Chapter 4

 俺はアルジェントの街から徒歩で3日ほどの森の中に来ている。徒歩で3日といっても、ルフスの速度と踏破性能をもってすれば3時間とかからなかった。

 朝食後にすぐ街から出発したので、時刻はまだ昼の12時といったところだ。


 昨日の説明によれば、ギャザラーの仕事には、依頼型の魔石納品と常設型の魔石納品の二種類があるらしく、依頼型は依頼書に書かれたターゲットを狩猟するタイプ、常設型はいつでも納品を受け付けているタイプらしい。

 依頼型は危険なモンスターの駆除なども兼ねていることから、対象が指定されているとか。




 今回は常設型の魔石納品を目的に、この森へとやってきた。とにかく今は金が欲しいので、生態系を破壊しない程度にモンスターを乱獲しようと思っている。


 ルフスの生体センサーを起動して、周囲のモンスターを走査する。表示設定をある程度以上のものに限定し、ルフスで走りながら、光学武装で仕留めていく。仕留めたモンスターはAIで構造解析しながら魔石を傷つけないよう手早く取り出し、死体はそのままにして次へと移動する。


 同じ場所で狩りすぎると生態系に影響が出る他、死体が密集して何らかの病気が発生する可能性もあるので、長距離を移動しながらの狩りだ。


 狼型のモンスターの他、げっ歯類型、大型のネコ科型、熊型などのモンスターがいたが、どれも光学武装で1撃だった。

 20体ほど狩猟したあたりで狩りを切り上げようとしたところ、センサーに巨大な生物の反応があった。全長15mほどの生物のようだ。


「カエ、センサーの情報を参照して、データベースにあの生物のデータがないか調べてくれ」

<先日ギルドで収集した情報の中に、対象と推定されるデータがありました。個体名アースドラゴン、縄張りから出ることはめったにないものの、重量のある危険な生物であり、人が襲われて死亡した事例の報告もあります。主食は鉱石で、体内で鉱石を魔術変換して、体表を合金で覆う性質があるようです>

「なんだその生態は、聞いたことないな。あいつは狩っても周辺の生態系に問題はないのか」

<若干の影響はありますが、街への危険性を考えると駆除が妥当です>

「確かに、街から3日の距離に危険生物がいるのはマズイ」


 よし、決めた。アースドラゴンを討伐するか。


 ルフスの速度を上げてアースドラゴンの前へと躍り出る。アースドラゴンがこちらに気づいて顔をこちらに向けた刹那、光学武装を起動して頭部を攻撃する。頭部と眼部に命中したようだが、頭部は表面の金属に、目も瞼の金属に阻まれて、ダメージがなかったようだ。


 光学武装が通じないモンスターは初めてだ。アースドラゴンは攻撃されたことに腹を立てたようで、巨体の重量に任せて突進してきた。ぶつかってはひとたまりもない。ルフスを全力で動かして、ホバー機能も使い突進を躱す。周囲の木がメキメキと折れながらなぎ倒される。


 顔以外の体表部分に光学武装が通じる気がしない。


 どうやらアレを使うしかなさそうだ。すれ違った勢いのまま、アースドラゴンと距離を取る。


「カエ、コンバットモード起動、前方マイクロミサイル待機」

<コンバットモード起動。対象、アースドラゴン。前方マイクロミサイル射出待機>


 数十メートルほど距離を取り、アースドラゴンに向き直る。アースドラゴンがゆっくりとこちらに向き直ってゆく。完全に向き直ったところで、頭部を狙う。


「前方マイクロミサイル、発射」

<対象、アースドラゴン頭部。前方マイクロミサイル、発射>


 ルフスの前方に8門ある発射口から、マイクロミサイルが発射される。


 ミサイルはまっすぐ進み、全弾アースドラゴンの頭部に命中した。周囲に爆風が吹き荒れ、土くれでアースドラゴンの姿が搔き消える。


 トドメを刺せた確証はない。じっと土煙に目を凝らす。数瞬ののち、土煙の中からアースドラゴンが飛び出る。こちらへとまっすぐ突っ込んでくるその頭部は、少し傷ついてはいるが、大したダメージはなさそうだ。


 こちらにはもう、マイクロミサイル以上の火力がある装備は、ない。


 コンバットモードの思考速度を維持したままアースドラゴンの突進を躱す。そのままルフスの全速力で、アースドラゴンから離れる。先ほどのマイクロミサイルで警戒したのか、アースドラゴンは追いかけてくることはせず、逃げ切ることに成功した。




 アルジェントの街へと帰る道すがら、さっきの戦闘の反省点を考えている。


 根本的な問題は、火力不足だ。現状の最大火力では、あの装甲を剥がすことができない。

 何か、高火力な兵器を用意しなくては。そのためには、兵器を落ち着いて製作するための拠点が必要だ。

 現状の資金を考えると……あの方法しかないか。可能なら一軒家を購入したかったんだがなぁ。戻ったら安い土地を探すか。


 帰りも数時間ほどでアルジェントの街へと到着した。一旦ギルドへと向かい、魔石の換金をした。全部で6000ペクほどになった。1度に魔石で稼ぐ額としては多いが、バイクでどこからか安く仕入れていることにしてごまかしておいた。


