Chapter 3

<起床推奨時刻になりました、覚醒を開始します>


 カエの判断により、体が強制的に覚醒される。頭はすっきりしている。十分に休息できたようだ。


 とりあえず、この惑星の情報を集めることを第一目標として行動しよう。そして、そのためには足りないものがある。


「金が足りない。魔石はあと2つしかないし、どうにかして稼ぐしか。モンスターを殺して魔石を取ればなんとかなるかもだが、魔石の価値もモンスターの分布もまだわからないし、どうしたものか」


 ひとまず、朝食を摂るか。身支度をし、階段を降りる。1階に食堂が併設してあり、3つある朝食メニューから1つを選んで食事できるようだ。どれがどんなものかわからないのでひとまず1番上にあったメニューを頼んでみる。


 茹でた卵・焼いた肉・サラダ・パン・ドリンクのシンプルなメニューだ。1つずつ食べていくか。サラダは天然の新鮮なものだ。天然由来の食品はやはり旨い。卵も天然由来のたんぱく質の不均一さが素晴らしい。ドリンクを飲んでみる。あ、これ合成アミノ酸ドリンクだ。アミノ酸の分子鎖が均一すぎる。たぶん魔術とやらを使ってアミノ酸を生成して作ってそう。パンいってみるか。大体天然っぽいしふっくらしているけど、ところどころ合成の味が……なんか不自然に分子が細かい気がする。メニューに成分調整小麦粉使用って書いてあったけど、そういうことか。最後、焼いた肉。豚っぽい味がするけど、ところどころ油脂が足されている気がするな。天然の肉に魔術で油脂を添加したようだ。


 ここの住民はたぶん、体内ナノマシンがないから、分子レベルの細かい味覚を感じないのだろう。それと、もう一つ。魔術で合成されたと思しき食材についてだが、合成された分子は分子量が小さいか、分子量が大きいものを切断したものしかなかった。あまり複雑な分子操作はできない理由があるのかもしれない。その理由はこの惑星についてのヒントにもなるし、金儲けにも使えそうだ。いずれ調査しなくては。


 結局すぐに金を稼ぐ手段は思いつかなかった。ギルドの案内カウンターで聞いてみるか。朝食を終え、宿のカウンターに伝えて街へと出る。




 歩いて10分の距離にあるので、ギルドまではすぐだ。入ってすぐに、正面にある受付・案内カウンターへ向かう。


「おはようございます、なにかお困りでしょうか?」

「たしか、フランさんだったか。実は今仕事に困っていてな。給与方式でなく、なるべく即金で報酬を貰える仕事がいいんだが」

「ギルドカードをご提示いただけますか?……ヴィル様ですね。他国出身とのことですが、見たことのない鎧をつけていらっしゃいますし、軍事や戦闘に関するなにかしらの経験がおありでしょうか?でしたら、ギャザラーのお仕事を目指されてはどうでしょうか。ギルドの設立理由にもなった、立派なお仕事ですよ」

「そのギャザラーというのは、どんな仕事なんだ?」

「端的に言えば、魔石を集めてギルドに納めるお仕事ですね。モンスターは攻撃的な種類も多いですが、ギルドとしては安全面には最大限の配慮をしておりますし、その分、報酬額は大きいです」

「なるほど」


 この惑星で最初に会った3人はギャザラーだったようだ。そう考えると、安全面に対する不安がすごいが、自分向きの仕事であるのも間違いないだろう。現状未知の物質エーテルは、この惑星について唯一のヒントなので、それを生成するモンスターの調査が必要だと思っていたところだ。


「ギャザラーの仕事をしようと思うが、どうすればいい」

「でしたら、ちょうど本日この後より登録講習がありますので、そちらを受講されてみてください。講習内容の筆記試験後、適正検査を受けていただいて、問題がないようでしたら、ギャザラー登録をさせていただきます。ご案内はこちらになります、お時間までに会場にお越し下さい」

「ありがとう」

「こちらから提案したので申し上げにくいのですが、ギャザラーの試験は、経験がある方でも合格率が低い試験です。頑張ってくださいね」


 ギャザラー登録講習と書かれた冊子を受け取った。まぁ、カエも使えるし、何とかなるだろう。少し時間があったので、資料室でカエに解析させる情報を集めつつ、開始時間を待った。




 開始時間になったようなので、会場に向かう。

 3階にある会議室が会場だった。仕事柄だろうか、大体は軍事経験の気配がするような人ばかりで、男女比もだいぶ男性の方が多い。


「えーそれではギャザラー登録講習をはじめます。この仕事は、今や生活に欠かせない技術となった魔術の、燃料となる魔石を供給する、非常に重要な仕事であり、また魔石の安定供給というのはギルド発足時の組織理念でもあります。ギルドにおいて最も重要な職務といっても過言ではありません。各自その自覚をもって職務に励んでください。それではまず各自、机の上にあるテキストの確認を……」


 テキストをパラパラとめくり記録し、あとはカエに任せて、興味のない部分は適当に聞き流しながら講習を受けた。探索時に関する話はほぼ斥候のそれであったので、改めて聞く必要のないものがほとんどだったが、2点、モンスターに関する部分と魔術に関する部分が興味深かった。


 モンスターとは、体内に魔石を持つ生物の総称だ。ほとんどのモンスターは生息域が固定らしく、自身の生息域から外に出ることはないらしい。

 よって、魔石採取のためにターゲットにするモンスターを決めたら、生息域に向かえばある程度確実に狩ることができるそうだ。その際、弱いモンスターしか出ない地域だからと油断すると、群れたモンスターに遭遇してけがをする事故もあるので、注意するように言われた。

