1-23 <通天閣からの景色(6)>

「あ、ここか。

ホントに履物屋やな」


ユウタが商店街の入り口にある、履物店の前で立ち止まると言った。


「そう。

おもろい、ってか、なんか不思議な感じよね。

履物のお店とジャズのCD屋が同居してるなんて、ね」


マキが応える。


通天閣本通商店街に入ってすぐのところにある履物店。


店の前と中にはたくさんの草履や下履き、下駄や靴が並んでいる。

一見、ただの履物屋。

しかし店の横側から覗くと、CDがぎっしりと詰まった棚がある。


この店は、履物屋であると同時にジャズレーベルも運営しているのだ。

その自己レーベルのCDを中心に、ジャズのCDをこの店の一角で販売している。


ヨーロッパのジャズ演奏家を中心に、海外・国内のさまざまなアーティストの演奏をおさめたCD。

このレーベルを通じてブレイクしたアーティストも多い。


ユウタが、店の横側の出入口にはまっているガラス窓から、CDの棚をそっと眺める。

マキはそのユウタのおそるおそるした様子を後ろから見ていて、思わず手の甲を口に当て、くすっ、と笑った。


「入りたい?」


「・・・うん、いや、ちょっと入りにくいな・・・。

入ったら、なんか買わなきゃいかん、って雰囲気やしな・・・」


「・・・せっかくやし、買ったら?」


「買わんわ。

オレは衝動買いはしない」


「あはは」


「マキは入ったことあるんか?」


「一度だけね。

CD買ったよ」


「ふうん。

どうやった?」


「よかったよ。

ヨーロッパ系のピアノトリオやったけど、きれいやったな」


「へえ。

オレもなんか買おうかな」


「衝動買いはせえへん、って今言ってたやろ!」


二人は笑い合った。


商店街を進んで、マキとユウタは通天閣の真ん前にたどり着いた。

ユウタが塔を見上げて身体をそらす。


「・・・やっぱ、目の前に来るとデカいな」


「やろー」


マキが自慢げに言う。


「けどさ、上る前にまず昼めしやな」


「そやね!」


「マキ、食べたいもんあるか?

オレはなんでもええぞ」


「新世界っつったら、やっぱ串カツやろー!」


「そやな」


通天閣の立つ周辺には、串カツ屋が何軒もある。

二人はもそのうちのひとつの店に入った。

大阪では知らない人のない、有名な串カツ屋だ。


「この店、入ったことないなー。

だいたいあたし通天閣来るとき、串カツ屋とか入ったことない気がする」


「そっか。

・・・そもそも、なんでマキはそんなに通天閣が好きなん?」


「それは、まだ!

展望台に行ってから話すわ」


「じらすなあー」


「じらしてるわけやのうて。

展望台に行ってそこで話したほうが、ちゃんとわかるから!」


「はいはい、わかった」


ユウタは両手を頭にのせて上を向いた。

上には秋晴れの青空が広がっている。

マキが、そんなユウタを見てまた、おもしろがるようにニヤニヤする。


12時を過ぎていたので、店内はけっこう混んでいた。

並んで待たされたが、そこはせっかちな大阪人のこと。

15分もすると席が空いた。

二人は店の奥の二人席に案内された。

オーダーは、その店でいちばんスタンダードな串カツのセットと、そしてマキのおすすめでどて焼きを二人とも。

ドリンクは、ユウタはコーラ、マキがジンジャーエールを注文した。


ドリンクはすぐ運ばれてきた。

マキとユウタは、それぞれのジョッキを持ち上げて乾杯した。


「オレの初『通天閣詣で』に!」


「んと、あたしはひさしぶりの、そしてユウタと初めての『通天閣詣で』に!」


カチン、とジョッキのグラスの音が鳴る。


ユウタがグラスに口をつけながら言った。


「・・・やっぱ、雰囲気的にはアルコール飲みたくなるけどな」


「ふふっ、そうやな」


マキも、笑いながらジンジャーエールの入ったジョッキに口をつけた。


「意外と、こういう店にいてもマキ、違和感ないな」


「そら、ないに決まってるやろ!

