Chapter 5
家が欲しい。でも金がない。ならどうすればいいのか。答えは自分で家を建てる、だ。
とりあえず、土地を買うために不動産屋に向かおう。
「カエ、半径10㎞内の不動産屋の位置を教えてくれ」
<該当位置情報を視覚内にサブマップとして表示します>
意外と近くに不動産屋があるようだ。宿から2kmほどのところに1件不動産屋がある。
さっそく向かってみる。大した距離でもなかったので、あっという間に着いてしまった。
グラン不動産という看板が掛かった入口の扉を開けて、中へと入る。
「いらっしゃいませ、本日はどういったご用件でしょうか」
「なるべく安くて広い土地を買いたいんだが」
「安くて広い……ですか?農業用地などでしょうか?」
「あぁ、まぁそんな感じだ」
「最安値となると、防壁外の農業用地となりますが……」
「それで構わない」
「防壁外の農業用地となりますと、弊店の取り扱いはこちらのリストにあるものが全てとなります」
両手の指で足りる程度しか選べないな。広さと場所の兼ね合いで選ぶか。
「ではこの、街に割と近くて、そこそこの広さがある土地を購入したいのだが」
「承りました。現地のチェックなどはよろしかったでしょうか」
「問題ない」
「失礼いたしました。2500ペクになります。お支払いはどのように致しましょうか」
「現金一括で可能か?」
「可能でございます。料金と、身分証のご提示をお願いします」
現金とギルドカードを渡した。どうやら番号を控えたうえで、遺伝子配列パターンを2つの書類にまたがるように転写したようだ。
「では、こちらの2つの書類にそれぞれサインをお願いします」
現地語にも慣れてきたので、名前をこちらの発音に当てはめて、こちらの言語でサインしておく。
「ヴィル様ですね、ありがとうございます。こちらが控えの契約書と関係書類になります。これでご契約は完了となります。現地へのご案内もよろしかったでしょうか」
「大丈夫だ、場所はわかる」
住所がわかればAIの誘導があるので迷うことはない。
「はい、ありがとうございました」
土地は手に入れた。よし、始めるか。突貫工事を。
購入した土地は、広さこそはあるもの、道から遠く木も結構生えていて、いかにも安い土地といった感じだ。
まずはルフスの馬力とコンバットスーツのパワーを使って、近くの建材屋からチタン材のスクラップを大量に運ぶ。追加で、この土地では妙に安い銀と、銅、石材を少量買っておく。総額で2500ペクになってしまったが、仕方がない。
それをルフスの光学武装で20cm角に刻んでいく。刻み終わったものをルフスの後部にある材料投入用スロットへと投入。それを材料に使用して、後輪左部分にある出力用スロットから建材を3D出力していく。
出力用スロットから出力されたパーツを、きっちりと組み合わせる。パーツごとの隙間はマイクロメートル単位なので、スーツのパワーで押し込んでいく。
細いパーツ同士を組み合わせて、5mほどある12本の杭を作った。
次に、地面の一部を11mほど掘った後、ルフスの光学武装を使って、建設予定地の地面を40㎝角のブロック状に切り裂いてゆく。
その後、地面ブロックを運び出すと10m深さの四角い空間が出来上がった。そこに先ほどの杭を基礎として、地面に押し込んでゆく。
地面をルフスで走査し、位置のずれなどを補正後、基礎パネルを出力する。それらをパズル状に組み合わせて外壁の1層目とし、基礎とカッチリ組み合わせた後、その中に1mほど空間をあけて、居住空間となる2層目を作る。
2層目の手順も同様だが、柱やダクトなどの細々としたものも出力して組み合わせてゆく。
天井まで組み終わったら、天井の上1mほどに先ほどの土ブロックを積み上げて、カモフラージュする。ルフスの出入り用スロープを出力し、ハッチ機構を設置する。ハッチは銅の伝導コイルと、絶縁に石材を使った銀の回路で作っておいた。
ハッチの上にも土ブロックが入るようになっていて、カモフラージュしてくれるようになっている。ダクト部分も草や木などで隠れる位置に設置してある。
最後に、カエからの電波を受信し処理する少し複雑な電子回路を30分ほどで出力し、あらかじめ石材と銀で外壁に組み込んでおいた回路に組み合わせるように嵌め込めば、とりあえず拠点の完成だ。
