もう一つの道

 ダリアは祭壇に近づいた。

「イエス……私はあなたを愛している」

 彼は胸の十字架のペンダントを握りしめた。

「なのに、僕は同性愛者なのです。あなたはそのことを許してくださるでしょうか」

 十字に架けられたイエスは何も言わない。ただ慈悲深い視線を前に注いでいる。

「僕はあなたに、あなたへの愛を証明したい」

 ドォムの笑顔が頭をよぎった。ダリアは頭を振った。彼にまた会いたいのは事実だ。でもまた会ったら、今度こそ離れられなくなる。彼と共に永遠に暮らしたいと思ってしまう。この恋情を振り払うために、僕はイエスを利用しているのかもしれないとちらと思った。

「僕は殉教者になります」

 信仰心の薄いドォムなら、何を馬鹿なことをと言うのかもしれない。僕は彼のそういうところが好きだった。僕は弱いから、神を、イエスを愛することが心の支えなのだ。そのことを許してくれるね、ドォム。

 ダリアは顔を上げた。しばらくイエスの像に視線を注ぎ、それから聖堂を出ていった。

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