第029話 会 談(ルミナス)
「――驚かせて悪かったね」
ヴィオレ・ヴァル・ヴォレイグと名乗った男性が、にこやかな表情で右手をさしだしてきた。
俺は、とまどいながらも息を整えると、その手を握り返して自分の名前を伝えた。
「アーシェス・
「ファルターク君だね。どうぞよろしく」
男性は、俺をミドルネームで呼んだ。彼らにとっては、それが一般的なんだろうか。
「まあ、立ち話もなんですから……」
俺は、
二〇人ほどが
えっと、それで何から話せばいいんだっけ? いや、違った。話があるといったのは向こうだ。いやいや、お客さんなんだから、まずはお茶を……竜はコーヒーを飲むのかな? それとも紅茶のほうが……うん、とりあえず落ち着こうか。
そんなことを考えていると、目前の
「あ、ごめんごめん……どうぞお構いなく、と言いたいところだけど――そうだな、紅茶をいただこう。ここの紅茶は
……やっぱり
というより今、この
「もしかして、以前もここに……ラースガルドに来られたことがあるんですか?」
「あるよ。昔はちょくちょく遊びに来ていた。最後に来たのは、一万年くらい前だったかな」
一万年前? じゃあ、それ以前からずっと生きている?
「生きている? うん、まあ、『生』と『死』ということで表現すれば、そうなるのかな。そもそも私たちには『死』という概念がないんでね。数千年に一度、
「では、
「もちろん。私たちと彼らは、言ってみれば兄弟みたいなものだからね」
ふいに、セラフィーナの言葉が
――この宇宙の大地は竜が
つまり、同列の存在。
「端的に言うと、そうなるね」
紫色の髪をもつ
ワゴンに乗せてティーセットを運んできたマルガが、ワゴンの上で紅茶をカップに注いだ。モニカとマルヴィナが、それを慣れた動作でそれぞれの前に置いた。
男性はカップに口をつけると、
「……うん、やっぱり美味しいね」
と満足そうな表情を浮かべた。直後に、
「すみません、
「かまわないよ。それから、私のことはヴィオレと呼んでくれていい。敬称もいらない」
「では、ヴィオレ。
ヴィオレはにこりと笑うと、
「私のほかに四人いる。私がその
それを聞いたエレオノーラが、派手にカップを皿にぶつけた。わかるよ。緊張するな、というほうが無理だものな。
「ありがとうございました。それで、お話というのは?」
カップをテーブルに戻して俺が
「話というか、お願いかな。
今度は、俺の右側でガチャンと音がした。
横を見ると、ミランダ先輩が厳しい表情をしている。小さく
「……詳しい話を聞かせていただけますか? わからないことがあれば、お話をお伺いしたあと、改めてお尋ねします」
「うん、そうだね」
少し腰をあげてヴィオレは坐り直し、両方の
「あの
……ヴィオレの話をまとめると、こんな感じだった。
数千年前、何かの目的のために
やがて、自分たちだけではどうすることもできないことを知った
そうして時間だけが流れていき、五〇〇年ほど前、自分たちにも大きな被害を出しながら、ついに
「――五〇〇年が過ぎて、また復活したんだ。それが、今この星系にいる
ここは、俺たちですみません、と謝るべきなんだろうか。何も言わずにヴィオレが苦笑した。
「で、俺たちに
「うん。それだけの力が、この
ヴィオレが紅茶を口にする。
「どうだろう? やってもらえるだろうか?」
「……実は、昨日、俺たちも話はしていたんですよ。俺たちで
「ほう、それで?」
興味深いといった表情で、ヴィオレが続きを促す。
「問題が三つほどあります」
それは、昨夜、ミランダ先輩たちと話し合ったことだった。その三つが解決しないかぎり、俺たちは
「……一つめは、《
「! どうして、それを?」
「君の思考を読んだ。ごめん、冗談だ。あれはね、ファルターク君。使えないのが正常なんだ」
どういうことだ?
「あの兵器は強力すぎてね。聞いているかもしれないけど、使い方によっては小さな惑星のひとつぐらいは吹き飛ばしてしまう。造った
「
「そう。《
「…………」
「だから、私たちの誰かが
ヴィオレが右の手のひらを上にむけた。とたんに手のひらの少し上あたりに小さな光が出現して、やがてヴィオレの手の上に三センチほどの球体がぽとりと落ちた。
ヴィオレはそれを俺に手渡すと、
「《オーブ》という。
少し紫がかった透明の球体。まるで小さな水晶玉みたいだ。
「これで一つめの問題は解決した。二つめは?」
「あと一〇日もすると、ここに二隻の宇宙船がやってくることになっています。合流するまでは、俺たちはここを動けない」
「ああ、それはかまわないよ。今すぐ退治に行ってくれ、という話ではないから」
作戦をたてる必要もあるからね、とヴィオレは笑った。二つの問題が消えた。
「じゃあ、最後は何かな?」
思考を読んでわかっているくせに俺の口から言わせるのは、マルガと同じ意地悪なのだろうか? 後ろのほうから、誰かの咳払いが聞こえた。なんだ、そこにいたのか、マルガ。
「これは仮定の話ですが……退治できたにしろできなかったにしろ、結果的にこのラースガルドの存在が
「うん、そうなるかもしれないね」
「ですから、移動する前にこの星系でやっておくべきことが一つあるんです」
「それは?」
さきほどと同じように、ヴィオレは両方の
「惑星ファステトに埋められた、一体の
ケルンの墓の下にある
「ひとつ
「……そうです」
アルメリア教、それは
「そういうことなら、話がはやい。ファルターク君、その仕事は私たちに任せてくれないか」
「どういうことですか?」
「君たちが墓を掘るより教会の関係者がおこなったほうが怪しまれない、ということだよ」
ヴィオレが言い終えると、左のほうから小さな声が聞こえた。
「……やはり、そうなのですね?」
「どういう意味だ、セラ?」
そう
「ヴィオレ様のお名前をお聞きしたとき、そうしてそのあとでお顔を拝見したとき、ひとつの疑問が私の中に芽ばえました。なぜよく似たお名前が人類社会に存在するのかと。なぜよく似たお顔の方が、私たちの社会にもいらっしゃるのかと。ヴィオレ・ヴァル・ヴォレイグ様。そして、ヴァルヴォレイグ・フォン・アルドナリス様」
「《アルドナリス聖皇国》の
ミランダ先輩がはじめて口を開いた。
「私も何かひっかかるものを感じていた。そういうことでいいのですか?」
「うん、そういうことだよ。人類社会での私の名前は、ヴァルヴォレイグ・フォン・アルドナリス。いまはたしか二〇七代目だったかな。
紫色の髪をもつ
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