ライトや冷凍保管庫、ラボの類など、まだどうすることもできないものはそのままにしてある。
時刻は夕方近い。寝具用の布を購入してきて屋内のベッドにかぶせ、ルフスから圧縮水素を発電設備に充填してハッチを閉じる。
拠点はできたがまだ何もないので、今日は宿に泊まることにするか。疲れたし、飯も宿で済ませよう。宿は今夜で3泊目だ。4泊で予約していたはずなので、明後日には宿を引き上げなくては。
今日はアウラ・ブラー・ニーグの3人に街を案内してもらう約束だ。
今俺は、待ち合わせ場所である、街の中央にある大きな時計塔の前にいる。時計塔の近くに観光解説が書いてある。どうやら数年前に建て替えをして最新技術が詰め込まれており、円形術式とやらが多用されているのが見どころらしい。塔内部は展望スペースになっており、入場料を払って登れるとか。
待っていると、10分ほど早くアウラがやってきた。
「ヴィルこんにちは。元気にしてた?慣れない土地だし苦労してない?」
「こんにちは、アウラ。元気だ、おかげさまでなんとかなってる」
「あんたずっとその鎧着てるけど、暑くないの?」
「たぶん考えてるよりはずっと涼しいと思うぞ」
体温調節用の冷却機能がついているからな。
世間話をしていると、時間ぴったりにニーグがやってきた。
「……元気そうでなによりだ」
「ニーグも。そういえば、ブラーは遅れてくるのか?」
「あいつが遅刻するのは、いつもだ」
「そうなのか……」
待ち合わせから15分ほど遅れて、ブラーが来た。
「ようヴィル。元気か。俺は二日酔いで頭がいてぇぜ」
「命の恩人からの呼び出しに遅刻した理由が二日酔いか。なるほど」
「うっ、これでもいつもよりは頑張ったんだ、許してくれ」
「ニーグはひどい時だと1時間は遅刻するもんね」
「……酒は程々に」
「ところでだけど……」
アウラが改まって切り出した。
「「「その節は本当にありがとうございました!」」」
三人そろって感謝を述べてくる。
「ヴィルがいなかったら、俺たちはほんとに死んでたかもしれねぇ」
「私なんかケガしてたし」
「……人生が終わるかと思った」
「まぁ3人とも、こんなところでその話もなんだし、とりあえず街を案内してくれ」
この町に流れ着いて4日目にして、やっと街を見て歩ける。散策開始だ。
この国において大体の街は、モンスターの脅威からか円形の形をしている。この街アルジェントもご多聞に漏れず円形で、時計塔を中心として東西南北をメインストリートが通っている。街の南半分は大体農業とか工業区画で、民家と畑と工場の他には大した観光スポットもないので、今日は主に北半分を観光することになる。
通りを3人について歩きながら話す。
「へぇ~ヴィル、ギャザラーになったんだ。しかも試験一発合格って。ま、あれだけ強ければそれも納得だけど」
「やるじゃねえかヴィル。てことは俺らとご同業なわけだ。わからないことがあったら、先輩の俺にいつでも聞いてくれよな」
「助かる。その時は頼む」
「……ブラー、調子に乗るな。ヴィルはすでに俺たちより強い」
「ハハッ、ちげぇねぇや」
歩いているうちに、大通りから1本入ったところにある、年季のある店の前についた。中からは金属を研ぐような音がする。
「まずは不肖、ブラーからおすすめさせて頂くのはこちら、オブシディアン武具店にございます」
ブラーが大げさな身振りで説明する。
「そんな鎧を付けてるから武器防具に興味あるんじゃねえかと思ってよ。ここは俺ら3人の行きつけだ」
「確かに興味はあるな」
「親方―!客連れてきたよー!」
ブラーと話している間にアウラがさっさと店の中に入っていく。
あとに続いて入ると、壁一面に金属製の武器が並んでいた。奥の方から、作業着らしき服装の筋骨隆々な男性が出てくる。
「おう、アウラじゃねぇか。客ってのは何の話だ」
「新しくギャザラーになった、ヴィル!彼、強いのよ!」
「ほうほう、たしかにそれはいい客だな。ヴィルっつったか、兄さん、どんな装備をお求めかい?」
視覚情報をカエで解析しているが、どうやら複合金属製の武器が多いようだ。
「短剣をいくつか見せてもらえます?あ、あと遠距離武器の類はありますかね」
「短剣と、もしかして最近流行り出した射出筒の話か?うちにもいくつか入荷してるぞ、少し待ってろ」
