1-15 <チャレンジド・ピープル(3)>
就労継続支援B型事業所を見学する日。
その朝。
マキとユウタは、見学する就労継続支援B型事業所に行く前、大阪メトロ天王寺駅で待ち合わせた。
地下鉄の駅改札を抜けて地下街のB2Fに入ると、比較的大きなカフェがある。
ここは、地下2階にあって目立たないせいか、いつの時間帯に行っても座れるというメリットがある。
価格も安い。
天王寺駅は、御堂筋線から谷町線への乗り換え駅だ。
本来ならここで乗り換えて真っすぐ行くところだが、朝早めに出て、そうせずに途中下車してこのカフェに寄ろう、と言い出したのはマキだ。
DJタイムの内容の最終確認をしたいというのが、その目的だ。
というのも、マキがそうしたいのにはわけがある。
お客さんは障がいのある人がメインだ。
特に精神障がいを持つ人が多い。
彼ら彼女らが、マキとユウタのプレイする音楽にどんな反応をするか、まったくの未知数だ。
そもそもDJやDJのプレイ自体に興味を示してくれるか、それさえもわからない。
だから、みなさんに興味を持ってもらえるように、何か「しかけ」を考えたほうがいいんじゃないか。
そのためのアイディア出しをしたい。
そうマキは考えたわけだ。
「・・・それは、確かにマキの言う通りかもしれんな・・・」
ユウタはそうつぶやくと、両腕を組んだ。
見つめると、マキはテーブルに両ひじをついて、両腕で頬づえをつきながら思案顔をしている。
「・・・なんかいいアイディア、ないかな?・・・」
ユウタが思いついて、
「えーと、DJ体験にゲーム要素を取り入れる、ってのはどうかな?」
「・・・ゲーム要素?」
「ハウスミックスよりもさ、スクラッチ、バックスピン、エフェクトをかけるとか、効果が派手でウケがよさそうなものを重点的に体験してもらう、ってことさ。
そのほうが、やってる本人も楽しめる。
・・・そう思わんか?」
「なるほど・・・。
でもさ、あたしスクラッチとかあんまりうまくないし、ようやらんわ・・・」
マキが戸惑ったように言った。
ユウタは、両腕を組んだまま少しの間考えた。
「・・スクラッチは、オレの担当にするか。
オレもあんまりうまいわけではないけど。
・・・ってか、そもそもマキ、このとき司会やろ?
利用者さんから質問攻めに遭うとかも、じゅうぶん考えられると思うんや。
きっと、それでいっぱいいっぱいになるぞ。
やから、マキは司会に専念する。
実技はオレ担当。
・・・ってほうがよくないか?」
「確かにね。
それ、あり得るわ。
じゃ、その分担でお願いしますー!」
マキはそう言ったものの、少し沈黙した。
「・・・でもな、もしかしたら・・・」
「ん?
・・・もしかしたら?」
マキが、ちょっと何かを期待するかのように笑顔になって、ユウタを見つめる。
「もしかしたらな、実は利用者さんたちがミックスに興味を持ってくれるかもしれん、そんな気もするんよね・・・」
「・・・そのココロは?」
ユウタがちょっとおどけた様子で言う。
マキは目を丸くして、まじめな表情で応えた。
「・・・そのココロ?
そのココロは・・・
ミックスすれば、みんなミックスして、なかよくなれる、って感じ?」
ユウタがぷっ、と吹き出して笑う。
「あはは!
マジにかけたか!」
マキがぷくっ、とちょっとふくれた。
「・・・ええやんー!
だいたいさ、ユウタがそんな大阪人的に振ってくるとか思わんかったから、準備してへんかったし!
・・・でも、あたし的にはこの答え、けっこうええと思うたんやけどなー・・・」
ユウタは笑いながら言う。
「・・・いや、あかんとは言うてへん!
おもろいって。
マキのボケは、いつもサイコーにウケるわ!
なんでおまえは、いつもそんなにおもろいんや!
・・・マキ、今みたいな感じで司会もやれや。
絶対みんなにもウケるぞ!