 また、やはりというか、狂暴で大きいモンスター程、大きくて質のいい魔石が獲れる傾向にあるようだ。

 あまり強くないモンスターを養殖する試みも始まっているが、生息域外での養殖は大変難しいようで、コストの観点からも、今のところ狩猟による魔石供給が主流らしい。


 魔術については、いくつか便利な魔術道具が開発されていて、それらはギャザラーの必需品らしい。

 基本的に魔術道具は媒体となる貴金属などに紋章が刻まれたもので、魔石を紋章に当て、燃料とすることで使用する。

 物理的な損傷の他、何回も使用をすると媒体がひずんでいき、最終的に使い物にならなくなるそうなので、注意が必要らしい。中には1回で使い切りのものなどもあるらしく、そういったものはコンパクトで持ち運びやすかったり、強力なものだったりするようだ。

 また、緊急時に、その場にある岩などに刻んで、岩を媒体として使用する紋章があり、それらをいくつか教わった。


 講義が終わり、その後に内容の確認と、教養の試験としてのペーパーテストがあったが、内容はすべてカエが記録しているのもあり、特に難しいこともなく合格した。

 どうやら他の受講者にとっては難しい試験だったようで、50人ほどいた受講者のうち、ペーパーテストを通過したのは5人だけだった。自分とここの住民では知識レベルの開きが大きいのも、自分がすんなり合格した理由だろう。




 最後に、適正検査があるので、1階の演習場に案内された。要は、モンスターを狩猟する能力があるかの試験らしく、実際にモンスターを1匹、狩らされるようだ。


 受験者は各自近接武器を用意して会場に集まっていた。まぁ、大抵のモンスターなら武器無しでも今着用しているコンバットスーツだけで何とかなるはずだ。

 一応、コンバットスーツから緊急用装備の高周波ナイフを取り出しておく。


 モンスターとの戦闘試験は、ペーパーテストの成績が低い順に行われるらしい。つまり自分は1番最後とのことだ。


 1人目の試験だ。モンスターはこの惑星に来て最初に遭遇したあいつ、フォレストウルフだった。剣で挑んでいるが、相当苦戦している。傷をもらいつつ、無理やりに剣を当てに行ってなんとか狩猟、という感じだった。


 2人目も似たような感じで苦戦していた。3人目は弓の使い手らしく、金属製の複合弓を装備していた。場所との相性が悪かったが、3射目でどうにか接近される前にフォレストウルフを仕留めていた。


 4人目の、盾と剣を持った銀髪の女性はなかなか良かった。盾に魔術が刻んであり、盾でフォレストウルフを受け止めた際に魔術を発動、トゲのようなものを出して、一撃でフォレストウルフを仕留めた。鮮やかな手並みだ。


 いよいよ自分の番だ。高周波ナイフを構え、演習場の中央に立つ。試験官の合図とともに、檻からフォレストウルフが飛び出す。


「カエ、コンバットモード起動」


<コンバットモード起動。対象、フォレストウルフ>


 周囲の時間の流れが遅くなる。まっすぐこちらへと飛び込んでくるフォレストウルフが見える。

 体内AIによる高速処理によって引き延ばされた体感時間の中、高周波ナイフを強く握りしめ、コンバットスーツの人工筋肉を起動する。

 スーツの圧倒的な出力で一気にフォレストウルフへと接近すると、AIによって視界に表示されたガイド線に合わせるように、フォレストウルフの首筋へと、一気にナイフを突き立てる。高周波の圧倒的な切れ味によって、さしたる抵抗もなくナイフはフォレストウルフの首筋へと吸い込まれていく。そのままナイフを下へと切り払い、勢いで突っ込んでくるフォレストウルフを躱す。

 後ろを確認すると、致命傷で痙攣しているフォレストウルフが倒れていた。


<状況終了。コンバットモードを解除します>


 コンバットモード直後の若干の疲労感の中、スーツへと高周波ナイフをしまう。試験官が試験終了の合図を告げ、戦闘試験終了となった。




 結果、試験に合格したのは、自分と4番目の銀髪女性の2人だけだったようだ。二人で登録の説明を受け、ギルドカードにギャザラー登録を印字された。

 説明が終わり、解散となったところで、銀髪女性が話しかけてくる。


「私はペトラ、これからよろしく、同期さん」

「ヴィルだ、これからよろしく頼む」

「さっきの短剣の扱い、すごかったわ。せっかくの同期なんだし、お互いに情報交換をするためにも、連絡先を交換しない?」

「あぁ、交換しよう。俺はこの土地に来たばかりでいろいろ疎くてな。わからないことも多いから、教えてもらえると助かる」


 同期とメールの番号を交換した。この手の知り合いは多いほうがいいからな。ペトラと別れの挨拶をし、そのままギルドのメールカウンターに向かった。アウラ・ブラー・ニーグからの返事はまだないようだ。


 今日の講習によると、ギャザラーはギルドのカウンターで魔石と紙幣を交換することができるらしい。手持ちの魔石はそのままでは使いにくいので、紙幣にしておいた。


 時刻はもう夕暮れだ。腹も減ったことだし、その辺の飲食店で飯でも食ってから宿に帰ろう。手持ちの資金は心許ない。明日はギャザラーの仕事をして稼がなくては。

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