死の間際

「イエス様。僕は何を間違ったのでしょう」

 足元にじわじわと拡がっていく鮮血を眺めながら、ダリアは独りごちた。

「兄を愛したこと? 逃げるように兄から離れたこと? 心当たりがありすぎます」

 口の端が持ち上がった。こほっと咳をすれば、一筋の赤が顎を伝った。

「でも僕は、愛に挫折して、人生に敗北して己を殺したのではないような気がするんです。なんというか、もっと……」

 片膝で体を支えきれなくなり、横になる。

「これが僕の愛なんです、イエス様……この鮮血が。兄には伝わらないだろうけど。でもいいんです。僕は愛に死ぬんですから」

 キリスト像は静かにダリアを見下ろしていた。彼もまた、死ぬその瞬間を永遠に固定されていた。イエスも痛みを感じていただろう。

「初めてあなたの気持ちが分かった……」

 薄れゆく意識の中で、ダリアは深い充足を感じていた。

「愛はこんなにも痛いんだ」

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