まちがいない!!」
笑い転げそうなユウタの姿を見て、マキはますますぷくっとする。
「・・・んー、なんかコケにされてる気がするなー。
ま、ええわ。
ユウタのありがたいアドバイスは参考にするわ。
でさ、ほんならさ、利用者さんがミックスやりたい、って言ってきたら、そんときはそんときで臨機応変に対応変える。
・・・そういうことでええ?」
「ええと思う。
これで決まりや!」
マキが一転して、遠くを見つめるような視線で目を輝かせながら言った。
「・・・どうなるんかなー。
なんかワクワクやなー」
ユウタもそんなマキを見つめて、うれしくなった。
「そやな」
と言った。
谷町四丁目駅。
マキとユウタは、それぞれDJコントローラーと、モニタースピーカーを入れたバッグを片手に持って、注意深く地下鉄の車両を降りた。
待ち合わせ場所の、3番出口方向の改札に向かう。
改札前は広い通路になっていて、十数名の人数でも集合できるぐらいのスペースがある。
そこに男女入り混じった、明らかに大学生とおぼしき10人ぐらいの集団がいる。
ゼミの学生たちだ。
「マキちゃーん!」
その中の一人の女性が、こちらに向かって元気よく手を振って呼びかけている。
マキの顔がぱっと明るくなって、こちらも思いっきり手を振った。
「ユカリちゃーん!!」
マキはユウタに向かって、
「ユカリちゃんや!
いっしょに行こ!」
と言うや否や、ユウタの空いているほうの手を引っぱって、ユカリたちのほうへ駆けていく。
「お、おう・・・」
ユウタは、モニタースピーカーが揺さぶられ過ぎないように注意しながら、マキに引っ張られていく。
「マキも、コントローラー気いつけろよ」
「わかってるってー」
ユカリの他に、もう二人、女性と男性がいっしょに手を振っていた。
マキは、ユカリの前に着くとユカリの両手を取って、
「わー、ユカリちゃん、元気ー?
ミオちゃんも、ダイトくんもー!」
といっぱいの笑顔で叫んだ。
ユカリも、とてもうれしそうな笑顔で、
「うん、元気ー!
マキちゃんも元気そうやねー!」
とマキとつないだ両手を上下に振りながら言う。
ミオとダイトも、マキたちに近づいて喜び合う。
ユカリは、肩ほどまで長い黒髪の上に、麦わら帽子をかぶっている。
服装は、紺のブラチューブトップの上に、白いカーディガン。
ベージュのアンクルパンツ。
あずき色っぽいほのかな赤みを帯びたライトグレーのウォーキングシューズ。
そして、ユカリの美しく端正な顔立ちは、とても賢そうな印象を与える。
確かにマキが言った通り、非の打ち所のない「完璧な女性」という感じだ。
もう一人の女性、ミオはすらりとしたスレンダーな容姿。
赤いTシャツとデニムという、スポーティーなコーデ。
ボーイッシュで活発そうな子、という印象。
ダイトは、白のTシャツの上に水色の半袖シャツ、チノパン。
短髪を小ざっぱりとまとめた、いかにも大学生らしい好青年といった感じだ。
マキが手を離してユウタを紹介しようとした。
その前にユカリは察して、
「・・・ユウタくんね?」
と言った。
「そう!
こちらが岡野雄太くんです!」
マキが自慢げに紹介する。
ユウタはいささかはにかみながら、それでも笑顔で、
「はじめまして。
マキのDJ仲間の岡野雄太です」
ユカリはにっこりしてお辞儀しながら言った。
「島波友佳理です。
よろしくお願いします。
お会いするの、楽しみにしてました。
マキちゃんから、ユウタくんのお話はいつもうかがってます。
マキちゃん、ホントにユウタくんのことを信頼してるようなので」
それから、両側に立つミオとダイトの二人を交互に見ながら、
「それから、こちらがミオとダイトくん」
ミオがにっこりしてあいさつする。
「はじめまして、中村美央です。
わたしもお会いするの、楽しみにしてましたー!」
そしてダイト。
「はじめまして、若宮大翔です。
ぼくも楽しみにしてました。
よろしくお願いします」
ユウタは、
「こちらこそ、よろしくお願いします。
ぼくも楽しみにしてました」
と言ってから、マキに小声で、
「・・・マキ、ユカリさんたちにオレをどんなふうに説明してるんや・・・。
気になるわ・・・」
とつぶやいた。
マキはすずしい顔で応える。
「んー、普通に印象とかー、二人でやってることとかー、話してるだけやけど?