 同時に、街から歩いて3日ほどのところにアースドラゴンが縄張りを作っていることも、ギルドに報告した。

 移動時間に矛盾ができるので、情報源は魔石の仕入れ先から聞いた、ということにしてある。詳しい話を聞きたいのでしばらく待つように言われた後、ギルドの奥の応接室に通された。


 応接室で待っていると、5、60代と思われる、白髪をオールバックにして丁寧に撫でつけた男性が入ってきた。妙な威圧感がある、戦闘の実力がある人物に違いなさそうだ。


「初めまして、私はギルドアルジェント支部支部長、アルバートだ。君がヴィル君で間違いないかな?」

「あぁ、俺がヴィルで間違いない」

「早速だが、君が聞いたというアースドラゴンの話をしてくれるか?もちろん、君の商品の仕入れ先とやらを詮索する気はない。ただ、アースドラゴンが街の近くに住み着いたとなれば危険だ。詳しい情報が欲しい」

「俺が聞いた話では、街の北西徒歩3日ほどの位置にアースドラゴンの縄張りができたらしい。アースドラゴンの体長は15mほど、表皮はチタンのような金属装甲だったそうだ」

「なるほど……本来アースドラゴンはそのような場所にいるはずはないのだが、その理由について何か聞いていたりはしないか?」

「いや、さすがにそこまでは……」

「そうか。情報提供感謝する。ギルドのほうで追加調査を行い、事実確認が出来たら、いずれ規定通り情報料が支払われるだろう。では、各所への指示もあるので私はこれで失礼する」


 そう言って支部長は退席して行った。さすがの威厳というか、少し気圧されてしまったな。要点だけさっさと聞くあたり、有能なのだろう。


 あとから来た職員に案内され、応接室をあとにする。


 ギルドのメールカウンターで連絡をチェックする。1件メッセージがあるらしい。アウラ・ニーグ・ブラーの3人から連名のメッセージで、2日後なら全員予定が空くので、アルジェント中央の時計塔で正午に待ち合わせしよう、との連絡だった。

 その時間で問題ないとの返事をメールカウンターで申し込み、ギルドを後にする。


 時間はすっかり夜だ。腹が減ったし、飯にするか。




 ギルドの近くに、このあたりの名物であるキノコ料理を出す店があったので、ふらっと入ってみた。

 おすすめに「キノコづくしコース 40ペク」というものがあったので、それを注文してみる。この場所に来て初のコース料理だ。

 内容は、針水晶茸のきんぴら、黒メノウ茸のスープ、サンストーン茸の炊き込みご飯、ムーンストーン茸のソテー、バライト茸のチョコレート、針鉄鋼茸のドリンクだ。


 まずは針水晶茸のきんぴらから。白くて細いキノコが細切りの生姜ときんぴらにされている。細いキノコは繊維質な触感の歯触りがよく、きんぴらにされているがそれに負けないキノコのうまみがある。触感の小気味よさが最高だ。

 次は、黒メノウ茸のスープ。コリッとした歯ごたえがたまらない黒いキノコと、卵を溶いた濃厚なとろみのある暖かいスープだ。不思議な歯ごたえと出汁の風味が口の中で調和している。

 ご飯ものはサンストーン茸の炊き込みご飯。素晴らしく香りのいいキノコのスライスが、香ばしい匂いのするごはんに触感の良い根菜類と一緒に混ぜてある。ごはんを一口、口に含むと、調味料の香ばしさと根菜や歯ごたえのあるキノコの食感とともに、とても良い香りが鼻腔を刺激する。

 ご飯ものを平らげると次はメイン、ムーンストーン茸のソテーだ。白くて見た目にも綺麗なキノコが、厚く切って動物性の油脂でソテーされている。噛みしめるとキノコのうまみ、動物性のうまみ、海藻のうまみが複雑に絡み合い、味覚をしっかりと満足させる。肉厚なキノコの食感もしっかりとした弾力があり、キノコ自体の味・香りも高いレベルでまとまっている。

 デザートはパライト茸のチョコレート。キノコ型を模したチョコレートだがはたして、食べるとキノコの香りと甘味が絶妙に調和している。見た目にも味覚にも楽しい一品だ。

 最後は針鉄鋼茸のドリンク。一見柑橘類のジュースだが、どうやら細かくしたキノコが混ぜてあるようだ。コース料理を味わってこってりしていた口の中がすっきりとする。


 当然、キノコ類含め、食材はすべて天然もの。価格は少し張るが、それ以上に大満足の味だった。このあたりでキノコの養殖が盛んなのも、低価格の理由だろう。


 旨い飯を食べて、いい気分だ。宿に戻って、明日は拠点のための土地探しと行こう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る