だいたい、あたしなんて大衆の家庭そのものの出やで。

金持ちでも貴族のお嬢様でもなんでもあらへん」


「ま、それはそうかもしれんけど、そういうことやなくてさ・・・。

ってか、マキって、意外にすごくしっかりしてるやん。

しつけよく育てられた、っていうか?」


「え。

意外かー?

あたし、そんな見た目チンピラに見えるんかー?」


「いや、そういう意味やなくて・・・」


二人がしょうもない会話をしているうちに、串カツが運ばれてきた。


「おー!!

これぞ串カツ!

大阪ー、って感じや!!」


「あはは。

確かに。

大阪の食いもん、って感じやな、まさに」


二人は1本ずつ串カツを平らげていく。


「・・・大阪人って、チーズとちくわ、好きよな」


チーズちくわの串カツをかじりながらユウタが言う。


「ああ、そうやな。

大阪といえばちくわ、みたいなもんやし。

練り物好きやから。

大阪人のソウルフードみたいなもんやな。

チーズも練り物みたいなもんやし」


「チーズは練り物とちがうやろ!」


「ちゃうけど、まあ似たようなもんやん」


「似とらんわ!

でもうまい」


「ほんま、うまいな」


二人の話題はDJのことに移った。


「・・・岡ちゃんって、いいなあって思って。

DJの腕前もすごいし、あんなふうに福祉の仕事も楽しそうにやってるし。

マイペースでDJ活動続けながらさ・・・」


「ああ、本当に。

オレらも岡ちゃんみたいのが目標かな」


「うん、そやな」


約1時間後、二人は串カツを食べ終わると店を出て、ふたたび通天閣の下に来た。


下から見上げると、通天閣の真下にあたる部分の天井には、西洋の城などのような天井画が描かれている。


「・・・意外な感じやな。

外観とマッチしてない、というか・・・」


「そんなことあらへん!

このチグハグさが通天閣や!」


「なるほど・・・」


ユウタが神妙な顔で、マキの言うことにうなずいた。


「展望台へはね、ここから入るの!」


マキが、通天閣の真下にちょこんとある、まるで箱のような展望台入口を指さして声を上げた。


「一回地下に降りるのか」


「そ。

そしてまた上がる!」


「ふふっ、なんでや?

