ。こんな、アースドラゴン討伐なんて難易度の高そうなもの、ギャザラーとしての経験をもう少し積んでからのほうがいいはずだ」
「1つ目の質問については、ギャザラー試験であなたの実力の高さを見たから、そしてあなたがアースドラゴンの第一発見者だからよ。ギルドからの情報以上に、直接アースドラゴンを見たあなたの情報は貴重だし、それがあれば私の生存確率はぐっと上がるわ。2つ目の質問の答えは、カネが必要だから、よ。私には今すぐカネを稼がなきゃならない理由があるの」
「カネ、か。ちなみにその理由とやらを聞いても?」
「……私の妹が難病なのよ。妹の治療のために治療費が必要なの」
<警告、会話内容に50%の虚偽を発見>
カエが音声なしで警告文を送ってくる。なるほど。
「半分嘘で半分本当だな。アースドラゴン駆除の報酬は一人1万ペクだったはずだが、難病の類を治療すると考えると額が少ない。妹さんが病気なのは間違いないが、カネが必要なのは自分のためってとこか?」
「……よく気付いたわね。そうよ、妹の治療はもう終わっているわ。カネが必要なのは、その時に借りた借金の返済のため。次の支払いまでにあまり時間がないのだけど、ちょーっと個人的な理由でお金を使い込んでしまって。さぁ、全部正直に話したわよ。それで、結局この話を受けてくれるの?」
「そうだな、俺もカネは欲しいし、正直あのアースドラゴンの発見者として、奴を駆除したい気持ちもある。一緒にパーティーを組んでいいぞ」
「やった!ありがとう!」
ペトラはどうにも抜け目ないが、悪いやつではないだろう。金使いは荒いところがあるかも、だが。
だいぶ話し込んでいたようで、食べながら話している間にランチのコースはもうデザートメニューだ。ペトラが急かすので、さっさと食べてギルドに戻ることにする。
また10分ほど歩いてギルドへと戻り、受注カウンターでアースドラゴンの駆除パーティーとして申請をする。すでに20人ほどの参加があったようで、明日あたりに参加を締め切り、今日から3日後に全体のミーティングや各自の技能チェック、今日から4日後に討伐に出発する流れらしい。
「ヴィル、アースドラゴンの情報について、第一発見者のあなたから話を聞きたいのだけれど、どこか落ち着いて話ができる場所はないかしら」
「だったら、うちに来るか?一応、応接間はあるからゆっくり話ができるはずだ」
「あら、だったらお邪魔しようかしら」
ペトラを連れ、ギルドから歩いて数分のところにある北門へと向かう。
「ちょっと待って、防壁外に向かうの!?まさか、ほかの街に家があるの!?」
「まぁ、ついてくればわかる」
そう言って北門をくぐり、家のある土地の前で立ち止まる。
「なにもないじゃない、何よ突然立ち止まって」
「見てれば分かる。カエ、ハッチ解放」
<拠点ハッチを開放します>
地面に同化して隠蔽されていたハッチがゆっくりと上昇し、拠点の入口が露わになる。
「なにこれ!?ここがヴィルの家、でいいのよね?」
「そうだ。まぁ立ち話もなんだ、中に入ってくれ」
ルフスが置いてある車庫前を通り、ペトラを応接室へと案内する。
「ここが応接室だ、座ってゆっくりするといい」
「見かけない機械がちょくちょくあるわね、ライトも魔術ランプと違って白い光だし」
「アースドラゴンの話はいいのか?」
応接間にある簡易配膳器から来客用の飲み物を出しながら、話を振る。
「そうだったわ!アースドラゴンの話!まずはどれ位の知性がありそうだったかと、それから表面の金属の見た目とか、あとギルドからの依頼書にない情報も……」
「一旦落ち着こうか。まずは知性の話だが……」
それから1時間弱だろうか、おおよその話が済んだあたりで、ペトラは深刻そうな顔をしていた。
「一般的なアースドラゴンはとにかく猪突猛進って感じで、攻撃を待ったりする知性はないと聞いてるわ。それに、本来アースドラゴンの外皮はチタンではあるけど、チタン合金ではないはず。本当に外皮は合金だったの?」
「通常のチタンならマイクロミサイルの攻撃で頭が吹き飛んでいるはずだ。チタン合金で間違いない」
「……ギルドの調査書には、その情報はなかったわ。マイクロミサイルとやらが何かわからないけど、ギルドにその情報は報告しておいた方がいいわ。たぶん、まだ把握していないはず」
「わかった、報告しておこう。そのうえで、非常事態があった時のために、俺のほうでこういったものを考えたんだが……」
「……いや、普通新しい武器なんてそんなポンポン思いつくものじゃないんだけど?あ、でもこれとか有効かも。あ、これなんかも……」
結局17時頃までペトラと話し込み、今日はいったん解散となった。
それからギルドへとアースドラゴンの情報を追加提供しに行ったが、もうある程度駆除時の作戦が決まっているらしく、なるべく注意して行動するとの返事があるのみだった。
そろそろ飯の時間だ。今日は自炊しようと思う。食料品を取り扱っている店が並ぶ通りへと行き、いつの時期でも取れるという琥珀芋、こちらではなじみのあるイノシシ型魔獣のフォレストボアの肉、調味オイルに調味料、サラダに使えそうな生野菜などを買いそろえる。
それらを家へと持ち帰り、調理を開始する。とはいってもキッチンにある調理マシンに材料を入れると勝手に調理してくれる。10分ほどで、フォレストボアのジャーマンポテトと、サラダが完成した。
そこにさっき買ってきたパンを添えて、今日の晩御飯は完成だ。やはり、天然ものの食材はいいな。芋も均一ではないからこそのほくほくとした食感がするし、肉も噛み応えがあったり脂身でジューシーだったりと食感が様々だ。
ひとしきり食べて、満腹だ。情報収集に加え、アースドラゴン駆除の準備もあるし、明日からも油断せずに行こう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます