Chapter 6

 いい朝だ。宿で朝食を食べて、チェックアウトの手続きをし、ガーネットの癒し亭を後にする。なんだかんだいい宿だった。


 ルフスに乗って、新しく構えた地下拠点へと移動する。


 コンバットスーツからの電波で遠隔起動してスロープのハッチを開け、拠点内へとルフスを収納する。


 いい加減拠点の中が暗いままなのも面倒だ。昨日買ってきたガラスやブリキ、海藻の干物、タングステンを含むチタン合金のスクラップなんかをルフスの材料投入スロットに放り込み、ダイオードの光源を作り、設置する。ナノマシンベースの励起光源でもよかったが、今は状況的にナノマシンの浪費はやめておきたい。


 ついでに、水の分解で貯まる一方だった圧縮酸素を断熱材に使って、冷凍保管庫も作ってしまおう。冷凍の際に細胞などを傷つけないよう、銅のコイルや、レアメタルの中にあったボーキサイトのガリウムで電磁波の発生装置も作り、瞬間冷凍できるようにしておく。

 完成した冷凍保管庫に買っておいた保存食のうち、傷みやすそうなものを突っ込んでおく。


 家具はこんなものでいいだろう。よし、お待ちかねの魔術だ。


「カエ、今できているところまでの魔術の解析結果、およびその使用推奨用途について、解説を頼む」

<魔術の発動に必要なものは、術式・媒体・動力の3つになります。現行の魔術具は基本的に、媒体となる貴金属に術式を刻み、動力となるエーテル結晶・魔石を術式に押し当てて起動しているようです。現状わかっている法則としては、術式前後の原子量差・原子数の差・座標分布によって術式が複雑化することと、術式前後のエネルギー差は媒体の質量変化で保持されることです。術式記述の法則性に関しては、現在パターンを解析中です>


 なるほど、ちゃんと法則性はある技術のようで安心した。


「それでカエ、現状の使用推奨用途はなにかあるか」

<平時の用途としては数十種類程度の元素変換、水素の生成装置としての利用、効率的な熱源・冷却源としての使用などです。光源としての利用も予期されますが、現状光エネルギーへの変換術式はデータがありません。兵器としての用途は、物質の変形を使った単純な物理兵器としての利用、熱エネルギーの放出を利用した地雷としての利用などが挙げられます>


 なるほどな。ただこれは、『魔術として』の利用方法だ。


「カエ、前回エーテルを観測しようとしたときに、爆発が起きたよな。エーテルの情報は今後絶対に必要になるが、大量のサンプルを解析したあと俺がそのデータを閲覧すると、どこかで大爆発が起きることになる。だったら、サンプルからデータを集めつつ、その爆発を兵器として利用することで、データを集めつつサンプルを処理する一石二鳥がいいと思わないか?」

<視覚情報として表示できる量に限界がありますが、可能です。観測用のナノマシンを大量に消費することになりますが、よろしいでしょうか>

「絶対に必要になる情報だ。問題ない」

<では、エーテル兵器、仮称エーテルボムの設計はこちらになります>


 その後も、いくつかの装置・兵器を、カエと相談しながら設計していった。




 翌日、資料室でデータを集めるため、ギルドに向かう。


 朝9時の開館と同時に入り、夕方5時までずっと、資料室で資料を読み漁った。一気に読めたので、資料室の読破量は残り半分といったところだろうか。


 連絡の確認にメールカウンターへと向かう。まず、アースドラゴンの情報料がもらえることが確定したらしい。


 その場で受け取るか確認されたので、その場で受け取った。情報料は2000ペクだった。


 今朝の段階でアースドラゴンの情報は公開されて、現在は駆除パーティーの募集をしているようだ。


 パーティーとは複数人のギャザラーの集まりで、今回のような危険な対象を駆除する場合など、複数人での行動が推奨される場合に組まれるものだ。パーティー内で揉めることも多く、報酬規程などは事細かに定められているとか。


 もう一つ、連絡のメールが一件届いているらしい。


 誰からかと思ったら、ギャザラー試験に同時で受かったペトラからだった。


 内容は、一緒にパーティーを組んでアースドラゴンの駆除に参加しないか、というお誘いだった。詳しい話がしたいので近いうちに会って話そうとも書いてある。


 明日も情報収集するつもりだったので、予定は変更可能だ。なるべく早くに決めたほうがいい内容なので、ペトラに明日の12時にギルドで待ち合わせて、ランチでも食べながら詳しい話をしよう、と連絡しておく。

 帰り際にギルドの直売所で100ペク分ほどの魔石を購入した。これは帰宅してから使う予定だ。




 時刻はもう夜だ。そろそろ自炊もしたいが、今のところ拠点には保存食くらいしかないので、今夜は外食だ。


 今夜は、前々から目を付けていた山菜料理の店に行こうと思う。


 この店は目の前で山菜を天ぷらにしてくれるのが売りらしく、カウンターの目の前に揚げ物用の鍋がある。

 

 付け出しはうずまき草のオイル和えだ。うずまき草のうまみがオイルに溶けだしていて旨い。

 天ぷらに合いそうなサッパリした麦酒を頼み、一品ずつ天ぷらを頼んでいく。


 まずは、ドラゴンツリーの芽の天ぷら。ほくほくした食感で、若干ある苦みがアクセントになっている。

 次に、ジャコウネコ草の天ぷら。香りがよく、また歯ごたえがサクサクとしている。

 その次は山焼きオニオンの天ぷら。独特な香草の風味がクセになる。実も大きく、食べ応えがある。

 最後にシメとして、山コカトリスの卵を天ぷらにしてごはんに乗せた、卵かけご飯を頼んだ。衣が付いた卵は、箸を入れると半熟の中身がとろりと濃厚で、天つゆをかけて食べるとシメに最高な罪な味だった。


 会計は合計70ペクしたが、それでも大満足だった。


 また今日も当たりの店だった。まぁカエが判断しているのでそうそうハズレには当たらないが。




 拠点に帰って、少し作業をする。


 魔術を刻んだ小さなチタン板をいくつか印刷し、それで必要な金属類を生成する。


 それらを使用して、直径3cmの球体に羽根がついた、小さいドローンを出力する。


 ドローンには圧縮水素と分解用ナノマシンが使われており、エネルギーが少なくなったら、拠点のダクトを通って発電設備に行き、自動的に水素を補充するようになっている。


 ナノマシンは現状貴重だが、いずれは拠点の無機物ラボを完成させ、供給可能にする予定だ。情報収集のためのドローンはどうしても必要なので、この出費は割り切ろう。


 ドローンを20機ほど作り、コンバットスーツの制御AIと連動させて、森の中に放つ。時間はちょうど夜で目立たないし、いいタイミングだ。


 ドローンには地形情報や、モンスターの分布情報などを集めてもらう。いずれは数を増やすつもりなので、スーツのAI以外にも拠点にサーバー室が必要かもしれない。


 何はともあれ、今日の作業はこれで終わりにしよう。俺は拠点にある風呂で汗を流して、ベッドに倒れこんだ。

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