これも通天閣、って感じか」


「ユウタもわかってきたやん」


「ははっ」


平日の午後にもかかわらず、すでにたくさんの人の行列ができていた。

地下階にある、展望台の入場券販売口。

そこへと続く通路に並ぶ行列に、マキとユウタもしたがって並んだ。


「すごいな行列。

いつもこんな並ぶのか」


「まー、大阪を代表する観光地のひとつやからね。

あたしが一人で行ってたときは、そんなに人がいない時間帯が多かったから、こんなに並んだことはあんまないけどね」


「ふうん」


二人はチケットを買って、そのまま行列に並んで待ち、円形エレベーターで2Fへ上がった。

その2Fにも、長い行列が。


並んで少しずつ進みながら、マキとユウタは通路途中にある「キン肉マンプロジェクトアーカイブコーナー」の展示を眺めた。

キン肉マン原作者の原画の複製、数々のグッズが展示されている。


「キン肉マンはそんななじみはないけど、それでもアニメとか、原作まんがも観たことはある。

なつかしいな」


「うん、あたしも」


展望台行きエレベーターを待つ間に、マキが話した。


「通天閣はね、あたしたちが最初に入った建物が、いわゆるエレベーター棟。

あたしたちが最初に乗った円形エレベーターが、この建物やね。

これは通天閣の塔自体とは別の建物やねん。


で、円形エレベーターで2Fに上がって、そこから入ったのが通天閣本体。

2Fと、ショップとかが入ってる3Fのビルが、本体の下部分。


そして、その3Fまでのビル部分から伸びている鉄骨のタワー部分が、外からみんなに見えている通天閣。

地上の入口から地下に降りて2Fに上がる円形エレベーター部分と、本体のタワー部分は別々の造りになっとるんよ。

エレベーターも別々やから、それで2Fで乗り換えなあかんの。


でもね、こういう別々の造りになっとったから、それがかえってよかった。

耐震工事・・・正確には『免震化工事』っていうんやけど、それにすごく好都合やったんやて」


「なんで?」


「免震化工事は、タワーの足のついてる部分、つまり1F~2Fの部分に対して行われたのね。

けど実際に地震が来たら、タワーの上部分と下の部分で揺れ方がちがうもんなんやて。

そやから、もし地上から展望台まで1本のエレベーターを通してる構造やったとしたら、地震でエレベーターが途中でこわれたりする可能性が出てくるの。


でも通天閣は、2Fまでのエレベーターが別棟になってて、本体のエレベーターは2Fよりも上にあるから、タワーの1Fと2Fの間の『脚部』って部分に免震層を加えれば、エレベーターの安全性を確保できる。

・・・ってことで、免震化工事にすごく適した構造やった、ってわけ!」


「マキ、おまえすごいな。

通天閣のことならなんでも知ってそうやな・・・」


「なんでもは知らんよ!」


それでも、マキはユウタにそう言われてまんざらでもなさそうに、人差し指で鼻をこすった。


「そうか、何度もエレベーター乗り換えたり、通路を延々待たされたり、なんでこんな構造なのかと思ったけど。

そんな造りになってるメリットもある、いうことやな」


「そのとおり!」


やがて、やっと展望エレベーターに乗る番が回ってきた。

係員に案内されて、二人は大勢の人々とともにエレベーターの内部に入った。

展望台へのエレベーターは意外と小さい。

20人も入らなそうに見える。


ドアが閉まる。

エレベーターが動き出すと同時に、中の明かりが消えた。


ネオンのようなビリケンさんの映像が、室内のあちこちに映る。

上部にあるモニターには、通天閣を外からとらえたさまざまな映像が流れている。


エレベーターは上昇を続ける。

鉄骨の組まれた中を速いスピードで突き抜けていくのが、ガラス窓を通して見える。


音楽が流れてきた。

R. シュトラウス「ツァラトゥストラはかく語りき」。

映画「2001年宇宙の旅」のテーマ曲、といったほうがわかりやすいかもしれない。


この壮大な音楽は、通天閣のスケール感とは釣り合わない。

場違いに思える演出に、ユウタは思わず吹き出しそうになった。

笑いをこらえながら見ると、マキもとなりで笑いをこらえた表情でこっちを見ている。


・・・だよな、とユウタは思った。

そりゃ笑うよ。

大げさすぎるだろこれ・・・。


音楽が終わると同時に、エレベーターの中が明るくなり、ドアが開いた。

5Fの展望台に着いた。


展望台は360度の窓ガラスだ。

大阪の景色が、その向こういっぱいに広がる。


マキがパッと明るい表情になって叫んだ。


「わあー!

やっぱ、通天閣やわー!!」


「・・・おおー。

すごいな。

意外と高いんやな、あんな向こうまで見える」


「そうやねん。

意外と高さあるねん」


二人は、出てすぐ、展望台の中を見回しながら歩いた。

そして、窓に駆け寄ると、外を眺めた。


「これ、天王寺動物園だよな」


「そう!

こっちは東方向やから、そのとおり!

このパネルに方角とか書いてあるよ」


「おお、ほんとだ」


ユウタは方角と、その方角にある代表的な地点が記された写真パネルと実際の風景を見くらべながら、深く息を吸った。


「・・・きれいだな、大阪も」


「え?

そりゃそうに決まってるやん!