まあ、信頼してる、ってのはその通りやで!」
そして、マキはユカリ、ミオ、ダイトの3人のほうに向き直ると、
「先生は?」
と尋ねた。
ミオが、スマホの時計を見ながら、
「10分ぐらい前に本町駅通過した、ってLINE来たから、もうすぐ着くんやないかな?」
と言った。
そう言っている間に、向こうから小走りに歩いてくる中年男の姿が。
武田先生だ。
短めの髪の上にライトブラウンのマニシュハットを被り、白の半袖襟付きシャツ、グレーのカジュアルパンツ。
小脇にベージュのジャケットを抱えている。
垢ぬけていて、さわやかな印象だ。
学生たちの前にたどり着くと、少々息を切らしながら、
「みんなー、すみません!
乗り換えに手間取って、ちょっと遅れてしまいました!」
話しやすそうな感じだな。
先生の様子を見ながら、ユウタは思った。
マキがユウタを武田先生に紹介する。
「先生、こちらが岡野雄太くんです。
ユウタ、武田先生」
「あー、こんにちは。
社会学専攻の教員の武田文雄です。
初対面早々に遅刻してしまって、失礼しました。
森本さんからお話、伺ってます。
まじめで信頼できる人だと森本さんから聞いていますので、とても頼もしく思ってます!
きょうはよろしくお願いします」
「岡野雄太です。
いえいえ、そんな・・・。
こちらこそ、きょうは見学に入れていただいて、ありがとうございます。
よろしくお願いします」
「きょうは森本さんとDJしていただけるということで・・・。
ぼくもなかなか見る機会がないことだから、楽しみです!」
お互いにあいさつを交わした。
B型事業所に向かうまでの道すがら、ユウタがマキに言った。
「・・・マキは、いい先生と友だちに恵まれてるな」
マキはさりげない感じで、
「まあねー。
このゼミ取れたのはラッキーやったと、今でも思う」
「そうやな。
ゼミでは今までにはどんなこと、やって来たんか?」
「そやなー。
高齢者と、障がいのある人、それから子どもとか、未成年の人たちにどんな支援が必要か、ってこととか。
実際にこんな支援をした、っていう事例とか。
こんな支援をした結果、こんな気づきがあった、とか、こんな課題も新たに見つかった、って話とか。
・・・いろんなこと学んでるよ、すぐには全部話せんくらい」
マキが、このゼミで学ぶこと、先生やゼミの友人たちをいかに大切に感じているか、ユウタにもそれがよく伝わってきた。
おそらく、それはただの勉強ではない。
人間として成長していくうえでも大切な知識や知恵なのだろう。
就労継続支援B型事業所に到着した。
ビジネス街の中にあるビルの5F。
5Fへはエレベーターがある。
ゼミ生と武田先生、10人ほどは全員エレベーターに乗れた。
「もし車いすの人がいたら、全員一度には乗れないですね」
ユカリが言った。
ユウタは思った。
さすがユカリちゃん、よく気がつくな。
武田先生が言った。
「そう。
この周辺のビルは、大企業のビル以外、ほとんどがこのサイズぐらいのエレベーターのようですね。
もっとせまいエレベーターも多いです。
だから、この周辺のビルの上にある福祉施設はみんな、車いすの人が入るとそれでいっぱいになってしまうか、そもそも車いすの人は入れない、ということになるわけ。
そんな現状を改善していくことも、これからの社会には喫緊の課題だということだね」
5Fに着いてエレベーターを降りると、目の前に事業所のドアがあった。
ベルのようなものはない。
ドアを武田先生が開けた。
「こんにちはー。
難波大学、武田ゼミですー。
見学にまいりましたー。
おじゃまいたしますー」
武田先生がよく通る声で中に向かって呼びかけた。
「はーい」
と中から声がして、まもなく一人の女性職員がやって来た。
「武田先生!
こんにちはー、お待ちしておりました!」
中年の女性職員は、明るい様子で返事する。
そして、武田先生とゼミ生たちを中に迎え入れた。
彼女は小郷さんという名前だった。
この事業所の「サービス管理責任者」、つまり所長とも言うべき立場にあるということだ。
「今までにない機会ですからね、DJさんが実演してくださるなんて!
本当に楽しみです!」
小郷さんは、息子さんがヒップホップ好きで、そのためDJにも興味があるようだという。
「なんや、DJの機械、買ってくれってせがまれてるんですけどね。
でも、息子もどれがいいか、迷ってるみたいなんです。
わたしも、どれがいいかなんてわからんですから・・・。
そんな相談にも後でちょっと乗っていただければ・・・」
「もちろん、いいですよ。
ぼくらでよければ」
ユウタがすぐに応えた。
マキはユウタにそっと耳打ちした。
「ありがと!