そう言って奥からいくつかの短剣と、筒を持ってきた。
「短剣はこんな感じだが、どうだ。値段は大体平均50ペク前後だ」
いくつか手に持って、カエで解析してみる。うん、当たり前だが高周波ナイフのほうがいいな。それにしても、思っていたより安いな。
「そうか、要らないか。まぁお前さんの鎧、オーパーツみてぇだしな。武器もいいモン持ってんだろ?」
「まぁ、そんなとこですね」
オーパーツとは千年以上前に滅びた古代文明の遺産らしい。カエが補足してくれる。
「この射出筒は、どんな弾を発射するんですか?」
「魔石を信管にした魔術弾だな。爆発物を筒で飛ばすような感じだ」
ランチャー型の兵装みたいなものか。正直自作できるし、要らないかな。
「ところで親方さん、材料に使ってる金属をいくつか譲っていただくことって、可能ですか」
これが本題だ。いくつか特殊な材料が手に入れば、拠点を整えられる。
「珍しいこと言うなお前さん。魔術屋に行って変換器買えば、材料なんてすぐ手に入るだろうに」
「まぁ、ほんとに少しだけなので」
変換器はよくわからないが、なるほど。魔術で変換できるのか。それはいいことを聞いた。
とりあえず不自然のないようにごまかしつつ、魔術で変換するまでの繋ぎに、少量のレアメタルを買う。それだけだとあまりに少額なので、短剣も1本購入して、計70ペク支払った。
次はニーグが、魔術道具店に案内してくれるらしい。店名はジオライト魔術具店だ。
「カエ、解析レベルレッド」
<解析レベルをレッドに設定>
魔術具店の中には、紋章が刻まれた道具がところ狭しと並べられていた。それらの紋章をカエで解析しつつ、説明をじっくりと読んでゆく。
「なんかほしい魔術具でもあるの?」
アウラが質問してくる。
「そうだな、水素か水が大量に出る魔術具が欲しい」
水素は重要なエネルギー資源だ。いくらでも欲しい。
「生活用水用の魔術具はどこでもあると思うけど、大量に出るやつは滅多に見ないかな」
「そうか、それは残念だ」
その後、諦めきれないふりをして、魔術具店をいくつかハシゴさせていただいた。魔術の解析結果が楽しみだな。
最後にアウラが案内してくれたのは、家具や雑貨などの日用品店だった。
「この国に来たばっかりみたいだから、日用品に困ってるんじゃないかって思って」
アウラは何かと気が回るようだ。
「助かる、確かに困っていた」
いくつかの日用雑貨と、ガラス製品、ブリキ製の置物を買っておく。いくつかは帰宅後にルフスに突っ込んで素材として使う。
さらに、食料品店にも寄って、保存の効く食料と、ヨウ素抽出用の海藻の干物を買った。
そうこうしているうちに時刻は夕暮れだ。ブラーが酒を飲みたいとうるさいので、一旦荷物を置きに戻った後、酒場で合流することになった。
拠点に荷物を置き、合流予定の酒場に向かう。スカテットの隙間亭という名前の酒場の戸をくぐると、先に到着していた3人が、席から手を振ってくるのが見えた。
「ヴィル、何を飲むんだ?酒は飲めるよな?ちなみにおすすめはこの麦酒だ。香りがフルーティーでうめぇんだ」
「ブラー、あんた酒の話となるとほんと楽しそうよね。私はこのプラムの果実酒で」
「俺は蒸留酒しか飲まん」
各々が飲む酒を決める。わからない酒もあるので、ブラーのおすすめを頼んでおいた。人数分の酒がテーブルへとやってくる。
「それでは、ヴィルの新たなる門出に!」
「「「「乾杯!」」」」
ブラーは冷えた麦酒を一気に、アウラは果実酒を上品に、ニーグは琥珀色の蒸留酒を妙に様になった様子で、それぞれ飲む。ブラーに倣って、麦酒を一気に飲む。華やかな麦酒の香りとのど越しが駆け抜ける。これは旨いな。
それからは頼んだ料理をツマミに、宴会は大盛り上がりだった。名物のキノコ料理の突き出しをはじめに、揚げた芋、ピリ辛のスパイスで味付けされた肉などが続く。
特にこの店の名物、チーズの料理は絶品だ。さらっとしたチーズソースで肉とキノコを煮たシチューに、チーズのリゾットなど、どれもチーズのうまみがしっかりと感じられる。
やがて、この中だとあまり酒に強くないアウラが絡み酒を始めたあたりで、また飲もうと約束をして、宴会はお開きとなった。
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