きれいやで、大阪!」


「ほんとだな・・・」


ユウタとマキは、それ以上声も出さず、しばらく大阪の広がる街並みを見下ろした。


マキが、外の景色を見ながらユウタに言った。


「・・・あのね。

あたしさ、今までここに来るときは、いつもひとりやった。

だれも、友だちを連れてきたこともない。

・・・だれかといっしょに来たのは、ユウタが初めて」


「そうか・・・」


ユウタは、いささかこそばゆそうに付け加えた。


「・・・光栄やな」


マキが、こちらもちょっとはにかんだ表情をしながら返した。


「光栄やろ?」


二人は黙って、窓の外を眺めた。


しばらくすると、ふたたびマキが話し始めた。


「・・・あたしな、大阪に来て最初のころ、さびしかったねん。

だれも知ってる友だちおらんかったしな、心細くて。

それで、ある日、なんとなく通天閣に行ってみよう、って思って、やって来た。

それが最初。


それから、ときどきここに来るようになった。

なんかさみしかったり、元気なくなったり、どうしようもない気持ちになったときは、ひとりでね。


それで、こうやって大阪の景色を上から眺めてるとな、いろんなもんが見える。

いろんな街があって、いろんな建物があって、いろんな人がいろんな生活をしてて・・・。

そんなのを見てるとな、なんか元気になってくる気がしてくるねん。


もちろん、今は最初のころとちがって、友だちもできたし、DJもするようになって、楽しいことは増えてきてる。

けど、そうなってからも、たまになんか来たくなるときがある。


ユウタと出会ってからは、しばらく来てなかったけど、逆にユウタとならここに来てもええかな、って急に思ったの。

やから誘ってみた」


「そういうことやったんか。

ありがとう。

うれしいよ、誘ってくれて」


「ううん。

・・・でもユウタと来れて、よかった。


通天閣って、あたしには元気のもと。

もちろん、東京スカイツリーとか東京タワーとくらべたら、たいしたもんやあらへんかもしれんけど、あたしにとってはかけがえのないもんや。


やから、あたしにとって大事なここを、ユウタにいっしょに見てもらいたかった」


「うん」


ユウタは静かにうなずいた。


「・・・もう、今あたしは最高の気分!」


そう言って、マキは、うーん、と思いっきり背伸びをした。

ユウタは、そのマキを見て愛おしそうに微笑んだ。


二人は、展望台をぐるりと歩いて、それぞれの方角から景色を眺めた。


「生駒山か」


「そ!」


「・・・こっちは六甲山」


「あたしの地元!

さすがに実家までは見えないけど」


「ああ。

いつか、マキの地元にも行ってみたいな」


「ほんま?

いつでもおいで!」


「・・・いつでも、って・・・。

まあ、今度計画立てよか」


「うん!

それと、あたしはユウタの地元にも行きたいんやけど!」


「東京か?」


「あたし、まだ行ったことないからさ。

来月、DJで行くけどね。

今回はたぶん観光してるヒマとか、そんなにないっぽいし。

それよりなにより、あたしはユウタの生まれ育った街が見たい!」


ユウタは照れくさそうに、ふふふっ、と笑った。


「いつでも行けるぞ。

マキが行きたいときに」


そう言って、ユウタはマキの手をつないだ。

マキは不意のことに、どきっとして顔を赤らめる。


「・・・あ、あ、ありがと・・・」


マキは続く言葉を探しあぐねて、とっさにユウタに訊く。


「・・・ねりま、やっけ?」


「ああ、練馬区。

23区の田舎みたいなとこだけどな、オレは好きだ」


「田舎いうても、東京やからな、やっぱ都会なんやろうなあ・・・」


「そうでもないぞ。

今住んでる天下茶屋も、商店街とか練馬に雰囲気よく似てる。

なつかしく感じてな。

だから住む場所にあそこを選んだところもある」


「そうなんや・・・」


二人はガラス窓の前の手すりにつかまって、眼下に広がる六甲山の方角の風景をしばらく眺めた。


急にユウタが言った。


「マキ・・・」


「なに?」


「ほんとに福祉の仕事目指すんで、ええのか?」


「ええよ。

そう言ったやん!」


「・・・でもさ」


ユウタが、ちょっとためらいがちにマキに言う。


「・・・ん?」


「クロさんが言ってたぞ。

もしマキがプロDJを目指すとしても、それだけの実力のある子や、って」


「・・・あ、あはは。

それはクロさんのお世辞やろ」


「いや、クロさんはまじめに言ったと思う。

・・・オレも同感だ」


マキは手すりに片手をかけたまま、下を向く。


「マキ、ホントにええんか?