やっぱ頼りになるねー、ユウタがいると」
「マキ、当然おまえもいっしょに相談乗ってやるんやぞ」
「そやっけ?」
事業所の中は、片側が大きな窓の、明るい20平米ほどもあろうかという部屋。
入るなり、ユカリが思わず声を出した。
「わあー、けっこう広いね」
ミオもうなずいている。
中にはもう二人、職員がいた。
一人は、30代くらいの女性の職員。
もう一人は、もっと若い男性職員。
二人も、みんなにあいさつした。
職員はみんなうすいピンク色の襟付き半袖シャツを着ている。
制服らしい。
若い男性職員は三角さんと言い、この春から入社したばかりなのだという。
彼は学生のころ、クラブにときどき遊びに行ったことがあるということだった。
「今回のDJ、ぼくもすごく楽しみにしてたんです」
うれしそうに語った。
もう一人の女性職員は堂島さん。
クラブに行ったことはないが、音楽はJ-POPからクラシックまで、大好きなのだそうだ。
自分でもウクレレをたしなむらしい。
「わたしもとっても楽しみです。
わたしはたぶん聴いたことのないジャンルなんで、なおさらです」
部屋の中、窓と反対側に長テーブルが2列に並べられており、そこに6人ほどが座って作業をしていた。
この人たちが利用者たちだろう。
みんなを見ると、全員が声をそろえて、
「こんにちはー!」
とあいさつする。
若い人は20歳くらい、いちばん年配の人は50代くらいだろうか。
男性が多いが、女性も20代、40代くらいという人が二人。
年齢層は幅広いようだ。
部屋の真ん中にもう一つ長テーブルが置かれていて、電源の延長ケーブルが下まで伸びていた。
これがDJ用だろう。
「あれやね」
マキが指さして、ユウタに小声で言う。
ユウタはうなずいた。
武田先生がマキとユウタに声をかけた。
「じゃ、森本さん、岡野くん、DJの荷物はそこに置いてください」
そして、ゼミ生全員と小郷さんに言った。
「では、まず事業所の見学をします。
・・・小郷さん、見学の案内をお願いできますか?」
小郷さんが案内してくれた。
室内をゆっくりと歩きながら、ゼミのみんなを導いた。
「ここの事業所は2年くらい前にオープンしました。
当初は利用者さんも3~4名くらいだったんですが、その後だんだん増えて、今では15名を超えました。
それで近々、北浜にも2号目の事業所をオープンする予定になってます」
「ほう、すごいですね。
なかなか人気ですね」
武田先生が言うと、小郷さんが、
「やはり、障がいのあるかたで就労したいというご希望を持つかたが、それだけ多いのだな、と感じさせられます。
障がいのあるかたの就労支援をする施設は、就労継続支援B型、A型、就労移行支援と全部含めると、かなりの数が存在しています。
だけど、実際の当事者のかたのニーズとは、必ずしも一致していない事業所も多いのでは、と思うことがたびたびあります」
「・・・と言いますと?」
武田先生が尋ねた。
小郷さんは、
「・・・というのも、今入所していらっしゃる利用者さんには、それ以前にも別のB型事業所や、A型事業所に通われていたというかたが少なからずいらっしゃいます。
で、前に通っておられた事業所がご自分の求めるものとちがっていた、合わなかった、というかたも多いんです」
「なるほど」
「わたしたちの事業所も、さまざまなニーズにできる限り対応できるように努力してます。
できる作業の種類も増やしてますし、職員のサポートも質をよりよくするよう、改善を続けています。
可能な限り、利用者さんの求めるものには対応するよう、工夫をしています」
武田先生はうなずきながら言った。
「いろいろとご苦労もおありのようですね。
・・・みんな、質問があれば遠慮なくどうぞ!」
ダイトが質問した。
「具体的には、ここではどんなことを利用者さんができるのでしょうか?」
「はい。
比較的難易度の低い軽作業、たとえば部品の組み立てやねじなどの袋詰め、それから、ネットショップでの販売用に食品の袋詰め作業があります。
また、パソコン作業をご希望のかたには、Excelへのデータ入力作業、イラストやLINEスタンプの制作、ブログ記事の執筆やホームページの簡単な更新、といった作業がございます」
「それぞれの作業を、利用者さんは一つだけ選んでやっているのでしょうか。
それとも、複数の作業をされている感じですか?」
ミオが真剣な表情で尋ねた。
「複数を兼任していらっしゃる利用者さんがほとんどですね。
どの作業も、始終切れ目なく入ってくるものではありませんので、ある作業が終わって次回分が入ってくるまでは、別の作業をされる、というケースが多いです。
たとえば、組み立てや袋詰めと、データ入力を兼任とか、イラストとブログ記事を兼任、といったような。
ホームページ系に関しては、ブログ記事とホームページ更新を兼任とか、イラストとホームページ更新を兼任、といったかたちで、実質的にホームページ関連の作業に専念されている利用者さんもいらっしゃいます」
マキが訊いた。
「利用者さんの出勤時間ですけど、まずここは月曜から金曜の10:00から15:00でしたよね?