いや、マキが福祉のことにすごく関心があるし、向いてると思うって、きのうオレも言ったのは、確かにそのとおりに思う。


・・・けど、マキはDJとして、実際すごく能力があるとも思ってる。

だから正直なところ、マキ自身がプロDJになることに本当に未練はないのか、それが気になってな。

マキが仕事として、本当に自分が好きでやりたいことをやるのが、マキ自身のためやと、オレは思うから」


マキは少しの間黙ったままだったが、やがて顔を上げてユウタを見た。


「・・・正直言うとね。

あたし、自分でもわからんところもある」


そして、何か言おうと口を開きかけたユウタを制するように、続けた。


「・・・けどな。

あたしには、あたしにできることがある、そう思うてる。

それは、DJもやってて、同時に福祉のことにも興味があって、そういう世界を知ってるってこと。

もしかしたら、そういうことがみんな、いろんなことにつながってて・・・。


やから、こうやってユウタとも出会えたし。

アリヤや、アズミや、そしてユカリちゃんや、七未ちゃんや岡ちゃんにも出会えた。


なんかあたしの人脈って、DJと福祉の両方に足を突っ込んでるからこそできた、ってそう思うのよね。


どっちつかずかもわからんけど、そんなふうにさ、両方やってることが、たぶんあたしにはすごくいい作用になってるんやと思う。


そこはユウタも同じかもしれんけど、ユウタはもっと専門家肌ってゆーか。

心理学をちゃんと勉強してるし、DJもあたしみたいに感覚派やなくて、論理的にすごく追求してるやん。

TRAKTOR使うっても言ってるし!」


「・・・おい、それはまた別の話だろ」


「ううん。

ユウタはもっと、何事も専門的に、論理的に極める派よね。


あたしはそういうタイプやないけど。

やから、ユウタと出会えたってのは、すごくラッキー。

あたしにはないものを持ってる人に出会えた、ってことでもあることやし」


そして、マキはまた頬を赤らめながら言った。


「・・・ユウタ、やさしいしね」


ユウタも、照れながらマキを見て、


「マキ、いっしょにやっていこう。

どんなかたちにしろ。

オレはずっとマキの支えになりたい、もしなれるなら。

オレにとっても、マキは支えやし」


「うん。

ありがと」


マキとユウタが見つめ合ったとき、マキのスマホのバイブが鳴った。

マキはトートバッグからスマホを出すと、画面を見た。


「あ!

七未ちゃんや」


そしてLINEを開くと、心底うれしそうな表情になった。


「七未ちゃん、決心ついたみたい!

施設、行くことにしたって!」


「そうか。

よかったな」


マキはスマホから目を離して、ユウタをあらためて見る。


「まだ、これからやけどね。

すべてとんとん拍子に行くとは限らん。

それはわかってる。

けど、これはほんの小さな一歩かもしれんけど、七未ちゃんにとっては大きな一歩や!」


「それ、アポロか・・・」


するとマキは、突然ユウタに抱き着いた。

ユウタがびっくりして、思わず口走る。


「お、おい。

人に見られるぞ・・・」


マキは片頬をユウタの胸につけながら微笑んだ。

そして、小さくつぶやく。


「ええよ・・・。

見られても、かまへん・・・」


ユウタは、マキの気持ちを察したように、マキを両腕で抱きしめた。


「やっぱりマキは、人の気持ちを動かす才能があるな・・・」


「・・・え?

それ、どっちの意味?」


ユウタは、マキの青い髪をなでながら、そっと言った。


「・・・両方」


通天閣の展望台の片隅。

何人かの人が二人を見ていたが、もうそんなことは関係ない。


マキが不意に顔を上げて、笑顔でユウタに懇願するようにささやいた。


「また来よう、二人で・・・」


秋の午後、3時過ぎ。

日差しは少しずつ夕暮れに近づいている。


ユウタとマキは、抱き合いながら窓の外を眺めた。

おたがい、相手のあたたかさを自分の身体に感じながら・・・。

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きみとあたしでB2B おんもんしげる @onmonshigeru

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