祝日も開所している。
そして、土日は休み。
・・・これで合ってますか?」
「そうです、その通りです」
「・・・そのうち、利用者さんはどのくらいの時間、出勤されているんでしょうか?」
小郷さんが答えた。
「そうですね、半数くらいのかたが週に2日から3日、10:00から15:00まで出られてます。
月から金までフルに出られているかたが4分の1くらい。
あとの4分の1は、午前だけとか午後だけというかた、週1日だけ出勤、といった感じです。
出勤の日数や時間については、利用者さんのご希望に合わせて、自由に選んでいただいてます。
こちらから強制は一切してません。
利用者さんと職員との間で、定期的にモニタリング面談というものをしていますので、ご本人のご希望と体調に合わせて、無理のない目標を設定して、それにしたがって進めていくことにしています」
「ここから、利用者さんはどのようにして就労していくのでしょうか?」
ユカリが尋ねた。
「・・・そうですね。
まず、ここで安定してフルタイム勤務ができている利用者さんには、就労継続支援A型事業所に移っていただく、という道があります。
A型事業所は別の法人になりますけど、弊社と連携している事業所が複数ありますので、まずはそこを紹介することが多いです。
ここでやっている作業とほぼ同じものができますので、すんなり移行できると思います。
もちろん、それ以外のA型事業所を希望される場合も、しっかりサポートいたします。
それともう一つ、就労移行支援事業所に移っていただき、企業などへの就労のための訓練を本格的にしていただく道もございます。
それと、ここから直接企業などに就職していただく道。
これはあまり例が多くないですが、あることはあります。
以前、障がいのあるかたの雇用実績のある企業の社長さんが見学にお見えになって、そのときにある利用者さんの働きぶりをご覧になって、大変気に入られて。
そこから面接へと話が進んで、採用に至ったという例がございました。
いずれの場合も、ご本人の希望、体調、スキルなどをふまえて、面談でよく話し合って、ご本人、事業所側の双方とも納得できるかたちになるよう、進めています」
ユカリは、真剣な表情で小郷さんを見つめながら、
「そうですか。
ありがとうございます。
・・・それで、お尋ねしたいんですが、実際のところ、A型事業所や就労移行支援事業所に行った例を除くと、企業などへの就職に至った例は何%ぐらいなんでしょうか?」
と尋ねた。
「・・・えーと、すみません、最新の正確なデータはまだ出していないんですが、だいたい20%から30%、といったところだと思います。
多くない数字に感じられるかもしれませんが、他のB型事業所よりは高い数字だと思います」
学生たちが、少しざわついた。
「・・・それくらい、障がいのあるかた、特にここの場合は精神障がいのかたが多いですが、そういうかたの就職率、ということになると、まだまだ厳しいのが現状です。
一般の企業は、どうしても効率を重視しますからね。
障がいのあるかたの雇用に二の足を踏んでいる企業も、正直まだあります。
もう少し、いろいろと柔軟な働き方が普及していけば、こうしたかたがたが就労することも、もっと増えていくと思うんですけどね・・・」
学生たちはみんな、なるほど、と言ったり、うなずきながら話を聴いていた。
マキがユウタに訊いた。
「・・・どう?
ユウタは質問、ないん?」
マキは何か言いたそうな表情だ。
ユウタは思った。
マキが何を言いたいか、それはわかってる。
「・・あるよ。
あるけど、それはDJタイムのときまで、とって置こうと思う」
マキが目を見開いて、
「ん?」
と言う。
ユウタは、まじめな顔で応えた。
「たぶん、オレらがやってるDJみたいなことと、すごく関係してると思うからさ」
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